【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

火国 深夜の相談

公開日時: 2024年6月12日(水) 23:06
文字数:3,440

 どうしよう。

 プラーミァでの舞の奉納を終え、私は一人、部屋で悶々と悩んでいた。


「どうした? 『精霊神』様の御呼び出しか? 随分と久しぶりの事だが」


 私が『精霊神』様の異空間から、神殿の間に戻った時、真っ先に駆け寄ってきてくれたのはリオン(魔王マリク)。そしてプラーミァの国王陛下だった。


 奉納舞の途中、私が消える事、そのものはそれほど珍しい話では無い。

 最初の時はどの国でもそうだったし。不思議な事ではあるけれど『聖なる乙女』が『精霊神』の元に呼ばれた。『聖なる乙女』にはそういうことがあるものだと思って貰えているからそれ自体は大きな問題にはならないのだ。

 ただ……、今回は『精霊神』様から預かった伝言』が問題だ。


「『神』が攻勢を仕掛けて来て、不老不死が解除される可能性がある。とか、どうやって説明したらいいんだろう」


 今回呼び出されたのは私一人だし、リオンは魔王神の僕だし、誰にも相談できない。

 なので、とりあえず私は時間稼ぎ。


「……あっ……」


 気絶した振りをすることにした。



「おい! マリカ! 何があった。しっかりしろ!」

「陛下。申し訳ありません。皇女を部屋へと運びます」

「頼む。お前達。マリカの侍女に連絡を。それからフィリアトゥリスか、オルファリアを呼べ!」


 私の気絶は年季が入っている。

 何度も何度も、事あるごとに気絶してきたから、なんとなくプロセスとかを真似することができる。

 自慢にはならないけれど。

 だから、まあとりあえず、この場は誤魔化して、部屋に戻ることができたのだ。

 侍女達も私が何かある事に意識を失うのは慣れているから、テキパキと着替えをさせて寝台に寝かせてくれた。

 なので私は寝台に横たわり、目をつぶって考える。

 どう、説明したらいいだろうか?


 まず、精霊神様の予言その1


『神』の攻勢が始まる。

 それからして説明が難しい。

 少なくとも世界にとって『神』は不老不死を人々に与えた善なる最高神なのだ。

 その最高神が攻撃して来る。そして人間に与えた『不老不死』を奪うだろう。

 なんて、どう説明したらいいのか?


『神』と『精霊神』がある種の敵対関係にあって不老不死を与える代わりに人間から『気力』を奪っている。ということをはっきりと知っているのはそもそも知っている王族は皇王陛下と、皇王妃様。そしてお父様とお母様だけの筈だ。

 復活後『精霊神』様達が自国の王様達に話していなければ、多分、各国の王族は知らない。

 説明して、理解して頂けるだろうか?


 第二に、『神』から守れと言明された三つのモノ。

 一に大聖都ルペア・カディナ

 二に私。

 そして何故かアル。

 ルペア・カディナや私は、まあ解らなくはないけれどアルを守れ、奪われたら詰むってどういう意味なのだろう?


 アルは人間だ。間違いなく。

 私達の様な人型精霊ではなく、精霊に愛された人間の子ども。

 特殊な『能力』を持っていたせいで、奴隷のように扱われ、虐待されていた所をリオンに救われた。

 私達の大事なきょうだい。

 そのアルに『精霊神』様が守れという一体何があるのか?


「フェイに、相談してみよう」


 私はこっそり抜き足差し足で、寝台から降りて貴重品と一緒にしまってある、私個人用の通信鏡を取り出した。

 フェイ直通のものだ。一組ずつ対応する鏡同士でしか話せないので間違わないように確認する。ゲシュマック商会直通のは大聖都に置いてきた。アルケディウスと繋がるものはミュールズ女官長が管理している。私が部屋に持ち込んでいるのは魔王城に繋がるものと、個人用のフェイ直通のモノだけ。元はリオンに預けてあったけれど『魔王マリク』に変わってからはフェイに持っていてもらっている。

 糸なし糸電話はこういうところが不便。早く、向こうの世界のスマホのように一つの電話で複数に繋がるようにできればいいのに。


 部屋に置いてある機械式時計を見てみる。

 今は二の風の刻。夜の八時から九時くらいかな?

