アーヴェントルクへの派遣から戻っての翌日。
「そういうわけで、夜国のナハト様からは、少人数を受け入れることはできると思うけれど、纏まった人数は、耕地面積などの問題から受け入れが難しい。
できるなら魔王城で受け入れて欲しいとの伝言を承っております」」
「それは、国としての判断になるのかしら?」
「今回皇帝陛下からは具体的なお話は頂いていません。詳しくは新年の会議で、ということで。
でもヴェートリッヒ皇子経由で、皇帝陛下にも話が行っているようですし、国の状況を考えるとそうなるかもしれませんね」
『やはり、この島で受け入れてもらうしかないか。私の島も多人数の居住には向いていないからな』
「そうなるとシュヴェールヴァッフェの案の通りにするのが一番かしら?
マリカ? 貴女はどう思う?」
「私もそれが一番現実的な案かな? と思います」
私は魔王城に戻り、ステラ様とレルギディオス様にナハト様との会談の内容を伝えた。
個人的な会話は、プライバシーだからしゃべらなかったけれど、アーヴェントルクの現状なども踏まえて。
ある意味、神々の内緒話。この星のトップ会談は真剣そのものだ。
こんなに真剣に星や、民のことを考えてくれる『神様』は他所にはいないだろうなあ。
因みにリオンは、アルケディウスでお父様と打ち合わせ中。
どうやら、リオンはレルギディオス様の事が苦手っぽい。レルギディオス様もリオンにはどう対処していいか、考えあぐねている様子。
今はそっとしておくけれど、近いうちに関係改善の機会を作りたいものだ。
「アーヴェントルクと各国の判断は同じになりそう?
アーレリオス?」
「そう思っておいた方がいいと思う。まだ皆に周知したわけでは無いが」
白子猫、ステラ様の問いに頷くように短耳兎が応える。
見ていて可愛らしいけれど、外から見るとちょっとシュールかも。
「万を超す人間を一度に受け入れることは簡単ではない。やるとしたら一つの都市を作るくらいの規模になる。それもこの世界になれていない、いわば異世界人だ。
一か所に集めてそこで保護し、そこから外に、というのはどちらにとっても都合がいい」
『だが、子ども達だけで島での生活をさせるのは難しいだろう。物資はともかく指導者となる人材が欲しい』
「それくらいなら、各国から集められると思う。これもシュヴェールヴァッフェが言った通りにはなるが……」
「引退した各国王や、精霊の島に興味のある人物を招き入れる、でしたか?」
「既に皇王陛下は色々と根回しを始めておられるようですよ」
昨日、アーヴァントルクから大聖都に帰還してステラ様への報告、ということで魔王城に戻ってきたけれどその前はアルケディウスで一泊した。
魔王城でしたのとほぼ同じ話をしたところ、皇王陛下は凄く嬉しそうに頷いていた。
「やはり、そうなるな。よしよし、計画通りだ。
マリカ。次の訪問国はエルディランドであろう? ホワンディオ元大王様にお伝えしておいてくれ。貴方のお力はまだ必要とされております、と」
「解りました」
各国の王族にはステラ様が送った『星の真実』の夢を見た人が多い様子だ。
厳密に統計をとった訳じゃないけれど、国王陛下とその直系の方はダイジェスト版?
をほぼ全員見たらしい。
まだ小さな子どもを除いて。
だから、プラーミァの兄王様やヴェートリッヒ様は、神の子ども達をどの程度まで受け入れられるかなどの試算も始めているとのこと。
その上で、アーヴェントルクは土地的な問題から受け入れが難しいと結論を出したのだろう。ちなみにプラーミァは農業に今、人が欲しいので人員の受け入れそのものは歓迎できる。ただ。新しい町を作るくらいのことになりそうなので、直ぐには難しいという話。
各国の考えを聞いてみてのことになるだろうけれど、最終的に皇王陛下の思惑通りになりそうな感じがする。同じことを思っているのだろう。
子猫もてしてしと足踏み。尻尾ブンブンはちょっといらついているのかな?
