【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 星の精霊の思い 後編

公開日時: 2024年8月15日(木) 08:29
文字数:5,528

 ずっと、ずっと一人で何百年もの間。

 自分を責めて悔いて、償いを続けてきたリオン。


「俺達にとって自殺は、最大の禁忌だ。

 選べば未来永劫、復活は許されず星の煉獄に囚われると言われている。俺の無謀な挑戦はきっと遠い自殺と思われていたのかもしれない。

 俺は死後幾度となく、煉獄に焼かれ贖罪を続けていた」


 彼はやっと話してくれた。

 今まで、自分の中にしまい込み誰にも見せることのなかった転生の苦しみを。


「『星』は人々から精霊の力の源。『気力』を得る術を失った。だから、俺がそれを繰り返す転生の中、生み出し『星』に捧げていた。『星』に生きる人々からの捧げられない力や動物達の生命力からも多少は回収できたけれど、そのままでは先細るだけ。

 俺の成果を生みだせない闘いの日々も、人の身体を持つ『精霊』が『気力』を得てそれを『星』に持ち帰るという意味では、少しは役に立っていたかもしれない」


 そうして、リオンは何百年もの間、死と転生を繰り返し。

 五百年の時を経て、私が生まれた。


「マリカ様の転生に、何故、それだけの時間を有したのかは解らない。

 ただ、マリカはマリカ様とは同じようで、全く違っていた。

 無鉄砲で、一直線で。でも、誰よりも優しくて。誰かの為に命を投げ出す事を厭わない」

「買いかぶりすぎ。私は自分勝手で、我儘で、周りの事を考えられないだけだよ」


 私のやりたいことが、子ども達を守ること。みんなの幸せであっただけ。

 でも、リオンは静かに首を横に振る。


「それでも、俺にはお前が眩しかった。守りたかった。

 平和な日々を。お前の笑顔を。だから……少しでも時間を稼ごうと『神殿』に乗り込んだ」


 大神殿に来た最初の新年。おそらく、リオンが何もしなければ、私は体内に入れられた『神の力』で操られ、『大神官』経由で『神』と繋げられもう少し早く自由を失っていたことだろう。

 まだ諸国の後押しも無かった。『精霊神』も復活していなかった。

 大神殿に一人納められ『聖なる乙女』として身体が成長するまで『気力』を奪われる日々。

 考えただけでゾッとする。


「大神官の油断もあった。『神』もおそらく動けない理由があった。

『神』が自分で動けば、俺自身が操作されていた可能性も高かったと考えれば愚かな行為だったと今なら思えるけど。結果的に俺は時間と知識の入手に成功した」

「時間と知識?」


 時間は解る。大神官を殺したことで大神殿は『神の代理人』を失った。

 間違いなく人だった神官長がどの程度『神』と繋がっていたかは解らないけれど、大神官がいた頃よりは間違いなく動きは鈍ったことだろう。

 でも、知識とは?


「精霊の知識、というのは精霊それぞれが持つ記憶情報だ。

 能力の使い方なども含まれている。

 基本的に生まれた時から。もしかしたらその前から魂と、精神と肉体に刷り込まれているものだ。

『星』は俺を案じて、成長するまで大半を封じて下さっていたけれど『神の大神官』を殺し、その体液を浴びたことで一部を得た俺は、『神』の精霊としての知識と、封じられていた記憶を知る権利を得た」


 本来なら、肉体の成長と自身の知識を増やし、精神を育てることで得られる閲覧資格をリオンは外付けの知識を増やすことで強引にもぎ取った。

 結果、私より早く『精霊』としての知識と力を得ることになる。

 それを支える肉体と精神が育たぬままに。


「覚醒直後は、成長途中の肉体が力に耐え切れず苦しかった。

 最悪自壊もあり得たくらいだ」

「大丈夫だったの?」

「フェイが通信鏡を開発してくれたり『精霊神』達が力を抜いてくれたりしたおかげで、なんとか決壊は免れた。

 今は、身体が力を支えられるだけの容量になったから問題ないけどな」


 リオンはあっさりとそう言うけど、その苦しみに気付いてあげられなかった自分が正直情けない。


「その後、俺達の所在を確認した『神』が色々とちょっかいをかけてきたのは知っての通りだ。お前に『神』の額冠を被せたり、俺に『神』の欠片を入れて俺の中の『魔王』を目覚めさせようとしたり。

