【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 精霊の力

公開日時: 2021年5月15日(土) 06:30
更新日時: 2021年5月15日(土) 18:24
文字数:4,325

 自分での自覚は今もってまったく無いけれど、私は『精霊の貴人』と呼ばれる精霊に属する存在らしい。

 そしてリオンは『精霊の獣アルフィリーガ』精霊と『星』を守る戦士。

 

 普通の人間とは違う存在だ、と言われているけれど、正直自分ではちょっと強いギフト以外、どこが普通と違うのかがよく解らない。

 よく解らないのだけれど…。



「はっきり申し上げます。

 今のままでマリカ様とアルフィリーガが、神、もしくは神の手先と見える事を私は賛成いたしかねます」


 魔王城の城の夜。

 まだ風の日だけれども、リオン、フェイ、アル、私と魔王城に戻ってきた私は、子ども達を寝かしつけた上で会議中。

 議題は神殿からの召喚命令をどうするか。だ。


 今日、ガルフの店に届いた召喚状。

 店で働く子ども達に税金を払えば、準市民としての権利を与える。

 希望する場合には子ども達を神殿に連れて来るように、というもの。


 お金で気休めでも安全が買えるなら悪い話では無いと思うのだけれども…


「やっぱり危ないと思う?」

「はい」


 城の守護精霊、エルフィリーネは躊躇なくそう言って頷いた。


「私は、今の神の手先がどのような力を持っているか存じません。

 私が直接知る神に属する者はアルフィリーガと共にこの城に来た神官ミオルと、前主の死後、城を攻めにやってきた兵士達くらいですから。

 ですが、一国の神殿を預かる者。神官ミオル並の力を持っているのであれば、お二人を見て精霊に属する者と気付く可能性があると思います」

「ミオルは将来、神官長になるかもと言われたくらいの才能と能力を持っていた奴だから、最上級の部類だと思うが…確かに同レベルの奴がいない、とも限らないよな」


 何かを思い出す様に腕を組むリオン。

 そういえば、パーティの中には神官がいたのだったと思い出す。


「神に属する人だったけれど、ミオルさんっていい人だった?」

「ああ、単純に神を信じていて、その名を通して術を使っていたから神官、っていうだけで精霊にも好かれていた魔術師レベルの力を持つ精霊術士だ」


 基本的にこの世界の魔法、魔術の源は精霊だ。

 神官も精霊術士、魔術師も、精霊を力の源に術を使う、という点においては同じなのだという。

 ただ、精霊術士は精霊に直接働きかけるのに対して、神官は神に祈り、神の名のもとに術を行使する。

 精霊術士の石が、神、であり神の力がプラスされるので似たような術でも力が強くなる傾向がある、とのこと。


「神はどうして精霊に介入できるのかな?」

「それは、俺には解らないとしかいえない。ただ『神』の力は俺達の生みの親にして全ての源『星』の力と同種のようなんだ。

 だから精霊達は神に命じられると『星』の精霊に命じられたと同じに思って働く」

「なんで?」

「俺にもはっきりしたことは解らない。ただ、神は最初、自分達も『星』に属する者だ、と言ってたんだ。

 だから、同じ『星』の眷族たる俺達に魔王を倒す為に力を貸してほしいと言っていた。

 かつてのマリカ様は、もっと詳しい事を知っていたかもしれないけれど」


 聖典には神がこの星の命と精霊を生み出したとある。

 生み出した存在に従うのは当然と言えば当然だけれども…。

 実際には精霊を生み出したのは星、なわけで…。


「あと、神の力は魔性相手に良く効くんだ。

 動きを阻害したり、弱めの奴は消したりできた」

  

 神官がゴーストとかに強いのはいつの世も同じかなあ、などと思いつつ


「つまり、高位の神官は精霊術士だから、精霊の気配を感じ取れる可能性があるってこと?」

「そういうことですね。エリセは解らないでしょうが、ある程度の高位の術者ならマリカやリオンとすれ違って、その力に驚くくらいのことはあるかもしれません」


 ぞわっ!

 背筋が怖気だった。

 もしかしてアルケディウスに高位の術者がいたりしたら、私達の正体がバレていたってこともあった?


