【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 語られた真実 後編

公開日時: 2024年9月1日(日) 08:13
文字数:5,417

「我々から、家族、友、人間としての尊厳、挙句の果てに故郷と、人間が築き上げてきた文明全てを略奪したコスモプランダー共。

 恨んでも恨み切れない怨敵だが、同時に奴らの文明と力が今のこの星の子ども達を支えている。皮肉なものだ」


 話を聞きながらひ、ふ、み。と私は指を折る。

 アレーリオス様が語って下さったこの星の『始まり』

 それは地球を滅ぼした外宇宙からの侵略者の攻撃から生き残った能力者と、生存者であったという。

 敵のナノマシンウイルスを取り込み、自分のものにした十一人の能力者。

 そのうちここに来たのは七精霊神様達と『星』。それから遅れて多分『神』で九人。


「残りお二人は?」

「……地球に残り、居残った者達と運命を共にした。

 我々が率いてきたのはその殆どが当時十六歳以下の子どもだ。大人たちの多くは子ども達を逃がす為、ぎりぎりまで奴らの進行や追跡を阻んだことだろう」


 ……そっか。だから『精霊神』様は自分の国の住民を『子ども達』って呼ぶんだ。

 そして……


「『精霊の力』っていうのはつまり、ナノマシンウイルスなんですね?」

「そういうことになる。ナノマシンウイルスを大量に集めると固形化することは解っていた。地球に最初に飛来した隕石もそうだったのだろう。

 ただナノマシンウイルスを集めただけではただの石ころだが、我々が命じ人格を与えることで人を助ける『精霊石』となった。

『星』は元は少女でな。ナノマシンウイルスを『精霊』として生み出す時、地球で読んだ妖精などをモデルとした。以降、彼女の手から生まれる『精霊』は地球の妖精や精霊に似た姿をとるようになった。

 だが、そんなことを話して子ども達を怯えさせる必要はない。この地に渡った時に我々は子ども達にナノマシンウイルスの事は秘し、解りやすいように『精霊』『精霊石』『精霊神』として話し、受け入れさせたのだ」


 異世界転移ファンタジーだと思っていたけど、けっこうSFだった。

 この説明を理解できるのは私と、後は多分クラージュさんしかいないだろうけれど。

 リオンも完全には解っていない顔をしている。

 でもこれで異世界なのに向こうの世界とほぼ同じ野菜がある事とか、どこか似た固有名詞とか精霊古語の本の秘密は説明がつく。


 でも疑問は色々と残る。

 どうやって異世界に移住したんだろう?

 何かゲートとかでもあったのかな?

 あと、私が生きていた世界では人型精霊クローンを作るとかできなかったけれど、その後、急激に技術が進化したのだろうか?

 ナノマシンウイルスこと、精霊の力でそんなことができるようになったのか?

 

 でも、そこから先の説明は為されなかった。


「これ以上の秘密を知るには、まだお前には資格が足りない。

 続きはおそらく最後の封印が解け『星』がお前の中に入れてある記憶が目覚めた時、だな」

「まだ、資格が足りませんか?」

「今は足りない事に感謝しておくがいい。完全に覚醒した時はお前達が『こちら側』に来る時だ」


 アーレリオス様の射抜くような視線と言葉に背筋がぞくりと冷たくなる。

 背後の六人の私を見る目も、優しくも厳しい。

 つまり、知ってしまったら人間ではいられなくなるぞってことなのか。


「それに今は、情報を知るより大事な事があるだろう?」

「あ、そうです。アル! じゃあ、アルを捕られたらこちらが詰む、というのは?」

「アルは最後の『地球人』だ。

 原種のナノマシンウイルスの感染者や、その能力者ではないが、両親から受け取った最初期のワクチンが体内で変異したのだろう。我々この星にある『精霊』の力がほぼ通用しない。と思えばいい」

「精霊の力が通用しないんですか?」

「ああ。コスモプランダーの襲来から、我々が地球を離れるまで一年も無かった。

 地球では子どもが受精し、生まれるまで検証する時間は無かったが、違う能力者同士のかけ合わせによって通常を上回る能力を持つ人間。『人型精霊』が生まれることは解っている。   