 シュトルムスルフトで、国王がかなり無茶な手段に出てきたのも、多分神殿が後押しするとか唆されたんだろう。

 神官長と『神』の間にどういう経路があったのか、今はもう解らない。

 ただ、あれでも『神』が多分、手加減していたのは事実だと思う。俺達の肉体がまだ完成していなくて、力を十全に発揮できなかったから」


 完成していなかった。

 リオンの言葉が過去形になっている。

 それは、つまり。


「もしかして、今はもう完成している?」

「完成、もしくはそれに準じた形だろうな。だからきっと『神』は間違いなくお前、いや俺達の獲得に本気を出してくる」


 ぞくり、と背筋に寒気が走った。

 今まで色々な絡め手を駆使して、あれでも手加減していた『神』が本気を出してくる。


「『神』は私達を捕まえて、何をしたいの?」

「『神』がマリカに本当の所何をさせたいかは解らない。

 『星』の力を手に入れたい、というのは間違いないだろうけど。

 ただ俺の使い道は多分シンプルだ。『敵』から『神』と『子ども達』を守る護衛。

『神』は故郷に子ども達と共に帰ることを望んでいるから」

「故郷に、子ども達と、帰る?」

「ああ。故郷が帰れない状態になったからこそ『神』は『子ども達』を連れて脱出してきた。それを覆し、帰りたいと願っているんだ」


 リオンの発言は、現状の把握と『神』の思いを伝えるものだったと思うけれど、私の中では別の意味をもって響いた。

『神』は『子ども達』を連れて故郷を離れた。それはおそらく『精霊神』や『星』も同じで先行して来た彼、彼女らはこの星で子ども達と共に根を張り、新しい生活を始めこの星の本当の意味で神になった。

 彼らの故郷は地球。

 つまり地球に子ども達を連れて、故郷を離れなければならない程の何かが起きた。

 帰還に『精霊の獣生粋の戦士』を必要とする程の『敵』がいる。

 それはすなわち……。


「俺達の最終的な精霊としての完成形は解らない。

 ただ最後の覚醒。

 その封印を解く、確実な方法は一つ、解ってる」

「それって……」


 リオンがつばを飲み込んだのが解った。

 微かな逡巡の後、はっきりと誤魔化さずに教えてくれる。


「ああ。俺とマリカが結ばれることだ。精神的に、ではなく肉体的に……番う事」


 元々、リオンは『精霊の貴人エルトリンデ』の番として生み出された。

 今までの『精霊の貴人エルトリンデ』はリオンの話通りなら、生まれた時から完成形の大人として存在していたから、そういう成長のプロセスは必要なかった。

 これは、私とリオンにだけ与えられた最後の『儀式』なのだ。


「そうした後、俺達にどういう変化が起きるのか?

 前に、エルフィリーネが言ったような、全く新しい『精霊』としての人格が生まれるのかもしれない。『星』の精霊として正しく覚醒すれば、今の人格が消え去ることは無いと思うけど、それも希望的予測に過ぎない」

「正しくって、正しくない覚醒もあるの?」

「マリカの意思を無視して星の精霊の肉体が奪われることだ。

 それは何も『魔王マリク』だけの話じゃない。マリカが許しを与えることなく暴力で肉体を奪われれば『星』の力の全権がその相手に委任される」

「え?」


『星』の力の全権委任? それは一種の『神の誕生』ではなかろうか?

 っていうか、私にそんな権利と力があるの?


「『精霊神』は『精神は最終セキュリティだ』と言った。

 マリカは『精霊の貴人』。『星』の代行者にして手足として、後継者として望まれ、生み出された存在だ。

 だから、マリカには選ぶ権利がある。誰と共に『星』を導くか」


 身体の震えが止まらない。

『精霊』として目覚め、既に自分の使命を認識、定義しているリオンと違い、私には今もって『精霊』の自覚なんてこれっぽっちもない。

 そんな私がこの星とそこに生きる人々の運命を決めていいものなのだろうか?


「リ・リオンはそれでいいの?

 誰も抱かないって言ってたのに、私と結ばれる……私を抱くことが、最後の封印であるのなら、私を抱かないと大人になれないってことじゃ……」


 生まれる前から定められた番。

 ただ使命として役割を果たす為、もしかしたら種を残す為だけ選ばれた相手。そんな相手と愛もなく身体を合わせなければならないなんて……。


 私が俯いたまま、声を絞り出すと同時。

 くいっと、下を向いていた私の顎が引かれ、唇が重ねられた。


 それは、さっきのとは違う。

 食らいつくような、強引な口づけだった。

 強く吸い上げられ、呼吸さえ奪われるような激しさに目の前がチカチカする。

 鼻呼吸も忘れて薄く開いた唇から、リオンの舌が入り込んで来る。

 逃がさないというように私の舌を絡めとり、拘束し蹂躙する。

 まるで舌が解けてリオンと一つになってしまうような感覚に翻弄されてしまっていた。


「……最初に言ったはずだ」


 やっと解放され、息が上がった私の顎をもう一度リオンがくいと持ち上げ、視線を合せる。

 いつものような優しいだけの露に濡れた瞳ではない。

 黒と碧。情熱と思いを帯びたオッドアイが私を射抜いていた。


「これは、この思いは精霊の使命や役割なんかじゃない。

 俺が、お前を、マリカを好きだから。愛しているからこその告白で思いだと」


 それはキスにも劣らない激しさを帯びた、まさに告白。

 いつも冷静で、どこか一歩引いたようなリオン。

 私達を守り、側にいてくれるけれど特に魔王城を出てからは、輪の中で笑い合う事もなく、自制し己の中の魔王と『神』の意志と戦い続けていた彼がやっと見せてくれた、自分自身の思いだったのかもしれない。


