魔王城での奉納舞の後は、みんなで細やかなパーティになった。
ラールさんが色々と料理をもってきてくれてたんだって。
大聖都で今が旬の葡萄と葡萄ジュース、ワインを使った絶品料理の数々。
私、葡萄のジャムなんて異世界ぶりに食べた。幸せの味だ。
「『聖なる乙女』の舞をこんな間近で見られるなど他の商会のも達が見たら、腰を抜かして羨ましがるでしょうね」
「我々も、来年はなんとか連れて行ってやる、絶対に見せてやりたい、と旦那様がおっしゃっていた舞を見せて頂けて感激にございます」
「『星』は私達の力を吸い取ったりなさいませんでしたからそういう意味での演出は少なめだったと思いますけど」
大聖都での舞は、舞による能力吸引の効果が高い。
力を送る事で光の虹がかかった、と言うけれど私には「吸い取られる側」の感覚は解らないのだ。
踊るのと制御するので精一杯で、気持ちいいとかそういうのを感じている余裕は無かった。
「私にはよく解らないですけれど、どんな感じです?
力を吸い取られるのって?」
私はガルフに聞いてみる。大聖都でのパーティではそんな突っこんだ会話は聞けなかったからね。
ちなみに随員達にも聞いてみたけど
「不快なものではありませんでしたわ。むしろ心が蕩けるような、ふわふわと柔らかい何かに包まれるような……」
「酒精を飲んだ時と似たような印象だ。心地よい酩酊があった。後で、歩くのも億劫になるような疲労感が残ったが気にならなかったな」
という返答で、概ね疲れたけれど、いい気分だったという返事だ。
「皆様の印象と、ほぼ同じですね。
舞を見ているうちに、身体から力が流れ出ていくのを感じた。
それは決して不快なモノではなく、むしろ心地よいものであったけれども、後で感じた疲労感はとてつもなかった、と」
「アルは、何か感じた?」
ガルフと一緒に、アルも会場にいたことは解っている。
だから聞いてみる。
アルには特別な『眼』がある。
何か違う印象があるのかもしれない。
「……あの舞が行われる広場、あそこに何か仕掛けがあるのかもしれない」
「え?」
何かを深く考えるようにしながらアルは告げる。
「マリカが踊り始めたら、床、っていうか地面がバーッと熱くなった気がしたんだ。
力が広がっていくっていうか。
その力がオレ達に絡まって、力を吸い取って集めていく感じ。
んで、マリカの舞と舞台の力で、それが空、というかどっかに飛んで行った。
多分、あの舞台でなかったらあんな効果は出ないと思う」
「そっか……」
アルの目は『予知眼』と呼ばれているけれど、この世のものざらなるものや、そのものの先や本質も視る。
私は全面的に信頼しているので、あの時の私の感覚と合わせてやっぱり、と思うだけだ。
「マリカ、あの時、何かもってたのか?」
「? 何かって何?」
「あの時、マリカの力じゃない色の力が混ざってたからさ」
「ああ『星の護り』。『星』が吸い取られる力を少し肩代わりする力を預けて下さったの」
「『星』? お前はやはり『星』と交信できるのか?」
「お父様?」
側で話を聞いていたお父様が声を上げた。
「やはり? とは?」
「アルフィリーガとの旅の間、俺は一度、この島に来て『精霊の貴人』と見えた時がある。
彼女はおっしゃった。エルトゥリアは『星』の聖地。
世界でただ一か所『星』と繋がる場所なのだ、と」
「『星』の聖地……」
「我々の住む大地を作ったのは『星』と『神』と聖典はしているが、実際の所、『神』が台頭し始めたのは『宙』からの来訪者にして魔性達の王。
『魔王』ヴァン・デ・ドゥルーフが現れてからの事だからな」
「! 『宙』からの来訪者? 『魔王』って宇宙から来たんです?」
「『宙』の彼方。天に輝く光の世界よりこの地に堕ちて来た、とされているな。
今はもう、語られることも無い昔話。俺はミオルから聞いたんだ」
「ミオルさんっていうのは一緒に旅した『神官』さんですよね?」
「ああ。『神』が魔王退治に旅立つ俺達の話を聞き、力に、と遣わした者だった」
「『神』が? ……それって……」
