【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国 結婚の報告 ×2

公開日時: 2024年11月18日(月) 08:28
文字数:3,769

 私達はアルケディウスに戻って、すぐその足で皇王陛下と面会。

 リオンとの正式な婚約、結婚の承認を願い出た。


「無論、許可する。遅きに逸したくらいだな」


 皇王陛下は即日、面会に応じてにこやかに許可を出して下さった。

 お父様と同じ笑顔。

 親子だなあって感じる。

 その後、お披露目は秋の大祭終わりの舞踏会で、とか細かい日程についてすり合わせをした。


「今年は七国全てで秋の戦を見送ることとなった。まだ各国、不老不死後の混乱が収まったわけでは無いからな」


 不老不死が失われて数か月、何人か既に老衰や事故死などだけれど死亡案件も出ている。

 昔だって、人が死ぬということは、恐怖で。

 人間の思想や、宗教などはほぼ全てその恐怖を乗り越える為にあったと言っていい。

 まして今まで、当たり前にあったものが失われることへの後悔、そして蘇った死への恐怖はやはり、簡単には消えることは無いだろう。

 そんな中、今までは死ぬことが無かったから遊びで済んだ戦争を、無理に行うのはどうかとの声が上がり、今年の戦は見送られることになった。

 今後、各国の対抗戦などを行うにしても、違う形で行われることになるんじゃないかな。


「だが、こんな世になったからこそ、今年は各国総力を挙げて祭りを盛り上げる事と決まったのだ。

 王家が主導をとり、酒や食を振る舞い、人々が生きる楽しさや喜びを思い出せるようにする」

「とても、良き事であると思います」

「各国から、日程をずらす故、其方に舞を納めて欲しいとの依頼もあるようだ。詳しくは神殿に戻ってから確認するがいい」

「かしこまりました」


 結婚の報告と、今までのお礼もかねて、各国の精霊神様にご挨拶しにいくのは悪い話では無い。フェイと相談して検討しようと思う。


「それから、成人式だがアルケディウスで行う。これは問題ないな」

「はい。失われた儀式を復活させることで、今後市井で生まれた子ども達にも、成長を寿ぎ祝福を受ける機会を作りたいと考えております」


 この世界では誕生日を祝う習慣が無かった。孤児達は皆自分の誕生日どころか生まれ月も知らない子が殆ど。

 でも、この星に生まれてきたことを祝福する日や、大人への仲間入りを祝う日はあってもいいと思う。だから、誕生日が解るフォル君とレヴィーナちゃん、ラウル君やフォルトフィーグ君、魔王城のリグには、毎年プレゼントを送っているし、解らない子にも年に一回はお祝いをしている。


「プラーミァを始めとする各国から、其方達に祝いをしたい、今後の参考にしたいから見に行きたいという声もあるので招待するつもりだ。良いな?」

「皇王陛下の思し召しのままに」

「新年の会議で其方らの結婚式を行うとなると、日程はかなり厳しいがな」


 本来、成人式は一年の終わり。

 大晦日に行っていたらしい。

 ただ、私達がアルケディウスで成人式をやって、来賓もアルケディウスに来て、その後、直ぐに新年の儀式、となると大変だから、日程をずらして下さる予定らしい。


「だが、他国の王族がアルケディウスに集まるとなると、ライオットとティラトリーツェの結婚以来の事となる。アルケディウスの面子にかけて、最高のもてなしをしたいと思うので協力を頼む。本来主役である其方達に頼む話では無いが、成人を機に其方達は大人として、皇家から、独立。新たなる立場で神殿を率いていくことになる。

 最後の務めと思って力を貸してくれるとありがたい」


 少し、寂しそうな声音が皇王陛下の下知に宿る。

 そっか、結婚するってことは、その家から離れるってことだもんね。

 皇王陛下にとっては孫娘を嫁がせるようなものなのかも。

 だったら。


「はい、全力で努めさせて頂きます。

 それに、結婚しても私が、お父様とお母様の娘で、皇王陛下の孫であることには変わりがありませんので、今後も見守って頂ければ嬉しいです。

 お祖父様」


 最後まで、精一杯、自分で言うのもなんだけど、可愛らしくて困りものの孫娘で在り続けよう。甘えるような口調で、私が告げると皇王陛下、一瞬、目を見開くとくくくっって、心底楽しそうに笑い始めた。