 能力者だった女性の卵子と我々の精子をかけ合わせてできた存在が初代の『七精霊の子』我々が使った憑依体だ。

 ワクチンの投与を受けた地球の子ども同士で生まれた子どもも、移住当初は厳しい環境に苦しんだが、今よりも高い力を有して大地を切り開き国を作る手助けをしてくれた」


 前に、オルクスさんが『神の子ども』かもしれないと知れた時、アーレリオス様は彼らを強いけれど、弱い。と表現していた。

 それは、地球と違う環境のこの異世界に馴染みにくい、ということなのだろう。


「ナノマシンウイルスは代を重ねるごとに変化、進化するようだ。

 ナノマシンウイルスの原種を身体に入れられたのではなく、あくまでワクチンを受けた子ども達は逆に薄まっている印象だが。

 地球で受精し、この星で生まれたあの少年。

 我々の見る限りでは、ウイルスによって変異した『精霊』ではなくワクチンに守られた人間としてかなり強い力を持っている。

 他にもいた、もしくはいるかもしれないが、私達が連れてきた子ども達は既に代を重ねて原種の力が薄まってしまった。

 今の時点では、同じ力を持つ存在は、おそらくあの子だけだと思われる」


 地球で受精した、最後の地球人。

『精霊神』様達の精霊の力、ナノマシンウイルスは地球人、人間を守る為の者だったからアル本人は介入する力は無くても、この星に今ある全ての『精霊の力』はアルを守る為に働く。

 ということなのか。


「あの子どもの前ではあらゆる精霊力の封印は無意味になる。

 元よりこの地で我らが育てた精霊力は子ども達を守る為のもの。

 害する為のものではないが、仮にあの子に攻撃魔術をかけたとしても通用せず霧散する。

 結界や封印も効かないだろう」


 なんとなく理解できる。今まで幾度となく助けられてきたアルの『予知眼』

 真実を見通す瞳は、ナノマシンウイルスに惑わされず、関与されずありのままを見る事ができる『能力』なのか。

 精霊獣のステルスを見抜いたり、私達の能力について的確に判断していたのもきっとその派生。


「生まれついての自然な色の場合もあるので、全員では勿論無いが、ナノマシンウイルスの量が基本値より増加すると、あるいは増加させると髪や瞳の色に変化として現れることがある。

 人型精霊おまえらやあの子はその典型だな」


 私は無意識に髪の毛に触れる。今の私の状況は体内の『精霊の力』ナノマシンウイルスが通常よりも増大しているという事なのかな。


「だから『神』があの子を手に入れた以上、やることは決まっている。

 あの子を通じて、魔王城の結界の中に侵入し『星』のコントロールに介入するつもりなのだろう」

「『星』のコントロールを?」

「子ども達を率い、地球を離れ移住してきた能力者は九人だ。だが、そのうちの一人『神』は逸れ、我々を追い、辿り着いたのはこの地に根付いて数百年以上経ってからのことだった。

 この地で我々七人は、それぞれ子ども達をが生きる環境を整え国を作った。

 だが、『星』には子ども達の育成以上に重要な事があったので、別の土地で根を張ったのだ」


 子どもの育成よりも重要な事……。


「ナノマシンウイルス。精霊の力の精製、ですか?」

「そうだ。『星』は今も、魔王城の地下でこの地を支える精霊の力を精製し続けている。

『神』はそれを乗っ取って、地球再生の力にしたいのだろう」

「魔王城の地下?……ああ!」


 思い出した。

 昔、魔王城の宝物蔵に今まで見えなかった扉を見つけた時、アルは黒い穴が見える。と言っていた。

 私とリオンには絵のように開かない扉、フェイには靄のようにしか見えなかったけれど。

 あれは、アルならば魔王城の封印を無視して秘密を見ることができる。もしかしたら手に入れることもできる。ということなのかもしれない。


「『神』があの少年を手に入れたのなら、他の使い道は十中八九、お前達への盾だろう。

 自分にとっても大事な『子ども』であるから、身体に損傷を及ぼすようなことはすまいが、心を操作して、自分の思想を植え付け、もしくは自分が憑依する器として使って、ゆさぶりをかけるくらいのことはしてくる」


 リオンの時と似たパターンだろうか?


「覚悟しておけよ。

 次に会うあの子どもは意識を『神』に奪われた操り人形だ。

 最悪『神』が憑依している可能性もある」

「はい」


 自分達の大事な存在が、違うモノに上書きされてしまう悪夢については少し免疫もできたつもりだ。絶対に、助け出す!


