アルケディウスとの連絡を終えた後、私達はヒンメルヴェルエクトの大公様達に謁見を申し込んだ。
本来だったら、今日がお別れの晩餐会で、明日には帰国しなければならないのだけれど魔王降臨のドタバタで最後の宴会のメニュー作りとか、孤児院の子ども達への対応とか丸っと一日寝こけてしまったから。
皇王陛下から、数日延長滞在して構わないと言われている。でもやっぱり大公家が許可をだしてくれないといけないと思うのでそのお願いとかをするつもりだったのだ。
面会を申し込み、促されたのはプライベートルームではなく、大広間。
謁見の間だった。護衛のリオン、カマラ、フェイと魔術師役のセリーナと一緒に入るとビックリ。
ザザッと、揃った音がして居並ぶ大貴族、護衛騎士、オルクスさん達文官どころか、大公閣下、公子様まで、全員が、私に向けて跪いたのだ。
「え? あ、あの? なななんですか?」
「『神』と『星』と『精霊神』の寵愛深き『聖なる乙女』
この度はヒンメルヴェルエクト。いえ、世界を救って頂きありがとうございました」
「世界?」
「はい。魔王降臨の時、マリカ様が『精霊神』を降ろし、暗雲を打ち払って下さらなければ。
世界はおそらく不老不死世の前、暗黒時代のように闇に包まれた光指さぬ世界になっていたことでしょう。
お付きの騎士が魔王を食い止めて下さったことと合わせ、心から御礼申し上げます」
「あ、いえ。
私はただ『精霊神』様に身体をお貸ししただけでございます。
全ては『精霊神』様のお力ですわ」
「いえ、そうであったとしても『精霊神』を復活され、その身に降ろし、器となる『聖なる乙女』。
我々にとっては、救世の聖女であることに変わりはありません。
今までの気安い振る舞い、態度、どうかお許しを」
「止めて下さい。私は本当に『精霊』から知識と力を少し預かっただけの娘ですから、特別な力とか、聖女とかそんなことは全然無いんです」
ヤバい。
私の身体を使ってキュリオ様が何をしでかしたかは知らないけど、なんだか生き神とかそんな感じの扱いになってる。
「それどころか、魔王はもしかしたら私を狙って、ヒンメルヴェルエクトに来たのかもしれなくて。御迷惑をおかけし、公子達に危害が加えられた原因は私かもしれません。
申し訳ありませんでした」
逆に深く頭を下げると、大公閣下は立ち上がって止めて下さる。
「頭をお上げください。例えそうだったとしても、魔王に一矢を報いる事さえできずに見送ってしまった惰弱は『七精霊の子』として恥ずべき事態にございます。
今後は、公子のみならず、国全体を鍛え直して二度とこのような事にならないように。
『聖なる乙女』を守ることができるように、努力をしていく所存でございます」
「私には、アルケディウスの騎士達。
守ってくれる者がおります。ヒンメルヴェルエクトのお力は、どうぞ、国と民の護りにお使い下さい」
「……ありがとうございます」
? なんだろう。
ふと、大公閣下の瞳になんだか胡乱な光が浮かんだような気がした。
私ではなく、背後のアルケディウスの家臣たちを見て鼻を鳴らしたような?
苛立ちというか、不満というか、なんだか面白くない、という拗ねた眼差しに思えた。
私に向ける視線は真摯で敬愛に満ちていると解るだけに、なんだかモヤっとする。
見れば、大公閣下だけでなく、アリアン公子や大貴族など、大公閣下と同じような視線を向けている人がけっこういる。
私では無く、アルケディウスに対する敵意?
何故に?
「それで、この後の日程はどうなさいますか?
本日が予定であれば送別の宴でしたが、姫君からのメニューを頂いていないので延期という形で考えていたのですが、もう数日、ヒンメルヴェルエクトへの滞在して頂けると期待して良いのでしょうか?」
「はい。アルケディウス皇王陛下より、数日の滞在延長を許されております。
もし、お許しいただけるのでしたら後、三日の延長を願えますでしょうか?」
今日は、実はまだちょっと怠いので休ませてもらって、宴会のレシピの準備とか発明関係の纏めとかしたい。
明日、宴会の為のメニューの作り方を教えて、明後日は送別の宴。
その前に孤児院とマルガレーテ様に挨拶して、翌日出立とできれば私としてはベターだ。
「そうでしたな。アルケディウスは国を跨いでも即時に連絡ができる方法をもっているのでしたな。
精霊と、姫君の祝福豊かで羨ましい限りです」
あれ? また嫌な顔?
でも一瞬で消えて優しい顔に戻った。
「カレドナイトもお預かりし、注文は承りましたので、国に戻り次第ヒンメルヴェルエクトの分も製作いたします。早ければ今年中。悪くしても新年の参賀の時にお持ちしますから」
「期待しております。
それから延長の件については我が国としては何日でも構いません。
一日でも多く滞在して頂きたいというのが正直な思いですが、姫君の御都合もおありでしょうから三日というお申し出を了承いたします」
「ありがとうございます。最後までよろしくお願いいたします」
今日はお休みを頂いて体を休める。
明日予定通り、晩餐会のメニューを教えてその下準備。
夜は精霊の書物の知識の確認、交換会。孤児院にもちょっと顔を出して励ましていければいいな。
翌日の朝、晩餐会の料理のアドバイスをして、夜に送別の晩餐会。
明々後日帰国、ということになった。
色々とお世話になったし、できる限りの知識は残していきたいしお手伝いもしていくつもり。
「それから……姫君。
……失礼かとは重々承知しているのですが、お願いしたき儀が…」
「なんでしょうか?」
一通りの打ち合わせを終えた後、大公閣下が私を見て口を開く。
ちょっと、言い辛そうというか、申し訳なさそうな感じ。
なんだろう?
「本日、姫君の護衛、リオン殿を暫しお借りしたく」
「何故ですか?」
「国の者達が、彼との手合わせを望んでおるのです」
「だから何故? 達ってことは複数ですよね?」
「それは……姫君の婚約者の座を射止めるべく」
「はいーーー?」
私は横に立つリオンと視線を合せる。
ヒンメルヴェルエクト滞在、最後の最後。
この国では無いと思って安堵していた求婚攻撃がやってきた。
しかもドガン、と大きいのが。
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