『そこまで案ずる必要はない』

「わっ、シュルーストラム?」

『精霊を見ようとせず術と石で無理やり精霊術を行使するような愚かな連中には気付けぬ。

 気付けるとしたらフェイレベルの魔術師か、アルのように『力』を感じ取れる者くらいだろう』


 フェイの中から無理やり出て来たシュルーストラムはそう言ってくれるけれども


「ありがとう。シュルーストラム…。あ、シュルーストラムは解らない?

 どうして神が、精霊にいう事を聞かせられるのか…」

『すまぬ。それを言う権利は我らにはない』


 肝心なところは『言えない』…か。

 …その言葉を含みつつ


「ねえ、アル。正直なところを教えて?」

「何を、だ?」

 私はアルに目を向けた。 


「アルから見て、私とリオン、前はどう見えてた? 今は、どう見える?」

「言って良いのか?」

「お願い」


 現在、きっと最高レベル。

 力と未来を感じ取る予知眼は少し悩む様に目を泳がせてから


「最初は、精霊とか、意味が解らなかったから。

 リオン兄はなんだか他の連中と違うなあ。光ってるなあ、他の連中より強そうだなあ、って思ってた。

 フェイ兄は最初は普通。

 熱を出した…変生? のあとか? リオン兄と同じ光が見える。

 同じになったのか、って思った…」


 正直に、一番近くて私達を見てくれていたその思いを口にしてくれる。



「その頃から、気付かれていたのか」

「…すみませんでした。アル。本当に僕らは君を見くびって失礼な事をしていたのですね」


 二人も、私もアルに正体や事情を本当にギリギリまで口にしなかった。

 全てを知った上で、黙って私達を助けてくれていたアルの思いには本当に頭が下がる思いだ。


「別に、それはいいんだ。

 オレにとって兄貴達は命を助けてくれた兄貴であって、それが誰であろうと関係ないからな」


 寂しそうに笑うとアルの視線が、こちらを向いた。

 緑色の瞳が油膜のような虹を宿らせている。

 虹の瞳がアルの能力の切り替えだと今は、知っているけれど。


「マリカは、最初からずっとそんなに変わった風じゃなかった。

 ただ、だんだん、内側からリオン兄達と同じ光を感じて来て、完全に変わったのはマリカが大人になった時だ。

 あの後からは本当に、全然変わった」

「どんな風に違うんです?」

「外見とか見てるだけだと解んないと思う。でも凄い光が出てるんだ。多分、精霊の力?

 リオン兄は大人になった後から、その力がとんでも上がってる。

 蝋燭と精霊の灯くらいに今は違う。マリカも同じだ。

 オレは多分、大祭の祭りの中でも二人を見つけ出せる」


 アルの話を聞いて、私は口の中が渇くのを感じた。

 横を見るとリオンの顔も青ざめている。

 彼もきっと気付いたはずだ。

 アルが教えてくれた警告の意味に。


「まずったな。今まで精霊の力を取り戻し、強くなることばかり考えていた。

 隠さなきゃならないなんて、考えたことなかったぞ」

「そもそも、隠す方法ってあるのかな?」


 ここは、剣と魔法の世界。 

 魔法は私達だけが使える訳ではない。強い能力者は私達だけとは限らない。

 もし、アルと同レベルの能力者が神の側にいたら、私達は即座に怪しまれることだろう。


 今回、神殿行を躱しても、いつかどこかで誰かに気付かれるかもしれない。

 今まで力を手に入れ、高める事だけを考えていたけれど、外の世界で正体を隠して目的を達しようと思うのなら、力を隠すことを考えなければならない。

 でも、どうしたら力を隠せるのか…。

 そもそも、自分にある力の大きさも質も、何もわかっていないのに…。


「シュルーストラム。何か知恵はありませんか?」

『生憎と私はお前をフォローするので精一杯だ。フェイの力を杖と共に預かり、使う時以外は封じる。それでフェイを目立たせなくすることはできるし、している。

 だが私より力の強い二人の力を封じる事などできぬ』


 魔王城最高の魔術師の杖に匙を投げられれば、あとは本当に、これ以上の打つ手はなし、だ。色々と国を巻き込んで動き出してしまった以上、後戻りはできない。

 敵に気付かれないことを、相手の能力が大したことがない事を、祈るしかないのか。



「ねえ、リオン。そもそも私達ってなんなのかな?」

 ふと、今更ながらにそんな疑問が零れた。


「何って?」

「『精霊の獣アルフィリーガ』と『精霊の貴人エルトリンデ

 求められ、作られた存在だって言ってたでしょ。

 誰に求められ、何の為に作られ、何をする必要があるの?