「言わなくていい。
実際にそういう役目を背負っていたとしても、あいつは俺達の味方であり、最後の最期で『神』の逆らってもアルフィリーガを守ってくれたんだ。
紛れも無い、俺達の仲間だと思っている」
「そうですか……」
『神』の『聖典』にも退治した勇者の伝説の方がメインで魔王がどこから来たのか、とそういう記述は殆ど残されていない。
『神』と『魔王』が繋がっていると知れば、『宙』から堕ちて来たのが『神』で。
『神』が『魔王』を裏の配下として色々やらかし、後天的に表れた『神』の立場を強化させようとした、と推察できる。
反論しようにも『精霊神』は封印され、『星』は何らかの事情で動く事ができなかった。
『星』の配下たる精霊国女王『精霊の貴人』は『魔王』と何度か戦うこともあったというけれど精霊国滅亡以後は『星』と交信できる者はいなかったという。
「俺もこの地を護るので精一杯だったからな」
「交信する、と言っても、何ができるわけじゃないんです。
ただ、どうしても困った時、エルフィリーネを通して力をお借りできるだけで」
「それだけでも、大したものだ。
『星』に思いを伝えられる。いざという時『星』の意思を確認できる。
今後、『神』と向き合い、世界を変えていく為にはそれが重要かつ、必要になってくることもあるだろうからな」
「はい」
私は指に填まったカレドナイトの指輪にそっと触れる。
『星』は全てをご存知だ。
でも言えない理由があり、自分で動けない理由があり、私達にその決断を委ねて下さっている。
できるならその想いに応えたいものだけれど。
その後のパーティは賑やかに和やかに進み、終わった。
月齢で言うと十カ月になる第三皇子家の双子ちゃんは驚くくらい活発で男の子のフォル君はもうつかまり立ちをする。
ハイハイも早い。
お父さん似なのだろう。運動神経もかなり良さそうだ。
女の子のレヴィ―ナちゃんはまだつかまり立ちはしないけれどハイハイは相当に上手だ。
逆子だったので発育が心配だったけれど、脳の障害とかも残らず可愛らしい笑顔を見せてくれる。
「赤ちゃん、かわいー」「かわいいね」
簡単な声も上げるようになってきた。
普段は館の中で過ごし、殆ど外に出る機会も無いという二人は、木陰から抜け出し青空の下元気に動き回っている。
パーティ会場の一角に敷物を布き、自由に歩き回るようにしたら子ども達が興味深そうに近寄っていくのが微笑ましい。
特にリグは彼らと仲良くなりたくて近付いていくのだけれど、まだ一緒に遊ぶまでいかない赤ちゃんには思いが通じず、無視されて困った顔をしている。
いい子だね。
離乳食も始まっているので葡萄ジュースとかはごくごく、喉を鳴らして飲んでいる。
それもまた愛らしい。
子ども達の笑顔を見ていると本当に幸せな気持ちになる。
そして彼らが生きる世界を、笑って皆に愛されて生きられる世界を作りたいと心から思うのだ。
パーティがお開きになり、カマラとノアールはお母様達と一緒に向こうに戻った。
「明日は礼拝がありますから、早めに戻ってくるのですよ」
「はい。解りました」
釘はさされたけど、もう一泊してゆっくりしていきなさい、というお母様の心遣いはありがたい。
「お父様は、もう一泊こちらに?」
「いや、先に戻っている。アルフィリーガ。
ちゃんと帰って来いよ。
お前にも、やらなければならいことが山積みなんんだからな」
「ああ、解っている」
第三皇子家関連の人達は、みんな戻り、アル以外のゲシュマック商会もみんな戻り、パーティ会場を片付けて私達は魔王城に戻って行った。
皆でお風呂に入り、なかなかかまってあげられないお城の子ども達にお話を聞かせて、寝かしつけ。
私が自分の時間を取り戻したのは、夜の刻の頃だった。
バルコニーを開くと宙には満天の星が煌めく。
時間の約束はしていなかったのだけれど私が着いた時。
そこにはもう、彼等が待っていた。
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