【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 大祭の後で 人をダメにするソファー

公開日時: 2021年4月27日(火) 08:23
更新日時: 2021年4月27日(火) 18:53
文字数:3,962

 大祭が終わって、本店のマネージャー業務の引継ぎも終わり。

 空の日の夜。


「ただいま~~~」

「お帰りなさいませ。マリカ様」


 私は魔王城に戻ってきた。

 久しぶりの我が家だ。




「疲れたよ~。

 大祭も皇室もホント大変だった。エルフィリーネ~~」


 出迎えてくれたエルフィリーネに抱き付いた私を一緒に戻ってきた皆は生暖かく見ている。

 帰着から数分。

 みんなが気付いて出てくるまでの、ささやかな癒しなのだ。

 これは。


「まったく、大変にしたのは自分でしょう? マリカ」

 呆れた様に息をつくのはフェイ。


「まあ、祭りが始まるまで、ここまで事が大きくなるとは想像できなかったけどな。

 皇家巻き込んで新事業開始までいくとは思わなかった」

 少し庇ってくれるのはリオン

 

「いや、皇子達や他の大人を島に招くことを決めた時点で、ある程度わかってたんじゃね?

 何をやるにしても徹底的にがマリカ、だもんな」

 アルに至ってはもう諦めた様に肩を竦めている。

 

「そんなことないもん。一番効率のいい方法を考えたらそうなっただけだし…。

 私だって楽したいんだよ!」

「…本当に、お疲れがたまっておいでのようですね。マリカ様」


 何も責めず抱き付かせてくれる守護精霊の優しさと柔らかさを堪能できたのは、だってわずか数分の事。



「あ、かえって来たんだ。おかえり、マリカ姉!」

「お帰りなさい。姉様、兄様」

「おかえりー」「おかえりなさい!!」


「ただいま。みんな。

 お土産いっぱい買って来たよ!!」


 皆の足音が聞こえてきたのと同時、私はエルフィリーネからパッと離れて皆の方に身体を向けた。

 走って来るリュウとジャックを抱きしめて、出迎えてくれた皆に笑いかける。



「お土産? なになに?」

「それはご飯食べてからね。今日はいつもどおり私が作るから」

「わーい!」「マリカ姉のごはんだ~」

「…マリカ…様」

「あ、セリーナ。ファミーちゃんも。いきなり島に置いてっちゃってごめんね?

 不自由なく過ごせた?」


 子ども達の後ろから、躊躇うように伺うセリーナとファミーに気付き私は声をかけた。


「はい、とても、本当にとても良くして頂いています」

「セリーナお姉さんとファミーちゃんもね、ご飯当番に入ってくれてるんだよ。

 とっても上手~」

「いえ、わたしなどまだまだで…」

「ううん、ありがとう」


 自信なさげではあるけれど、本当に今までミルカとエリセ、そしてティーナで毎日五日間のご飯を作って回してくれていたから一人でも増えれば随分と楽になるだろう。


「よし、じゃあ、みんな少し待っててね。

 今、美味しいごはん作ってくるよ」

「あの、私もお手伝いしてもいいですか?」


 私の横にスッとセリーナが寄り添った。


「? たまに私がいる時には休んでくれていいんだよ?」

「いえ、新しい料理を覚えたいので…」

「…そう? じゃあ、手伝って」

「私もお手伝いする~~♪」

「ありがと。ファミーちゃんじゃあ、みんなは大広間で待ってて。リオン兄たちに大祭のお話でも聞いているといいと思う。

 面白かったから」

「はーい」「よし、じゃあ行くか」「無理するなよ。マリカ」

「大丈夫~。ちょっとだけ待っててね~~」



 子ども達には疲れた顔や、困った顔は見せない。

 それが私のプライドだ。

 三人も、エルフィリーネも、もはや何も言わないでくれる。


 多分呆れてはいるだろうけれど。

 これが私なのだから仕方ない。

 うん。


 久しぶりの魔王城での厨房で腕を振るうべく、私は腕まくりして歩き出したのだった。



 夕食は、エナの実の冷製ガスパチョスープ。

 パータトの炒め焼きと、イノシシ肉の薄切り、チスノーク風味の予定だ。

 収穫が始まって魔王城の島でも集め始めてくれていたピアンの実はコンポートにする。

 半分は明日のお楽しみ用に凍らせておいて…っと。


「ファミーちゃんは、スプーンとフォークの数を数えて、カートに乗せて。

 できる?」

「できる~。ミルカ姉ちゃんにおしえてもらった~~」


 私のお願いにファミーちゃんは嬉しそうに頷くと1、2と数を数えながらスプーンを置いていく。


「…私だけじゃなくって、ファミーにも皆さん、勉強を教えて下さって…。

 ファミーはもう20まで数えられるようになっているんです」

「そっか。困ったこととか、ない?」

「何もありません。むしろ毎日、遊んで勉強してお風呂に入る事も出来て、暖かい布団で眠ることができる。

 私のような穢れた者には、勿体なくて」

「でも、麦の草取りとか、ピアンの実の収穫とかけっこう仕事あるでしょ?」

「いえ、今までに比べたら仕事とは思えないくらいの易しくて、楽しい仕事です。本当に、申し訳ないくらい幸せです」

「そう、なら、良かった」

 

 どこか困ったような、でも幸せで安らかな笑顔に私は安堵する。


「今まで大変だったんだから。その分、今はゆっくりして。

 ガルフの店も人手が足りないから落ち着いたら戻ってきてほしいけど、今はまだあちらの様子が解らないからここにいてミルカやエリセ、ティーナのの手伝いしたり、相談に乗ってくれるとうれしい」

「はい…本当にありがとうございます。

 私にできることがあれば、全力でやらせて頂きます」

「よろしくね。頼りにしてるから」


 もしかしたら私にお礼を言いたくて手伝いをかってでてくれたのかな?