 なんだかんだで、疲れてちょっと寝ちゃったので思ったより遅くなってしまった。

 でも、この時間なら逆にフェイだけと話すことができるだろう。

 忙しいから、出ないかもしれない。その時はまた日を改めて。


 私は、通信鏡の精霊石に力を込めた。

 待つこと暫し。


『どうしたんですか?』


 聞きなれたフェイの声が応じてくれた。


「ちょっと、相談したいことがあるの。今、大丈夫? 話しできる?」


 なんだか、少し息が上がっているような感じがする。運動した後の様な。


『……いえ、大丈夫ですよ。何かありましたか?』


 少し間が空いたけれど、頷くようなフェイの返事、

 こんな真夜中に何していたのかと思うけれど、ツッコみはしない。

 フェイはよくリオンの相手をして筋トレとかしてたからそういうこともあるのかもしれないし。


『うん、あった。実はまだ、誰にも言わないで欲しいんだけど』


 そう言って、私は『精霊神』様からの予言、と言う名の忠告について話す。


『アルを守れ?』

「うん。『精霊神』様は予言、と言ったけれど、多分、色々な状況を踏まえた未来予測だと思う。つまり、大聖都や私以上に、アルにも何か……秘密があるんだと思う」

『まったく考えていませんでしたね。アルは僕達にとって重要な心の支えではありますが、

『神』に奪われたら詰む、存在だとは』

「今まで生活圏や行動圏が違っていて『神』と直接顔とか合わせていなかったのが幸いしたかも。今、アルは一人なの?」

『リオンや僕も同居していますが。今回のようにアーサーもクリスもアレクも連れてリオンが出かけている時は、一人でいることが多いと思います。

 マリクが来てからは店に泊まり込んでいることも多いです。アルはリオンを奪ったマリクを恨んでいますから。

 僕は……神殿に泊まることも多いので暫く顔を合わせていないですね』

「? フェイ。側に誰かいるの?

 できればこの話は、まだ他の人には秘密にして欲しいんだけど」


 何か動いた様な、誰かが笑ったような気配がした。この通信鏡は声しか伝えられないので状況は見えないけど。


『何のことですか? 話を聞かれて困るような者はいませんよ』

「なら、いいけど……」


『神』に知られてはいけない情報。当然『リオン』には話せない。

 こちらから『神』に連絡を取る手段は無い様だけれど、油断は禁物。

 フェイの声には焦りが見えないので、私の気のせいかな?


『とにかく、そういう事情であればアルには話をして、警備を強くしましょう。

 何か、体調の変化とか、気付いたこととか無いかも聞いてみます』

「お願い。アルの出生について、とかは解らないよね」


 アルは、奴隷としてドルガスタ伯爵家に買われていた子どもだ。

 その金髪碧眼と予知眼を利用され、相当酷い目に遭わされていたと聞くけれど。


『解りません。本人も知らないでしょうし、僕達も調べませんでした。

 知っている可能性があるとすれば、ドルガスタ伯爵だけかもしれませんが、きっと、彼自身も詳しくは知らないと思います』


 買った奴隷の素性を気にして調べるような者はあんまりいないだろう。

 そもそも一度捨てられた孤児の身元を調べるのはかなり困難だ。かつての私の時も大騒ぎだったし、フェイの身元が解ったのは特徴的な外見故の本当に奇跡だし。


『アルの事は、僕の方で手配します。マリカは予言の周知の方をお願いします』

「やっぱり知らせた方がいい?」

『アルの事、マリカの事はともかく『神』が本来敵であること。不老不死が解除される日が近づいている事については、各王家に周知、徹底した方がいいと思います。

 そうなった場合、間違いなく大混乱になり、各国に死者が溢れます』

「だよね」


 誰だって自分から死にたいとは思わない。

 個人レベルで生きることに飽きていた人はいるかもしれないけれど、死は恐ろしい。

 子どもに、未来に、希望を託す。と言ってもそれは結果論だ。

『自分』の終わりは恐怖でしかない。


『事前にせめて各国王にだけでも知らせて対応策を考えて貰うことは必須です。

 不老不死の解除と言うのは他人事ではない、この星の住人全ての重大事なのですから』

「解った。明日にでも兄王様にご相談してみる」

『そうして下さい。こちらでも、アルの保護を中心にできる限りのことはしてみます。

 魔王の襲来、持ちかけてきた取引の為の攻勢もいつあるか解りませんから気を付けて。

 リオンの事も頼みます』

「うん。ありがとう」


 フェイに相談して、少し気持ちが晴れた。

 いい加減、私達だけで問題を抱えている時期は終わり、ということだ。

 この世界のことは、この世界の住人皆で、考えて行かないと。



 翌朝、目覚めてすぐ。

 私は朝一で、国王陛下に謁見を申し込んだ。

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