私はあんまり韓ドラとか見る方じゃない。
だから大陸風の建築とかあんまり詳しくは無いのだけれど、辿り着いたエルディランド王都 ディプレースクは洋風の名前に反して実に中華風、もしはアジア風だった。
日本とはちょっと違うけれど似た感じがある。
イメージは白と朱。
木と漆喰と布で作られた家。
瓦屋根、赤を基調とした華やかで鮮やかな感じがする街並みは、横浜とかの中華街を思い出させる。
馬車が通る関係上、大通りを行くからかもしれないけれど、綺麗に敷き詰められた石畳もきっちりと敷き詰められていてとても美しい。
「アルケディウスと全然違うね? なんだか街が朱い」
と言ったのはアレクだったけれど完全同意。
いかにもヨーロッパ風だった、あ、プラーミァはインド風だったけど、今までの国とはまた、本当に。ベクトルの違う。
隣同士なのにここまでプラーミァと違うんだな、とビックリする。
街を行く人たちもほぼ全員が黒髪、黒い瞳。
ごく稀に明るい髪の人がいると凄く目立つ。
でも、好奇心を眼に宿してこちらを見る雰囲気は本当に日本を思い出してなんだか楽しくなった。
前回注意されたので、今回は最初から最後まで窓から手を振っていた市街地を抜け、貴族区画に入り暫し。
貴族区画は城で働いたりする人達や、領地を持つ大貴族…この国では王子なのかな? のおうちの様子。
小さめ、と言っても普通の民家よりははるかに大きいけれど、一軒屋が連なっている。
この辺の配置構造はあんまり変わらないっぽい。
そして貴族区画の最奥に、大きな大きな城壁に囲まれたお城があった。
「うわ~、凄い、中華のお城だ~」
そんな言葉が思わず口に出てしまうくらいの絵に描いたような中華風お城。
紅く塗られた漆喰の壁。艶のある屋根瓦。
写真でしか見たことが無いけれど、紫禁城とかそんな感じのものを思い出す。
二階も東洋建築風に朱く塗られた柱が連なる。
バルコニーっぽく見えるのは、あそこから参賀とかやるからなのかもしれない。
一番最初に見えたのはお城では無く、門であったようで馬車で通り抜け、奥の奥まで進む。
長い長い中央の道を最奥まで進んでいくのは、神社とかお寺の雰囲気によく似ている。
参道の両側には小さな建物や長い廊下の建物がたくさん見える。
神社とかだったら、おみくじを売っているような感じだけれど、あの辺は多分、使用人さんの宿舎とかそんな感じなのだろう。
城に入ってからもけっこう長い距離を走り、馬車はやっと最奥のお城に辿り着いた。
リオンにエスコートされて、白い石畳に足を付けて宮殿を見上げる。
圧倒されるような迫力。
本当に凄い。
修学旅行で見た沖縄の守礼門とかによく似た、でも比較にならないくらいの豪華さと生きて、使われている迫力がある。
「この城全体は、瑪瑙(マナオ)宮と呼ばれています。
ここはその中でも国の公式行事などが行われる太礼殿です。
どうぞ」
案内役のユン君に促されるまま、私達は宮殿の中に足を踏み入れる。
朱塗りの柱や窓枠などが目についた。
全体の基調が赤、ではな無く朱。
派手なのにどこか温かみのある色合いは本当に縞瑪瑙のようだ。
あ、だから、瑪瑙の名がついたのか。
精緻な彫刻の施された扉がすっと左右に音も無く開くと沢山の使用人がずらりと並んで私達を出迎えた。
何度やられてもあんまり好きじゃないけれど、その真ん中を顔を下げず、真っ直ぐに歩いていく。
民族衣装かな?