「当然だ。こんなに手のかかる孫娘を、放置などはしておけぬ。

 ケントニスに皇位を譲れば、少し暇にはなるからな。そしたら数百年ぶりにやりたいことをやらせてもらうつもりだ。

 覚悟しておけよ」


 ははは。

 やりたいことって、魔王城に来て、私に女王教育して、憧れの精霊国を再建させるってアレかな~。

 私は大神殿の指揮があるけれど、今後、魔王城の島に神の子ども達を受け入れたらどうだっていう話もある。まだ十万人弱の地球移民が冷凍睡眠で眠りについている。

 早く起こしてあげたいところだ。

 ただそうなるとティーナだけの手には負えなくなるだろうし、指揮して頂く方は欲しい。お祖父様にエルトゥリアをお任せするのはありかも……。

 と! いけないいけない。聞き流すところだった。


「あ、ということはケントニス様の皇王即位が決まったのですね」

「ああ、なんとか全ての大貴族達の承認を得られたようだ」

「それはおめでとうございます」

「其方らの結婚式や、成人式はともかく、冬に行事を行うにはアルケディウスは寒い。

 正式な式は来年の夏の社交シーズンに行う予定だ。

 その時にもまた、力を借りねばならぬかな」

「解りました」


 皇王陛下と話をしながら、私はふと考える。

 来年の事をすると、鬼が哂う、というのは向こうの世界の言葉だけれど、私はどのくらいまでこちらの世界で仕事をしていけるだろうか。

 一年先か、十年先か。

 先の見えない自由時間。


 リオンと結婚して子どもを作るくらいまでは、できればその成長を見守るくらいまでは、できるといいのだけれど。

 まあ、考えても仕方のない話だ。もしかしたら、星子様がうんと頑張って下さって、フェイやアルを看取ってからということになるかもしれないし。


「ああ。それから、留守の間にヒンメルヴェルエクトのマルガレーテ公子妃から、謝罪と面会希望の連絡が来ていた。大神殿に帰る前に連絡をとっておくがいい。

 通信鏡を使っても良い」

「ありがとうございます」


 マルガレーテ様とはそう言えば、アルの誘拐の件以来会っていない。

 不老不死剥奪の儀の時には、同行されていた筈だけれど、私も気にしている余裕が無かったし、その後、各国の慰問に行ったりしたけれど、ヒンメルヴェルエクトには足を踏み入れていなかった。

 要請があったら行くつもりはあったのだけれど、呼ばれなかったのだ。色々と込み入った事情があるのだろうと、向こうの反応を待っていた形。

 連絡が来たのなら、ちゃんと向き合おうと思う。マルガレーテ様やオルクスさんが本当に『神の子ども』だったとしたら、『神』と連絡が取れなくなったことで不安になっているだろうし。


「それから、な。ソレルティアが其方らに話があると言っていた。

 時間をとってやってはくれないか?」

「え? ソレルティア様が? 私に?」

「正確には、其方達に、だ。私も驚いたのだがな」

「驚いたって、何をです?」

「それは、本人から聞くがいい」


 くすくすと、楽しそうに笑うお祖父様はそれ以上を教えては下さらなかった。

 なんだろうと思いつつ、退室すると。


「マリカ様。お声掛けの御無礼をお許し下さい」


 待ちかねていたように、扉の外で声をかけられた。

 金髪、碧の瞳。

 精霊に愛されたアルケディウス王宮魔術師に。


「ソレルティア様」

「マリカ様、リオン様。お二人の御婚約を心からお祝い申し上げます」

「ありがとうございます。耳が早いですね。

 今、皇王陛下達にご報告したばかりなのに」

「フェイから、連絡を貰いましたので……」

「フェイから?」


 フェイは、リオンと私の婚約が決まり次第大聖都に戻った。

 結婚式にあれやこれや暗躍している筈なので、アルケディウスに戻っている時間は無かった筈だけれど。


「個人的に連絡を取り合っているのですか?」

「はい。実はその件も込みで大事なお話があるのです」

「大事な話、ですか?」

「はい。大聖都にお戻りになる時に、同行させて頂けないでしょうか?」

「それは構わないですが……どうして?」


 私は改めて、にこやかに微笑むソレルティア様を見やった。

 元はスレンダーと言えるくらいしなやかで、カモシカのようだったソレルティア様。

 服装も動きやすいものを好んでいたのに、今日はゆったりとしたローブだ。

 それになんだか全体的にふっくらとした感じがする。

 あれ? もしかして……?


「! ソレルティア? お前、妊娠してないか?」

「え?」

「流石でございますね。はい。

 妊娠四か月ほどでは無いか、と言われております」


 嬉しそうに腹に手を当てるソレルティア様。

 え? 妊娠?


「まさか、相手は……」


 リオンの片目が、エメラルドのような煌めきを宿す。

 アルやリオンの持つ予知眼というのは、高度演算機能だそうだけれど……その目が告げなくても、皇王陛下が驚きながらも受け入れ、私達に許可をとらなくてはならない相手など一人しかいない。


「はい。まだ本人には告げていないのですが。

 私は、フェイとの子を身籠ったようです。叶うなら産みたいと望んでおります」

「「ええええっ!」」


 私とリオン、二人のユニゾンがアルケディウス王宮に響き渡った。

 廊下で大声を上げるなんて、お行儀が悪いと後で怒られたけれど、信じないわけにはいかなかった。

 それを告げ、私達を見つめるソレルティア様の微笑みは、本当に楽しそうで、幸せそうであったから。



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