「もしかしたら、俺とお前が出会って、共に生きて、惹かれ合ったのも精霊として最初から刷り込まれ、計画されたものなのかもしれない。

 こうして、誰も抱かない。交わらない。一人で生きて、死んでいく。

 そう決意した俺の理性を吹き飛ばす程の思いも。身を焦がす様な情欲もそうあれと導かれたものなのかもしれない。

 でも、それでもいい。それでも。

 お前の一番近くで、お前を守り、共にいられれば、それでいい。それで……いいんだ」

「リオン……」

「俺は、お前以外を愛するつもりもない。

 だから、俺を選んでくれ。

 俺がお前を愛して、一番近くにいて、生涯を共に行くことを許して欲しい。

 お前が手に入るのであれば、俺はこの先、何も望まない。生涯を『精霊』として『男』として『リオン』として『星』にお前に捧げる」

「私が決めていいの?」

「マリカの運命、マリカの身体。マリカの心。

 決めるのは、選ぶのは、選んでいいのはお前だけだ」


 微かな既視感と共に、私は思いを言葉に紡ぐ。


「……選ばないって言ったら、どうするつもりなの?」

「……強制はしない。『星の精霊』に徹して『精霊の獣』として『星の代行者』を生涯守り続ける。お前が選んだ相応しい相手が現れるまで。

 誰にも、お前の意思を無視して、その幸せを、笑顔を奪わせることの無いように……」


 ああ、リオンは変わらないな。

 と思った。『精霊』として目覚め、使命と責任を背負っても本質の所は変わらないのだと。

 お互いの気持ちを確かめ合った魔王城。夕日のバルコニーを思い出す。


「……バカ……」

「マリカ?」


 あの時と同じように、私はリオンの首に手を回し、引き寄せた。

 そして今度は自分からリオンの唇に自分のそれを重ねる。

 さっきは翻弄されるばかりだったけれど今度は私が味わい、舌先で閉じられた口唇をノックする。戸惑うように開いた中に自分を滑り込ませ伸ばせば、躊躇いがちに、でも強く私を抱きしめてくれる。

 震えながらも背中に回された腕のように。


 互いを味わい尽くし、唇を離して私はリオンを見つめた。


「俺で、いいのか?」


 さっきの強い行動はどこへやら、惑うような視線で私を見るリオンに頷く私。


「リオン以上に私を愛して、守ってくれる人がいる筈ない。

 私が自分の意志で選ぶのはリオンだけ。

 それは魔王マリクだって同じ。私は彼を選ばない。

 例え、同じ体を持っていたとしても。

 『私』はきっとリオンと同じ立場で、同じ目線で一緒に考えて、迷って、共に歩いて行く為に生まれたの」


 私が『星』に作られた『精霊』

 この立場、感情、もしかしたらリオンを愛する精神ごと、意図してデザインされて作られたものかもしれない。

 でも、リオンが言うように、私もそれでもいいと思う。思える。


「マリカ……」

「『星の代行者』とか、全権委任とか関係なしに、私を愛してくれる?

 私が役割を投げ出して。

『星』や『神』に逆らって私を要らないっていっても、私を守ってくれる?」

「……ああ。でも、きっとそんなのマリカじゃないだろ?」

「うん。リオンも私も、そういう生き方しかできないの。解ってる。

 だから……」


 多分、私もリオンも役割を、やるべきことを、やりたいことを捨てられない。

 今の私か、それとも違う私になってしまうかは解らないけれど、きっと近いうち『精霊の貴人エルトリンデ』になるのだろう。

 でも、どんな私であってもかつての前世の『精霊の貴人』よりも、絶対に私の方がリオンを好きだし、お似合いだ。

 誰かの代わりじゃなく、それ以上の存在として、私はリオンと共に歩き、一緒に子ども達を、星ごとリオンごと幸せにする。

『神』にも『星』にだって邪魔させない。


「一緒に生きよう。そして、みんなを幸せにして、幸せになろう?」

「ああ。その言葉と、約束の為だったら。俺は、きっとなんでもできる」


 目を閉じて、もう一度唇を重ねた。

 今度はさっきまでの強引なものではなく、互いを絡め合い確かめ合う穏やかで、でも熱い口づけ。

 そのまま、私は力を抜いてリオンに全てを委ねる。


 ここで、流れのまま全てを捧げてもいいな、と思ったのだけれど。

 運命はそう簡単に、私達を結ばせてはくれなかった。


「「!」」


 既に漆黒に染まった闇の中に光と音と振動が揺れたから。

 互いの服の隠しの通信鏡が、不穏な光と共に着信を告げて。

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