 思いながら、私はセリーナに頷いた。


「よーし、できあがり。運ぶよ。手伝ってファミーちゃん!」

「はーい」


 先週は外でのバーベキューだったから、みんなで魔王城の夕食は久しぶり。

 

「いただきまーす!」


 ああ、和む。幸せ。

 二人増えた魔王城の食卓は本当に、とっても楽しくて幸せな気分になることができた。

 元気、充電できた気がする。

 うん。




 食後はみんなで、ゆっくりのんびり。

 大祭の屋台や祭りの様子を話ながら


「はい、これ大祭のお土産」


 みんなに私は大祭で買って来たお土産を渡す。

 全員に暖かい靴下。

 アーヴェントルクの毛織物なので、今の時期はちょっと暑いかもしれないけれど民芸風の織り模様がとてもキレイだ。

 それから女の子達にはガラス細工の首飾り。

「うわー、ステキですね」

「キラキラ」

 目を付けていたフリュッスカイトのステンドグラスだ。

 花や動物をモチーフにしていてとてもキレイ。

 二日目以降、死ぬほど忙しくて屋台をもう一度見て回る余裕は残念ながら無かったからガラス瓶の仕入れと一緒にラールさんに買ってきてくれるように頼んだのだ。


「私達にもいいんですか?

 勿論。使わないかもしれないけどエルフィリーネの分もちゃんとあるよ」

「まあ」


 みんな嬉しそうにつけたり触ったりしている。

 私が選んで買えた訳ではないのでそれぞれに似合う色に、合わせられなかったのは残念だけど。

 ああ、もう一度祭りで買い物したかったなあ。


「あと、ギルにはこれ。

 リードさんから預かったの」

 薄茶色の紙の束を渡す。

「羊皮紙。これに気になる植物描いて見せてって」

「わーい!」

 貴重なものだと思うけれども、けっこういっぱい。

 リードさんはどうやら本気で魔王城の植物に興味があるらしい。

 私も新しい食材があると嬉しいから、ギルには頑張ってほしい。


「女の子やギルばっかりずるい」

「僕らには?」

「買ってきたってば、ほら」


 女の子に買えば男の子達がこう言うのは解っていたので男の子の分も見繕っては貰っていた。

 私は持ってきた木箱を開ける。

 小さな細工ものだけれど。


「エルディランドの水牛の角細工だって」

「うわー」「いっぱい」「いろんなかたちがある~」

 

 小さな、向こうの世界でいうと根付のような紐のついた飾りがいっぱい入っている。

 色々な動物を象ったものが多い。 


「何に使うもの、なのかな?」

「知らないで買ったのか?」

「私は男の子のお土産に、って頼んだけで選んだのはラールさんだし」

「多分、財布の紐につけたりとか、あとは剣帯飾り、服の飾りボタン、なのかもしれないですね」


 フェイがいくつかを手に取り、眇めながら呟く。

 なるほど。そういうのか。


「エルディランドはこういう飾りがあるくらいだから水牛とかいるんだよね。

 牛乳とか楽に手に入りそうでいいな」


 アルケディウスでは牛乳、卵はかなり高い。

 美容品扱いだったから作っている人が少ないのだ。

 この間の晩餐会で王宮にも無かったくらいに使う人は少ないのだろう。


 ガルフがハチミツと一緒に最初に手を回してくれたので、最近は増産してくれてかなり手に入りやすくなってはいるけれど。 

 まだ、羊乳の方が安くて手に入りやすい。


「輸入しようと思ったらとんでも高くなりますよ」

「解ってる、言ってみただけだってば」


「僕、鳥がいい!」「おれ狼!」

「ケンカしないで仲良く相談して決めてね」


 取り合いケンカになりそうな子ども達を諌めつつ、座り込んでみんなを見ていた私の側が、急にふんわりと暖かくなる。


「オルドクス…」


 気が付けば私の後ろにオルドクスがピタッとくっついている。

 まるで純毛100%のふわふわソファーのようだ。


「ありがとう。オルドクス」


 

 本犬ほんにんと、多分差し向けてくれた主にお礼を言って、私はオルドクスにもたれこんだ。

 ぬくぬく、ふわふわで…気持ちいい。

 ダメだ。このもふもふは人をダメにする。

 気が緩んで…この暖かさに…柔らかさに抵抗…できない。



「マリカ姉…お祭りの話、もっと…聞かせ…」

「しーっ」


 

 私の記憶はすこでぷっつり途切れてる。

 どうやらそのまま眠ってしまったらしい。


「流石だな。オルドクスもよくやった」

「おしてもダメなら引くしかないでしょう?」

「みんな、マリカ疲れてるから、あとは明日な」

「はーい」




 言い訳させて貰えるなら、セリーナの救出作戦。

 そこから続く三人の来訪者の受け入れと対応。

 大祭に、王宮への呼び出しとマネジメント。

 そこから続く新事業への対応で、我ながら気持ちが張っていたのかもしれない。


  

 私はそのままオルドクスを枕に朝までぐっすり。

 久しぶりに、本当に気持ちも心も休めて熟睡できたのだった。

   

 

 貴重な魔王城でのみんなとの時間だったのにふがいないけど。




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