 そしてどんな意味と力があって、何をしなければならないの?」


 私には未だにそこが分からない。

 自分は『精霊の貴人エルトリンデ』だと呼ばれても、何をすべきどういう存在なのか解らないのだ。

 エルフィリーネも教えてはくれない。

 ただ、自分の思うままに生きればいい。と。

 子ども達を救う為に、魔王になると決めたけれど、それをエルフィリーネも認めて喜んでくれたけれど。

 誰も『精霊の貴人エルトリンデ』はこういう存在だからこれをしろ、と教えてはくれなかった。


「…俺は、全てから『精霊の獣アルフィリーガ』として精霊と星を守る存在になる。そう言われて育ち、自分でもそうしたいと強く思う。

 でも、誰からも『こうしろ』と命令されたことは無い。

 俺は多分分類するならシュルーストラム達と同じ『星』に属する精霊になるんだと思うけれど『星』と関われたことなど数える程しかないし、会話したことなんて多分、ただ一度きりだ」

「一度?」

「俺が、殺されて肉体を奪われて大地に呪いをかけられた時、最初の転生前」



『我が愛し子よ、選択せよ。

 お前は、悔いるか? 元に戻したいと願うか?

 それとも、全てを終え『星』に還るか?』



「自分の罪なのに、それを償わない選択肢は無かった。

 あとは自分の意志の介入はできぬまま、転生と死を繰り返してる」


 結局、何もわからない、ということか。

 息を吐き出した私はあることに気付く。


「あれ? エルフィリーネは?」

 

 話に夢中になっていて気が付かなかった。

 城の守護精霊。

 私達に最初に神と会う事の警告を発したエルフィリーネが側にいないのだ。


「ホントだ。いない」

「エルフィリーネ!」


 リオンの呼び声にも反応なし。

 これは、珍しい事態だ。

 エルフィリーネはこの城、そのものなのだから城の中にいる限り、全てを把握しているといつも言っている。

 実際に、今まで彼女が私達の呼び声に応えなかったことは無いし、必要な時にいなかったことも、呼び声に反応しなかったこともない。


「一体、どうしたのかな?」

「マリカ、呼んでみろ。お前がこの城の、エルフィリーネの主だ。

 お前の声にならあいつも反応するかも」

「解った」


 頷いて私は呼びかけた。知らず緊張で声が上ずっているような気がする。


「エルフィリーネ!」


 一瞬の静寂。

 その直後

 

「きゃああああ!」「うわああっ!」


 私の意識は白転した。

 暗転では無く、白転。

 足元が宙に浮き、意識の全てが白に塗りつぶされる。

 真横にリオンの叫び声。


 遠くに

 「マリカ?」「リオン? 一体どこへ?」


 アルとフェイの焦りを帯びた声が聞こえたのが記憶の最後。



 私の意識は真っ白な闇の中へ墜ちて行ったのだった。


 軽く流すつもりだったのですが、考えてみたらすごく大事な事だったのでちゃんと書く事にしました。


 現時点で精霊の力についてマリカ達に解っているのは


「全ての源は『星』 『星』が精霊を生み出し、精霊達は『星』の命令を受けこの地に生きる全ての生き物を助ける役割を持っている」

「『星』に属する精霊達は精霊達の上司的役割。魔術師や精霊術士の杖として人間と精霊の橋渡しをする」

「神は『星』の精霊の同種と精霊達に思われている」


 くらいです。

『精霊の貴人』『精霊の獣』がどういう存在で、どういう位置にあり何をすべきものなのか、正直全く知りません。

 完全に謎が明かされるのはまだままだ先の話ですが、今回少しだけ、その謎を明かす欠片が出てきます。


 一応プロットはできてますが、そこに行きつくかどうかは本人達次第なので。

 よろしくお願いします。


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