「まあ、悪い提案では無いので良いのですが……なんだか、子ども達の策略にまんまと嵌められたようで釈然としませんね」
「その強かさも子ども達の成長ということだろう。
素直に喜んでおくのがいいと思うが?」
「そうね。とりあえずシュヴェールヴァッフェの提案をベースに細かい所を詰めていきましょうか?」
「解りました」
「人員の大移動ということになれば、転移陣では足りないので船を使うことになると思いますが、結界を開くことはできますか?」
「できるわよ。暗礁なども必要なら下げるわ。ただ、継続的に港として使うのなら整備が必要だと思うけれど」
「それは、私が『能力』で仮に整えて、人間の手でちゃんと整備する感じになりますかね」
魔王城の島にはステラ様の結界がある。そのせいで、魔王城の島は海からの侵入が不可能だったのだという。
外洋航海船を持っているのは現在フリュッスカイトだけ。子ども達を助ける為の大人を各国から呼ぶにも、冷凍睡眠に入っている子ども達を受け入れるにももっと船がいるだろうから、やっぱり時間はかかりそうだ。
「まあ、その辺は仕方ないでしょう。焦らず一歩ずつ進んでいくしかないわ」
「はい」
「レルギディオスもしっかりね。これから、精霊の力はきっといくらあっても足りなくなるから」
『解っている。……お前も無理しすぎるなよ。ここ暫く派手に動きすぎているだろう?』
「その辺は平気よ。誰かさんに気力や、精霊の力を横取されていた時に比べたら、調子がいいから」
『だから、悪かった……って』
タブレットの黒い画面で、シュンと落ち込むレルギディオス様は、なんだか可愛い。
私はピュールと顔を見合わせた。思わず頬が綻んでしまう。
でも
「じゃあ、とりあえずこの話はここまでね。アーヴェントルクの話を聞かせてくれないかしら? 私は、皆様の国については殆ど知らないのよ」
「へ? 大母神で在らせられるのに?」
「大母神なんて、貴女まで変な呼び方をしないで!」
怒られた。
でも、ちょっと意外ではある。この星を作った方が星の事をほとんど知らない、なんて。
「私は大陸を作った後は、この島を起点に『精霊の力』を生み出すだけだったんですもの。
精霊神の疑似クラウドとも、万が一のハッキングに備えて切り離した独立機構だったのよ。ここは。自分の身体の上のことなんて意外に解らない事でしょう?」
『おかげで、私はお前になかなか触れられなかった……。まあ、それも今思えば正しい判断であったと言えるが』
「誰かさんのせいで島にも城にも住人もいなくなって、死んだ子達を送り出してからは気力もギリギリで……。城を守りながらマリカとリオン、そしてクラージュを守り、生み出すのが精一杯。
自分の星のことなのに、殆ど何にも知ることができなくって……」
『…………』
うわ~。ステラ様、実はがっつり怒っていらしたっぽい。
ぐさっ、ぐさっと突き刺さる嫌味の槍にレルギディオス様ダメージ受けてる。
止めて! もうライフは0よ!
って感じ。
「それに……」
「あ! ステラ様、お土産話を聞いて頂けますか?」
私は半ば強引に話に割り込む。
「アーヴェントルクはスイス風で、とっても風光明媚なんです。以前、行った時には朝焼けを見せてもらって、ですね!」
「マリカには叶わないわね」
レルギディオス様があんまり気の毒だったから、私は聞かれたアーヴェントルクの様子で、話題を反らすことにした。ステラ様もくすっと笑って、乗って下さる。
天然じゃなくって、わざとか……。
少し安堵したように画面の中で息を漏らすレルギディオス様。
お気の毒に。
「そうね。ナハト様はそちらの方ですものね。他にはどんなものを見たの?」
「あ、鉱山が重要な資金源ですけれど、自然も大切にされていて。一面の花園に蜂が舞う様子はとってもロマンティックでしたよ。牧場で食べるチーズも最高でした」
「王家の子はどんな感じ? 子ども達も生まれているのでしょう?」
「皇子と皇女がお生まれにっていて。皇女はまだ二歳になるかならないかですけど、私の舞を気に入って下さったみたいで……」
私はそういうわけで、ステラさまへのお土産話に集中する。
だから私達が話をしている陰でお二人が姿を消した事には気付かなかった。
「おい、レルギディオス」
『なんだ?』
「ナハトから伝言を預かっている。」
疑似クラウド空間で、お父さんと『神』がそんな会話をしていることも。
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