【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

地球 絶望の先の未来

公開日時: 2024年10月16日(水) 08:47
文字数:4,217

 少年と少女が、互いの気持ちを確かめ合っていた同じ時。


 けれど……同じ時、別の場所で交わされた会話は、


「俺達は、きっと遠くない将来、コスモプランダーに意識を乗っ取られ、道具にさせられる。

 そう言う風に作られ、生み出されたんだ」


 逆に絶望と閉ざされゆく地球の未来を確信させるものだった。



 真理香先生の病室。

 第一世代達の会議。


「取り返しがつかないことになってからでは遅いからな。既に一部、上や研究員達にも話してあるが、皆と共通理解を図っておきたい」


 シュリアさん、未来のアーレリオス様。

 元教師、というか大学の教授に近い立場にいたらしい。

 身分もかなり高そう。

 解りやすく、伝えやすく説明する技術を持っていると、向こうでもこちらでも感じさせる話し方だ。


「実は、前々から考えて、いや感じていたんだ。

 俺達が何故生存し、何故『能力者』となったのかを」

「偶然、ウイルスに強い抵抗を持っていたから、じゃないのか?」


 シュリアさんの言葉に、ティムール君(多分シュトルムスルフトのジャハール様)が首を捻る。否定しているわけではない。むしろ否定できない事実だと理解した上での再確認だろう。


「無論、それは大きい。人類数千年の間に築き上げられた奇跡の遺伝子が、我々の中で発現。奇跡を起こしたことに間違いないだろう。

 だが、おそらく奴らは想定していた筈だ。我々のような特殊例の出現を。

 全ての人間を全滅させるつもりはなかった。

 幾人かはモンスター達を束ね、星を奴らの住環境として整える為の召使にする予定だったのではないかと考えられる」

「召使?」

「召使、というのは多分、身分が高すぎるな。奴らは俺達を同じ知的生命とは見ていないだろうから。人間をモンスターに変えたのはおそらく、彼らの口に合う食料とする為。

 そして俺達は、その餌を束ね、管理する役割を期待されているのだろう」

「あの……変化した人間……いや、怪物たちが、コスモプランダーの……食料?」


 年少組が湧き出る悪寒を、吐き気を押さえるように口を押えている。

 真理香先生たちは直接見てはいないけれど、彼らは目の前で人間が魔性に変化し、死体を喰らう様を見てきた。

 いや、先生や神矢君達も、その光景は見させられている。

 ネット通信が回復した各地の定点カメラには、その悲惨な光景が映し出され、残されていたからだ。悲惨な現状を見せつけ、自分の立場を理解させる為に、繰り返し繰り返し。

 死んでいく子ども達を、悲鳴と共にモンスターに代わっていく人間達を、彼らは見させられていた。


「変化した大気や地質も、彼らが住みやすい環境なの?

 だとすれば、奴らは……近いうちに地上に降りて来るってこと?」

「おそらく、な。

 おい! 研究員共。まだアメリカ東海岸は生きていると聞いている。NASAなどから大気圏外に陣取っているであろうコスモプランダーの情報とか入ってないのか?」


 監視カメラでこちらを見られている前提。

 泰然と告げるシュリアさんに応えるように、真理香先生のスマホ、エルフィリーネが人工音声を紡ぐ。


「メールにて情報が届いております。

 現在、観測衛星その他は殆どその機能を失っておりますが、コスモプランダーと思しき個体群は地上からも観測できているようです。最初は衛星軌道上にあったそれらが徐々に地球に近づいてきてると」

「やはり、な。奴らはおそらく、人間のように単体では宇宙空間で生存できないのだろう。宇宙船に準ずるものに乗って移動し、目ぼしい星を発見したらナノマシンウイルスをもって寄生。星を彼らの住みやすい環境に作り替え奪い取る。正しく略奪者、だ」

