国境を抜けると、そこは雪国だった。
「さっむ!」
思わず声を上げてしまう。
国境を手続きを終えて通り過ぎると一面の銀世界。
大聖都も少し雪はあったけれど比較的晴れていたからビックリするくらいの雪の量と気温差だ。
「やっぱりアルケディウスは雪が多いですね。そして寒い」
「マリカ様の為に街道は雪かきをしてくれたようですわ」
「馬車の中へどうぞ。少し急いでいきます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
向こうのように馬車の中に暖房があるわけでは無いから、室内も決して暖かくはない。
でも、箱馬車の中で北風に当たらず、毛布やひざ掛けで寒さをしのげる私達はまだ恵まれている。
その後は、御者さんや随員の皆が頑張ってくれたおかげでなんとか予定通りアルケディウス王都まで帰り着くことができた。
私達が城門をくぐると王都の街道沿いは人の群れ。
「お帰りなさい。姫君!」「『聖なる乙女』に祝福を!」
寒い冬だというのにいつにも増しての大歓声だ。
七国全てを巡る訪問を無事終え『精霊神』も復活させたからだろうか?
雪も溶かしそうな熱さの籠った歓迎はありがたくも、ちょっと怖い。
「なんだか回を追うごとに熱狂の度合い、増してません?」
「それは、国を離れる度に姫君の名声が高まるからですわ。良くも悪くも」
『精霊神』の復活に大聖都での儀式、とミュールズさんが指を折る。
「もしかしたら、姫君が『魔王の雲』を払ったことも伝わってるのかもしれませんね」
「え? どうして?」
「神殿、もしくは皇王陛下が知らせているとか……」
「まさか……」
城門の中に入ってからはゲシュマック商会の馬車は別行動になる。
アルと話ができるのは魔王城に戻ってからになるかな。
荷物などの馬車は真っすぐ王宮に行き、私は第三皇子家に帰る。
そこでお父様とお母様に挨拶して、着替えて皇王陛下に謁見、報告までが今日の仕事だ。
馬車で第三皇子家に着くとお父様、お母様が出迎えて下さった。
リオンにエスコートして貰って馬車を降りてから私はお二人に、深々とお辞儀した。
「お父様、お母様。アルケディウス皇女 マリカ。
ただいま七国訪問から帰って参りました」
「良く戻った。また各国で騒ぎをしでかしてきたそうだな」
「しでかした、って人聞きの悪い」
「事実だろう? まったく……」
「? 何かあったのですか?」
お父様にしてはどこか歯切れの悪そうな様子が気になる。
何かあったのだろうか?
「貴女がいない間にこちらでも色々とあったのですよ。
貴女は本当に、いてもいなくても騒ぎの元なのですから」
くすっと笑いながらお母様はそういうけれど、正直、私がいない間の事まで、私のせいにされても困る。
「お帰りなさい。無事に戻って来てくれてよかったわ」
「お母様」
お母様の柔らかい手が私を包み込むと、幸せな気分になる。
なんだか、ずっと張っていた肩の力が抜けるみたいだ。
「俺からの話は夜にしよう。
まずは皇王陛下に報告だ。休む暇もなくてすまんがいいな?」
「はい」
身支度を整えて王宮に向かうと、私は直ぐに謁見の間に通された。
正式な報告をする場所。
普段なら大貴族達もずらーっと並んで一緒に話を聞く。
今は冬だから大貴族達は少なくて、場にいるのは護衛騎士や文官貴族だけだけど。
「アルケディウス皇女 マリカ。
ヒンメルヴェルエクト、シュトルムスルフト訪問より帰還いたしました」
「ご苦労。其方の活躍はすでにこちらの耳にもいくつか入っている。
……相変わらずやりたい放題だったようだな」
「やりたい放題だなんて人聞きの悪い」
優しいながらも、呆れたような口調で私を諫める皇王陛下。
説得力はないと自分でも解っているけれど、一応反論しておく。
「私はただ、せっかく依頼されて行くのですからその国の為になることをしてきたかっただけです」
