【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 卵と牛乳

公開日時: 2021年5月12日(水) 07:15
文字数:3,867

 皇室の方への調理実習12回目。

 地の二月が終わり、火の一月に入ろうというある日。


「うわ~。卵だあ」


 私は作業台に置かれた籠。

 そこに積み重なったものに思わず目を丸くした。

 籠の中には20~30個の卵が山積みになっている。

 こんなにたくさんの卵を一度に見たことは向こうの世界でもない。

 いや、お店とかではあるけれど。

 魔王城でも滅多に見ないよ。それに


「こっちは牛乳? すごい、こっちもいっぱい」

 

 大きな素焼きのツボ三つに入った牛乳は十リットルくらいありそう。

 思わずうっとりしてしまう。


「どうしたんですか? これ?」


 私の質問に


「第二皇子妃様より其方への贈り物という奴だ」

 

 応えて下さったのは、第二皇子妃様付き料理人マルコさん、ではなく皇王様の料理人ザーフトラク様。


「第二皇子妃様が私に?」


「そうだ。今まで美容品用に御用牧場で作らせていた卵と牛乳。

 その優先使用権を其方、正確にはガルフの店にだが譲渡する、と」

「シュライフェ商会から、皇族向けにハチミツシャンプーの販売も始まって、メリーディエーラ様もお気に入りでな。

 卵も牛乳も以前ほど使う必要は無くなったから、料理に使えるなら使って見せろと仰せだ。まあ、メリーディエーラ様なりの君への礼だろう」

「すごく、嬉しいです」


 マルコさんも続けて説明下さる。

 卵と、牛乳は本当に喉から手が出る程、欲しかったので正直、凄くありがたい。


「卵と牛乳を菓子に使う効果は承知しているが、ここまで大量にあって使い切れるのか?」

「楽勝です。とっても美味しい料理がたくさんできますよ」


 心配そうに第一皇子の料理人ペルウェスさんが山盛りの卵を見るけれど、使い切るのなんか簡単だ。

 むしろあるならあれもこれも、と夢は広がる。


「じゃあ、今日は予定を変更してもいいですか?

 クリームシチューに、ホワイトソースのパータトのグラタン。とパータトのマヨネーズサラダ。

 後はスフレオムレツにアイスクリーム、カップケーキなんてどうでしょう?」


「あ、パータトのマヨネーズサラダは好きなんだ。楽しみだな」

「マヨネーズ?」


 カルネさんがぺろりと舌なめずりする。

 卵は本当に貴重だから、今まではお菓子とマヨネーズ優先で卵料理を店で出したことは無かった。

 きっと驚いて貰えるだろう。

 鮮度と質がまだ不安だから、生や半熟は今回は諦めるけど。


「それじゃあ、はじめますね」


 まずは生クリーム作り。

 元々、焼き菓子作りをするようにバターがすこし用意してあったからそれを溶かして牛乳を混ぜて生クリームを作る。

 バターの元になる生クリームを作るには、生乳分離と、生乳にバターを混ぜて作る方法があると、前に…向こうの世界で…子ども達と牧場見学に行った時に教わったのだ。


 その生クリームをもう一回バターにする。

 ガラス瓶に入れて振って混ぜる。手間だと思うけれど、こうするとバターの量が倍に増えるから。


「なるほど、こうしてバターは作るのか?」

「新鮮でおいしいね」

「店では牛乳を冷やして作ることも多いのですが、その後こうして増やしています。

 牛乳から生クリームを直接作るには丸一日かかるので」

 

 今まで牛乳の安定入手が難しかったので、店から持ってきていた。

 料理人さん達も興味津々だ。

 新鮮素材から作るバターはマジ最強。

 素材がいい無調整牛乳だから、味はこっちのほうが断然良いし。


 それから牛乳でアイスクリーム。

 卵の黄身、卵黄と卵白を分けて卵黄と砂糖を擦り交ぜる。


「うわあ、プリプリ。新鮮ですね」


 卵を割ってみて驚いた。

 卵黄の盛り上がりが凄い。黄色も濃いなあ。

 魔王城で使っているクロトリの卵とはちょっと種類が違うみたい。


 これなら半熟や生も行けそうだけれど、皇族に食べさせて万が一の事があったら大変だから今回は自重。


 牛乳とよく混ぜて、少し温めてから冷まして保冷庫へ。

「果物のシャーベットとはまたちがうんだね?」

「でも、美味しくするコツは一緒です。空気をなんどか入れてふんわりさせること」


 忘れないように後でかき混ぜなきゃ。



 余った卵白はメレンゲケーキで消費。

 ジャムを混ぜると簡単で美味しい。

 卵白を慌てるのが少し大変だけれども、料理実習を始めるようになってから鍛冶屋さんで作って貰った泡だて器がいい仕事をしてくれている。

 男性の力は強いからみるみるメレンゲになっていくのはほれぼれするなあ。

 私はギフトでちょっとズル…。


「其方の料理法は実に合理的だな。

 材料をまったく無駄にせぬところが驚きだ」


 アイスの残りの卵白でメレンゲケーキを作り、バターを作った時の余りバターミルクをシチューに使ったあたりで、ザーフトラク様がそんな言葉をかけて下さった。

 