人々の来ている服に目が留まった。
ユン君達出迎えの人達が着ていた服は、民族衣装では無いシャツにズボンにチュニックの『普通』の服だったけれど、ここの人達が着ているのはこの国の服装のようで、中国服と和服を混ぜたような感じに見える。
右前の着物によく似た上衣に袴に見える服を男女共に着ている。
袖は長い人もいるし、短くて動きやすそうな人もいる。
色も様々だけれども、全体的な雰囲気は似てる。
制服のようなものなのかもしれない。
玄関ホールのような大広間だけれど足元に敷かれた見事で、土足で踏むのが申し訳ないような絨毯。
朱をベースに金や黄色、白で華やかな装飾が施された壁や欄間。
額装された大きな花の絵は植物紙に描かれているのだろうか?
本当に息を呑むようだ。
最奥まで進み、階段を上がると眼前に、大きな唐草模様が施された朱い扉があった。
ユン君と私達がそこに立つと
チリリン
涼やかな音と共にまた、自動ドアの様に扉が開いた。
「どうぞ。大王がお待ちです」
大きく深呼吸して、中に入る。
国王の謁見の間。
様式は完全に中華風ではあるけれど、基本はアルケディウスや魔王城と変わらない。
華やかで美しい大広間。
左右に跪く随員や、貴族達。
その最奥には三つの一段高い所が設えてあり、それぞれに人が座っておられた。
男性二人に女性一人。
私が真ん中。
一際絢爛豪華な黄金の屏風を背に、座す男性の前に進み出て、スッと頭を下げると柔らかい声が降りる。
エルディランドの大王 ホワンディオ大王陛下だ。
残るお二人は多分、王妃様とご子息だろう。
「よくぞいらっしゃいました。マリカ様。
アルケディウスの聖なる乙女よ」
「本日は、お招きくださいましてありがとうございます。
この良き日に美しいエルディランドに訪問できましたことを心より嬉しく思います。
ホワンディオ大王陛下」
膝はつかない。
対等の存在として、胸を張ってニッコリと微笑んで挨拶をする。
「おいでを今や遅しとお待ちしておりました。
届けさせたリアはお気に召したとのこと。何よりです。
『新しい味』の参考になりましたかな?」
国を治める王様とは思えない謙虚なお言葉に聞こえるけれども、その視線はやはり七国の一つをそのカリスマで納める王様。
値踏みするような、私を見定めようとするような強い力が感じ取れる。
言葉からして、ユン君が既に私が調理したことを報告しているのだろう。
「はい。とても楽しませて頂きました。
お許し頂けるなら、ぜひとも素晴らしいエルディランドの食材を、世界に伝えていきたいものです」
これは本心。
既にプラーミァでは国王陛下が豚の角煮をお気に入りで、エルディランドから醤油と酒を買うつもりだと言っていた。
あと、リアは本当に美味しかったのでアルケディウスでも食べたい。
穀物として米と小麦の両方が主食になれば、小麦も節約できる。
「それは、とても嬉しいお言葉。
まだエルディランドから派遣された料理留学生は研修中で戻っておらず。
私も国王会議にアルケディウスで振舞われた美味が今も忘れられません。
どうか滞在中にしっかりとご指導いただければ幸いです」
「微力を尽くしてお手伝いさせて頂きます」
「よろしくお願いいたします」
これで、最初の挨拶はとりあえず無事終了。
滞りなく終れそうでホッとする。
「今日の夜にはささやかな宴席を設ける予定でございます。
『新しい味』を知る姫君には物足りない事と存じますが…」
「いえ、楽しみにしております。どうぞよろしくお願いします」
壇上の上と下からの会話。
王様との謁見は、普通こんなものだろう。
ほぼ家族扱いで、王様自ら出迎えに来てくれたプラーミァと比較してはならない。
「アルケディウスには麗水殿を開放いたします。
まずは、そこでおくつろぎを。
宴で改めて妻や王子達をご紹介いたしましょう」
「お心遣い感謝いたします」
挨拶を終えて私は謁見の間を後にした。
背後に射るような、刺す様な、粘るような…視線の数々を感じながら。
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