精霊の力。
この世界に生きる人々を守る『助けの力』であると『精霊神』ラスサデーニア様は私に教えてくれた。
「僕達がこの大地に根付いて千年以上。
今この星の上に生きるモノは多かれ少なかれ体内に『精霊の力』を有している。草木も、花も動物も、勿論人間もね」
「精霊の力と精霊は別なんですか?」
「別じゃないよ。
『精霊の力』が集まって意思を持ったものが『精霊』だって思っておくといい。
単体では殆ど意味をなさない程極小の『精霊の力』に命令を与え、正しく動かす為の存在が『精霊』だ。」
『星』が生み出す『精霊の力』は人々を守る意思や力があるけれど、本当に小さくてそれ単体だとあまり意味をなさない。
それに命令する存在が『精霊』なのだという。
「『精霊の力』がある程度纏まると『精霊』になる。
自然物に宿る『精霊』の殆どは自然からしか気力を補充できないから、自分の使命。
大地なら作物を豊かに実らせる。植物なら健やかな実を付ける。風なら空気を適切に運ぶ。
それくらいのことしかできないけれど、人の手がかかり、気力を分け与えると、人を模倣して形を取ることもあるし、より強く役割の力を果たすことができる」
「動物や人間の中に入っている『精霊の力』は『精霊』になったりしないんですか?」
「生き物の意思の方が圧倒的に強いから表に出れる程強い存在にはなかなか、なれない。不老不死者は邪魔する存在も入っているし。でも『能力』という形で子ども達を助けているだろう?」
「『能力』ってそういう仕組みだったんですか?」
人間の体の中に宿る『精霊の力』。それが人間の意思に応え力を貸したものが『能力』
なるほど。
「小さいって、どのくらいなんですか?」
「目に見えない塵、君に説明するならウイルスって感じ? 空気中にも散っているし、植物の中にも、動物の血液にも水にも大地にも、今はありとあらゆるものに混ざっているよ。
長い時をかけて『星』が守り、育ててきたから。今も『星』はこの世界全てを見守り、必要な場所に必要な『精霊の力』を送り続けている」
基本的に自己増殖や意思、修復機能を持たない根本の『精霊の力』生み出すのが『星』。それらを管理し、利用する存在が『精霊神』であり、その力を分け、意思を与えた『精霊石』であるという。
「『精霊の力』の存在を伝え、その使い方を知らせる為に、僕達は一度だけ肉体を作って地上に降りた。そして選んだ相手と子を成して『精霊の力』を人間の意思で使える存在。
王族魔術師を作った」
各国の王族魔術師は『精霊神』から与えられた資質と『王の精霊石』による命令権によって人々の生活を助け、豊かにした。
そこに『神』(と魔王)が降臨して、『精霊神』を封印。『精霊の力』を乗っ取ろうとした。『星』と、封印された『精霊神』は『神』をけん制しつつ封じられ、限られた範囲内はあるけれど自分達の分身である『精霊石』を作り人間にも『精霊の力』が使えるようにした。
「あれ? 魔術師の『精霊石』が生まれたのは『神』の降臨後、なんですよね?
でも、シュルーストラムの妹石っていうのがいたような……」
「王の杖」七人の特別な精霊石は魔術師の精霊石よりもずっと先に生まれたのなら、エリセの首飾りの精霊石 エルストラーシェの存在は?