「一度かけられた洗脳を解くことはできますか?」

「心、精神、魂については、私は専門外だ。ナハト」


 振り返ったアーレリオス様の呼び声に、アーヴェントルクのナハトクルム様が進み出た。

 お久しぶりだけど、挨拶をしている時間はない。


「人の意思や記憶というのは、コンピューターなどとよく似ている。いや、コンピューターが人の思考を真似たのだけれども。

 洗脳というのは、元々持っていた記憶や意識の上から新しい思考や人格を上書きするようなものだ。完全な消去はあり得ない。

 上書きされた情報を、取り去るか、元の情報を強化して復活させるか。

 今回の場合、相当『神』は念入りに上書き処理をしていると思うが、ベースとなる少年の思いは、必ずまだ残っている筈だ」


 つらつらと説明する流暢な語り口に生前(?)の彼の姿が見える。

 最初に会った時には気が付かなかったけれど、こうしてみると生真面目な、技術肌の青年に見える。きっと向こうでは工学系の仕事をしていたのかもしれない。

 ラス様は性格の悪い引きこもりって言ってたけれど、いきなり地球全滅。

 一人だけ生き残り。そして変な力を得たら、そりゃあ落ち込むよね。

 話を聞くに死者や、精神に関与する力だったらしいし。

 地球滅亡クラスの死者と向き合わなければならないとしたら、絶対に病む。

 それを乗り越えたのは、きっと支えてくれる仲間がいたからだろう。


「表層の精神にダメージを与え、内面の精神に力を与える。

 そうすることで、少年を取り戻すことは可能だろう」

「具体的には?」

「少年が現れたら捕まえて、私を呼べ。お前達には借りがある。少年の深層意識への道を開いてやろう」

「ありがとうございます!」


 前に私が元大神官フェデリクス・アルディクスに精神を操作されそうになった時と同じように心の中に入って、アルを救い出すということか。

 方法があるのなら、絶対に成し遂げて見せる。


 アル救出の目途が立った時点で、ふと、気付き、私は問いかける。

 

「私達の地球に、帰る方法ってあるんですか?」

「ない。少なくとも我々が生まれ、愛した二十一世紀の地球に戻る方法はない」


 帰ってきたのははっきりとした否定だ。

 今の話からしてそうだろうとは思ったけれど。

 少なくとも、この地に移住してきて千年以上の時が経っている。

 帰っても私達が知る何かが残っている可能性はない。

 それでも……。


「彼、『神』は帰りたいんですね」

「仮に、帰ったところで、コスモプランダーが幅を利かせ、見る影もなく変えられた故郷に、もう我々の知るものは何も残ってはいないと解っているのにな」

「数百年どころじゃない時間が過ぎてますものね」

「ああ。コスモプランダー共が闊歩しているであろうし、万に一つ奴らを斃せたとしても、残った仲間も家族も見知った者もいない。奴らにいいように変革され風景も変わっている。

 そう幾度話しても奴は考えを変えようとはしないのだ。

 子ども達を連れて、いつか故郷に帰る日を夢見ている。

 その思いは解らんでもない。我らとて、幾年が過ぎようと思い出せる。

 蒼き水の星、そこで生きた幸福な記憶は鮮明に」


 瞳を閉じるアーレリオス様。

 でも、言葉とは裏腹に見ているのは過去では無いと、私には解った。


「だが、この星に根を張り、子ども達を守り生きてきた我々は、もう戻ることはできない。

 地球の希望。

 子ども達を、地球の文化の面影を守り続けると決めている。

 いつ来るか解らないこの身の終わりまで」

「あいつはさ……」

「ラス様」


 情報を一本化する為だろうか。ずっと説明をアーレリオス様に任せて沈黙していたラス様が零すように呟く。


「先生……。残った二人のうちの一人をとても慕っていたんだ。

 おいていくのは嫌だ。死なせたくない。って最後まで暴れてた。

 最後には、本人から説得されて諦めたけれど。

 今も彼女のことが忘れられないんだ。本当にバカなんだから」


 以前、出会った『神』を思い出す。

 先生を慕うハイティーン。

 純朴なその思いは事情を聞けば理解できなくもない。

 でも、自らが守るべき子ども達や、その子孫を巻き込んだ計画はやはり止めるべきものだろう。


「ありがとうございます。

 とりあえず今は、アルの救出に全力を注ぎます」

「そうさせてくれるかどうかは解らんぞ?」

「え?」

「いや、こちらの話だ。

 我々は『人間』達の選択には基本関与しない。魔王との戦いについてもだ。

 ただ『神』に関することについては話が別。

 奴が外に出てきたら、その時は手助けしよう」

「お願いします」


 もっと知りたい事、聞きたいことはあるけれど、それはアルを助け出してからにしよう。

『精霊神』様達も多分これ以上の事を話すつもりは無いのだろう。

 周囲がぐるぐるしだした。きっともうすぐここから出される。


「マリカ」

「リオン」


 すっと差し出された手を思いを、私は握りしめた。

 知る前と、知った後。

 きっとこれから色々な事が変わっていく。

 でも、私にとって一番大事な事はきっと変わらない。


『精霊神』様達がおっしゃるとおり、この星の子ども達を守ること。

 リオンと一緒に。


 それが与えられた使命だから、ではなく。

 私が、私自身がやりたいことだから。


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