「それは解っている。ヒンメルヴェルエクトからもシュトルムスルフトからも其方を褒める言葉しか伝わって来ぬからな。だからこそやりすぎだと思うのだが」
「やりすぎ? 各国がまた来て欲しい、って要請してきていることですか?」
「それもある。まあ、詳しい話は後でゆっくりとするとしよう。
持ち帰った土産の精査と引継ぎを文官にしたら、次の木の曜日まで休暇とする。
ゆっくりと身体を休めるがいいだろう。フェイの件を含む事情聴取は木の曜日に行う」
既にフェイはいつも通り国境から呼び出しを食らって、先行し緊急の件については説明してくれているからだろう。ちょっと疲れているので助かる。
「ありがとうございます」
「来月の終わりにはもう新年だ。参賀の準備などで忙しくなるからな。体調や気力を整えておくように」
「はい」
「週末には私や皇王妃も見舞いに行くかもしれん。その時はよろしくな」
「……かしこまりました」
最後に返事をしたのは家長であるお父様だ。
ただ、まあ、私が休みを貰う、ってことは魔王城に行くっていう事で、皇王陛下や皇王妃様がお見舞いに来るってことは魔王城に来たいってことだ。
冬の間は雪が酷いからいつもなら、町の住居は封鎖しちゃうんだけれどお二人が来たいって言うのなら雪かきしておいた方がいいかな?
それとも話をするだけなら、私が戻って来てゲシュマック商会の応接室で話すか。
今は星月の始まり。一番雪が多い時期だ。
そんなことを考えながら私は謁見の間を後にした。
「マリカ。土産の手配が終わったら館に戻ってこい。
悪いが今日は、旅の間の話を聞かせて貰う。リオンとフェイも一緒にな」
「解りました。お父様」
「今日は館で食事を作らせるからゆっくり休んで、明日から出かけるといいわ」
「はい、お母様」
カマラも来るし、フェイに頼んでやっぱり雪かきして貰おう。
そんなことを思いながら、私は荷物の配分や整理をした。
夕飯は第三皇子家に戻って。館の料理人カルネさんが腕を振るってくれた。
久しぶりの実家の味は嬉しい。ホッとする。
何より作って貰った料理は美味しい。幸せの味だ。
コーンや、棗などの新しい食材はザーフトラク様も興味をもっていらしたので今後一緒に料理研究会をする予定。
食事の席にはリオンやフェイも同席して比較的楽しい、表向きの事を話した。
主にシュトルムスルフトの石油の話。そこから派生した科学製品の話。
皇王家の一般の使用人さんも多いからね。
新しい科学繊維についての話もした。
「そんなに丈夫なのか?
兵士などの武装に使えるか?」
「量産がまだできないので、そんなにたくさんの人には回らないと思います。
科学技術の発展が必要ですね」
石油から作られる素材は面白いものが多いけれど、今のところは魔術師頼り。
向こうの世界のように精霊に頼らず技術で色々な事ができるようにならないと難しいと思う。
そして、食事の後、招かれたお父様お母様の私室で詳しい話をした。
「外ではヴィクスが見張りをしている。人に聞かれる心配は無いから全てを包み隠さず離せ。特に『魔王降臨』のあたりをだ」
「解りました」
フェイの出生についてから『聖なる乙女』の儀式と騒動。ヒンメルヴェルエクトの孤児救出についても話をした。
そして最後はご要望の通り『魔王降臨』とそれに纏わる大聖都の作り話……。
「また、貴女は無茶ばかりして……」
と少し呆れた様子だったけれどお父様は明らかに思案顔。
単純に騒ゆっくり顔を上げると騒動体質の私が引き起こしたことに呆れた、ではない顔をしていた。
そして、私、フェイ。リオンの顔を見て宣言する。
「マリカ」
「はい、なんでしょうか?」
「今年の新年の参賀。俺も一緒に行く」
と。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!