「……それはさ、シュルーストラムの特殊な事情によるものなんだ」
「特殊な事情?」
「それを言う権利は僕にはない。この風国が『精霊神』の怒りを受けた原因と結果に由来するから。いずれ、この国の『精霊神』が復活したら聞いてみるといい」
「解りました」
結界を張った秘密空間でも、言えないことは言えない。
誰に聞かれるからではなく、本当にきっぱりと『精霊神』様達の情報には鍵がかかっているのだな、と改めて感じる。
「で、今更ながらに言うけど君とアルフィリーガ。君達二人はその中でも特殊な存在だ。
『精霊』達は助けの力を持っているけれど、それを自分の使命以上に強く発揮する為には『気力』が必要だ。『気力』とは意志の力、願いの力。『生命力』と言い換えていい。
生きる為の意思の力が『精霊』を動かす」
「生命力」
「そう。『精霊神』は『精霊の力』があって、その使い方を知っていても生命力がほぼほぼ無いから、それを人間から捧げて貰わないと大きな力の行使ができないんだ」
つまり万物には『精霊の力』という自然を動かし、この世界の生き物(主に人間)を助けようという星の意思が宿っている。それは目に見えないくらい小さなもので、普段は与えられた命令に従って自然と共にあるけれど、それを知り、使える存在。
『精霊神』とか『精霊石』とか『精霊石』をもった術師の命令と気力があれば『助けの力』を発揮して生活を便利にする力を発揮してくれる。
『精霊神』や『精霊石』は『精霊の力』には強く介入し力を発揮できるけれど、動かす為の『気力』が足りず単体では大したことが出来ない。魔術師や私のような存在の補助が必要なわけだ。
「君たちは体内に『星』から直接授けられた、他の人間より多い『精霊の力』を宿しつつ、人間の『気力』、『生命力』をもっている。
だから、人間以上の力を発揮することができる。
その血液、体液にも普通以上の『精霊の力』が込められている。
今後は気を付けて。
使ってみて解ったけれど、君に与えられた『星の精霊の力』は想像以上に強い。祈りという名の気力と共に捧げられた血液は濃縮された無色万能の力で、僕が緑の力に変換して使っても、管理人やアーレリオス、カレドナイトの助けはあったけど、大地をあれだけ変えることができた」
「もし、私がシュトルムスルフトの最初の計画の通り、オアシスを作る、に協力していたらどうなっていたと思いますか?」
「普通に『精霊の力』がある場所では大した意味はないかな。その土地の精霊を少し元気にするくらいだ。
ただ、このシュトルムスルフトの砂漠は『精霊の力』が完全に奪われている状況だから。
そこに最高純度の『精霊の力』が落とされれば、とんでもない反応を引き起こして多分、相当に大きなオアシスができていたと思うよ。一つの街くらいの大きさ?」
「いっ!」
「僕らも計算外だった。まさか『七精霊の子』がもつ『精霊の力』をこんな風に悪用しているところがあるとは。まあ、今回はそれを僕達もちょっと利用させて貰ったけれど」
「利用って何かしたんですか?」
「封印されているこの国の『精霊神』に力が行くように繋いだのさ。
これでこのオアシスや近辺の気力は直で『精霊神』に行くから少しは奴も回復できるはずだ
上手くいけばアーヴェントルクのナハトみたいに、あっちからコンタクトをとってくるかもしれない」
「そうですか」
「もし、この国の国王がドヤ顔で、もっと儀式をとか命じてきたら受けてやって。
あいつらには少し、仕置きが必要みたいだ。僕も本気でちょっと怒ったから」
「お仕置き?」
「いずれ話すよ。とにかく君は今後、うかつに血や体液を他者にとられないように気を付けること。そしてシュトルムスルフトの王族には極力気を許さないように」
「はい。あ、でも王太子様もですか?」
「あの子は……まあいいかな? でも彼女以外には本当に注意するんだよ。
僕らはちょっと僕らで動くけど、必要な時が来たら必ず助けるから」
「解りました。ありがとうございます」
そうして、気が付けば私は部屋に戻っていた。
時間は多分、殆ど過ぎていないような気がする。
精霊獣はいない。さっきの言葉が正しければ色々と思惑がおありなのだろう。
「そうだ。忘れないうちにさっきのお話を書き留めておこう」
さっきの夢の中の会話はまだ、ちゃんと残っている。
私は筆記用具を探し、ペンをとった。
そして一番に、書いたのだ。
ラス様が、さりげなく教えてくれたシュトルムスルフトの秘密をこっそりと。
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