翌日から、私達の結婚式準備は本格的に動き始めた。
リオンと一緒に改めてプロポーズを受けたこと、結婚の許しを願い出た日、お父様は
「なんだ。今更」
と苦笑しながらも直ぐに許して下さった。
中世異世界では娘の結婚を決める権利は父親にあるから、これで結婚はほぼ本決まり。
ただ、私の神殿入りの関係で王である皇王陛下からの承認が得られた正式の婚約者ではなかったので、今更だけれど皇王陛下の承認を経て、大神殿に申し出て正式な婚約を許可してもらって、それから挙式になる。
めんどくさい。
まあ、許可をする人はどちらも身内なので文句や異論は出ないと思うけれど。
その後は、フェイとアル、クラージュさん。
ステラ様やエルフィリーネなど、皆の前でもちゃんと報告する。
「やーっと、決心したのか。長かったな。兄貴」
「安心しましたよ。リオン。
このまま、ちゃんとプロポーズしないまま、流されて行くんじゃないかと」
「お前ら、俺をせっつく為だろう? ガルフ達を焚きつけてあからさまな結婚式の準備始めたのは」
「おや、気付いてましたか」
フェイはしてやったりと、いう笑みを浮かべながら
「マリカ。おめでとうございます」
私達を祝福してくれた。
ふわりと、肩にかけられたショール。風に飛んで無くなったと思っていたのに。
伝わる暖かさがフェイの思いそのもののようで嬉しかった。
「もう神殿則の改定は終わっているので、マリカは大神官のまま、リオンと結婚できますよ。形としてはリオンが、王配のようになりますね」
フェイは、もう随分前から私を大神官としてリオンと結婚できるように手続きを進めていたらしい。
不老不死が無くなったので、大神殿のトップも王族のように安定させたいという各国の利害が一致した様子。
既にオンライン会議で話は決まり、後は新年に正式な会議をしてから決定する。
私達の結婚式はその後だ。
つまり、流れとしては
魔王城から戻って準備をして、大祭の時にアルケディウスの大貴族の前で婚約式。
↓
星の二月の終わりに私とリオンと、フェイの成人式をアルケディウスで。
(本来は大晦日にやるんだけれど、私達はその後の儀式があるから早めることになるだろうという話)
↓
大神殿で新年の儀式、と国王会議。
国王会議で神殿則の改定と、大神官の結婚の承諾を得る。
↓
国王会議の最終日に結婚式。
という感じかな?
お父様は最初、私達の結婚式はアルケディウスで、と言ってたけど国王会議などの関係から大神殿で行うのを了承したらしい。
その代わり、お披露目の式典を後日行う約束をフェイから取り付けた。
「もう、あと4か月しかないのですからね、急がないと」
「そうだな。シュライフェ商会だけでなく、ゲシュマック商会だけでなく、国中の業者を動かさないと間に合わん。
あと、王族の結婚式も、俺達の結婚式以来500年ぶりだからな。儀礼の手順などを再確認しておかないと」
話が盛り上がってくるとフォル君やレヴィーナちゃんも話に混ざってくる。
「マリカねえさまのけっこんしき、わたしもでる!」「ぼくも、ぼくも!」
「子どもは普通儀式には出さないんだか……」
「私も、二人に祝福して欲しいですから、ちょっと考えますね」
私としては、魔王城の子ども達に一番に見て欲しいのだけれど、調整は難しそうだ。
でも、エリセやミルカにはフラワーガールか、ブライズメイドをお願いしたいな。
この世界の結婚式がどんな流れで行われるかは解らないけれど。
異世界流なら付き添いとかは頼めないかもしれないし。
私も、式までこの世界の結婚式について、勉強しよう。
自分の事なんだし。
お母様は、やる気満々、凄く楽しそう。
お父様も、いつになくご機嫌。
「随分、嬉しそうですね」
「そりゃあそうだ。
ようやく夢が叶う。アルフィリーガを、表舞台に出してやれるんだからな」
満面の笑みで腕を組むお父様。
「俺は、ずっとアルフィリーガを幸せにしてやりたかった。
違うな。アルフィリーガと一緒に幸せになりたかったんだ」
「ライオ……」
「いつも一人で、自分を幸せの外側に置いていたこいつが、やっと幸せになる気になった。
しかも相手は俺の娘。嬉しくない筈がない。
世界中に見せびらかしてやるんだ。こいつらは、俺の息子と娘だとな!」
以前、お父様とリオンの出会いを聞いた。
『神』に魂を奪われた時の、夢うつつの中でだったけれど、ちゃんと覚えている。
人間であろうと、精霊であろうと関係ない。
お前達には幸せになる権利があるのだと。
私とリオンに、はっきりとそう言って下さった。
なら、期間限定であっても全力で幸せになって、その姿を見せるのが親孝行というものだろう。
『今から、楽しみだわ』
「はい。マリカ様の花嫁姿が見られるなど、これ以上の喜びはございません」
うきうきと本当に楽し気なステラ様(端末子猫)とエルフィリーネ。
「準備が終わったら、魔王城に花嫁姿を見せにきますね。本当はここで式を挙げたいんですけど」
魔王城の子ども達にも、私の花嫁姿は一番に見せたい。
だけど、立場上そうはいかないから、島から出られない子達の為にも、隙間を作って転移陣で見せに来ることにした。
式典のスケジュールを作るのはフェイだから問題ないらしい。
『私は行くから心配いらないし、子ども達やエルフィリーネには中継するわ。
でも、実物は見たいでしょうから来るのは大歓迎よ』
「え? 中継、そんなことできるんですか? ステラ様に言われて、今、シュウとアルが一生懸命写真機作っているのに」
こともなげに言うステラ様に、ちょっと引いた。
そりゃあ、星を司る大母神、しかもマザーコンピューターであるステラ様なら、地球科学でできたことくらい朝飯前なのだろうけれど。
『私達が楽しむ為ならいいけどね。この星の歴史に残す為には、この星でできる科学技術でないと』
という言い分は納得。
今はまだ技術的に最新型のカメラは難しいらしい。
できるのはいいところ銀板写真タイプかな。昔漫画で見たなあ。
ゲシュマック商会は、最初に話をしていたように、全力で結婚式の祝い膳を始めとする準備をしてくれるという。
前のように結婚式の話で周囲が盛り上がっても、頭が痛くならないのは、多分私の中で確かな信頼と自信が生まれたからだと思う。
リオンを愛している事。
そして、一緒に皆を幸せにして、幸せになりたいと思っている事に。
振り返れば、そこにリオンがいる。
祝福してくれる、友が、仲間が、家族がいる。
十分だ。それ以上、望む者はなにもない。
「結婚式までは、身体を交わすのは我慢しておこうな」
「うん。そうだね」
プロポーズの後、リオンとそう約束した。
少し、拍子抜けした感じもあるのだけれど、真面目なリオンらしいし、お母様との約束もあるから文句は無い。
無いよ。本当に。
そうして、私達は魔王城と大神殿とアルケディウスを行き来しながら、成人式と結婚式の準備を始めたのだった。
この先に待つ幸せを疑うことなく。
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