「まだ食材が貴重ですので、なるべく無駄なく使う様に心がけております」



 向こうで料理している時には卵なんて十個高くても200円で、牛乳だって1リットル同じくらい。

 バターだって高いと言っても500円くらいでいい品が手に入った。

 独り暮らしだからそれでも無駄なくと思って卵白消費レシピをググったりしたものだけれど、こちらに来てから、本当にMOTTAINAIを実感している。


 エコすぎるエコ生活。

 本当に食材を一から集め、食事を作るのは大変だ。


 だから、なるべく無駄なく。

 卵の殻や、野菜の皮も料理に使い切れなかった分は、持ち帰って畑とかの栄養に使わせて頂いてる。

 大地の精霊もなんだか喜ぶみたいだし。



 オーブンでメレンゲケーキを焼いて、冷めないうちにグラタンも作る。

 パータトは多めにゆでてグラタンとサラダに使う。

 小麦粉が纏まった量取れれば、パスタにも活用したいけれど今はまだ無理だ。

 メニューの流れ的にシチューとグラタン。

 ホワイトソース系二つはあんまり良くないと思う、今回は牛乳と卵のプレゼンテーションだからご容赦頂こう。


 マヨネーズは料理人さんみんなが目を輝かせた。

 卵とお酢と塩コショウだけでできるのに、味の効果は絶大。

「おいしい!」

「だろう? 前から作り方を知りたかったんだ。まさかこんなに簡単だとは思わなかったけど」

「うむ、素晴らしい」

 料理系異世界転生の最強調味料だから。


「できたら最後はスフレオムレツを。

 できてから時間がかかると、しぼんでしまうので宴席とかには向かないと思いますが、普通のお料理には絶対に喜ばれます」


 卵白を泡立てて、メレンゲを作ってから卵黄や塩コショウを混ぜ入れてやくだけだけれども、ほんっ、とうにふわとろの柔らかさが美味だ。

 子ども達にも大好評。

 オムレツや卵焼きは上手に作るのに練習や腕が必要だというけれど、私には無理なのでこっちのほうが出番が多い。

 一番大変なメレンゲ作りをギフトでやっちゃう反則だけどね。


「おお!」「これはすごいな」「ふわふわだ~」「これが卵か…」

 料理人さん達も本気で感嘆の声を上げる。


「中に何かを挟んだりしても美味しいと思います。

 泡立てないで普通に焼くオムレツもとっても美味しいですから」


 マヨネーズのポテトサラダとクリームシチュー。ホワイトソースのポテトグラタン。

 スフレオムレツに卵アイスとメレンゲケーキ。


 品数は多いけれど、芋を茹でたりとか工程は合わせているので製作時間そのものはいつもの通り、二刻以内に収まった。

 ゴミも芋の皮と卵の殻くらいしか残していないことには、ちょっと胸を張れる。


 

「オムレツの口の中でふわりと蕩ける舌触り。マヨネーズサラダの深き味わい。

 シチューやグラタンの滋味深さ。何よりアイスクリームの在りえぬ濃厚さと、冷たさ。

 卵、牛乳がここまで美味を齎すとは。

 マリカ、いつも思うが其方はどこでこのような知識を…」


 試食中ザーフトラク様が呻きながら私を見る。


「や、野育ちゆえ。クロトリやヤギの乳などに触れる機会が多かったのです。

 魔術師が幼馴染で手伝って貰ったりして…」


 嘘じゃない、嘘は言ってないからね。


「なんでこれ、店で出さないの? 人気間違いないのに?」

 カルネさんが首を傾げるけど、もちろんできるなら出したかったのだ。

「だから、卵と牛乳の入手が本当に難しくて、絶対需要が高くて高価でも売れるお菓子に使うのが優先だったんです。

 安定確保できるようになったらもちろん、店でも出したいです」


 あ、思い出した。

 第二皇子妃様が牧場の優先使用権を下さるというのなら、ちゃんと確保しておかないと。 

  

「ザーフトラク様」

 私は皇家の料理管財人に頭を下げる。


「後でガルフに連絡をいたしますので牧場との正式契約をお手伝い頂けませんでしょうか?

 牧場にしっかりと需要を確約して牛乳と卵の安定生産に励んで貰いたいのです。

 生産分は全て、確実に買い取ると」

「解った。だが皇家の御用牧場だ。皇家使用の分は確保するぞ」

「それは勿論」


 今まで卵、牛乳の入手には本当に苦労していた。

 特に卵は魔王城から持ってくることもあった。

 少なくても安定確保できれば、それだけで嬉しい。

 安定生産して買い取ってもらえると解れば、生産量が増えると思う。

 牛乳と卵があれば、料理の幅は本当に広がる。

 生き物相手だから増産は大変かもしれないけれど、本当に頑張ってほしいと思う。




 料理実習の後、ティラトリーツェ様がアイスクリームをつつきながら悔しそうにおっしゃっていた。


「第二皇子妃様が『うちの牧場の卵と牛乳がこれほどの美味になるのですよ』と随分と上機嫌だったわ。まあ、言われてもこの味は仕方ないと納得しましたが。

 だからうちでも作ろうと思うの」

「作るって、なにを?」

「牧場を」


 この後、皇族の肝いりで御用牧場がそれぞれにいくつか作られることになったらしいと聞くのは少し後の事だ。

 第一皇子様や第三皇子様だけでなく、皇王様直属のところもできたとか。


 権力は強いなあ。本当に。

おいしい卵と牛乳の話。

少しずつ作れるものの幅が広がっていくのは嬉しい事です。

オムレツは本気で作ろうと思うと腕がいるので、誰でも美味しいスフレオムレツに。

シャーベットではなくアイスクリームも作れる様になったので、ますます偉い方の胃袋は掴まれて行きますね。


次は魔王城から出てくる子ども達の話。

そして小麦の収穫になりそうです。


宜しくお願いします。

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