「じゃあ……僕達は、彼らの住環境を整える為に、手加減して生かされた……?」

「その気になれば、奴らは地球全てにナノマシンウイルスを投下し、環境を変化させることが可能だった。それをせずに、じわじわと我々の生存域を狭めているのは我々のような管理人が生まれ、奴らの為に地上を均すことを期待しての事ではないだろうか? 従えと、我々に命令して来る相手だ。

 上位種族を自認しているのなら、奴隷なども欲しいだろう」


「そんな……」

「最初の頃は、殆ど聞こえなかった奴らの指令電波が、最近ますます強まっているのを感じる。と、同時、力も上がり、できることも増えた」

「それは、奴らに対抗する為、じゃなくって……」

「ああ、奴らの餌となるモンスターを管理する為。俺達は奴らに襲われず、ある程度退ける力を与えられていると見るべきだろう……。芽生えたナノマシンウイルスを操作する術も、奴らのいいように環境を整えることを期待されてのものだと思う」

「た、旅の途中で、聞こえたんだ。モンスター達の、声。」

「ルド……」


 シュリアさんの言葉を補足するように、ルドウィックさん。ナハトクルム様は言葉を慎重に選びながら紡いでいく。


「あいつら……、何故、何故? って俺達を、呼んでた……。

 どうして、お前達は、そっちにいるのだ、裏切り者、って……」

「裏切り者?」

「モンスター共に、人格や、思考力が残ってんのか?」

「多分……、少しだけかも、しれないけど」


 彼は死者や人の精神系に介入できる力があるらしい。

 おそらくはモンスターにも……。


「人格がどの程度残っているかは解らない。ただ、我々を裏切り者、と呼ぶのだ。既に肉体が変化した連中は脳内まで支配されている、と見て間違いない。

 皆、聞こえている筈だし、感じてもいる筈だ。俺達の体内で蠢く奴らの意思を……」

「べ、別に、そんなに強くもない声だぜ。母親が勉強しろって言うのと同じくらいの感覚だ」


 なんでもない、というようにティム君はワザと笑って見せる。でも、それが虚勢であることを仲間達は誰よりも解っていた。


「今は、だ。でも今後、命令は強くなっていく。現にそうなっていると、誰よりも我々が知っている。

 そもそも、俺達自身、ナノマシンウイルスに馴染み過ぎている。こうして、違う言葉をしゃべっているのに意思疎通ができていることになんの違和感も感じぬ程に」


 私は、宙から見ていたから、彼らが異国人同士でありながら普通に楽し気にしゃべっていることに違和感を感じなかったけれど、そうか。

 ナノマシンウイルスの自動翻訳機能だったのか。


「ステラのナノマシン精製能力により、俺達の能力は上がっている。それぞれ、得意、不得意はあるが自然物や人工物もナノマシンウイルスが触れていればそこから、変化、加工ができるくらいには。

 それはつまり、ナノマシンウイルスに馴染んで、支配されつつあるということでもある。肉体に混入したナノマシンウイルスが、今、どんな働きをしているのかも、俺達には確認する術がない」

「力が増加したって、素直に喜んでいられないってことか……」

「この先、奴らの指示電波がさらに強化され、我々の脳を浸食し始めたら、逆らい続けられる保証は何もないぞ。コスモプランダーが最終的に地上に降りて来て、俺達に鎖をつけようとしたら、どこまで抗えるか……。最悪、モンスター達のように反抗の意思さえ消え失せ、奴らに吞み込まれる可能性もある」

「そうなったら……僕達はどうなるの?」

「さっきも言ったろう。奴らの奴隷、牧羊犬だ。地球全土は遠からずコスモプランダーの住みよい世界に作り替えられ、地球46億年の歴史は全て水泡に帰す」

「そんな……」

「気になるのはワクチン投与で人間形を保っている者達だな。怪物に変えられた者達が食料なら、彼らは奴らの口に合うのか……」

「怖い事言うの止めてよ。アーレリオス!」

「だが、食料たちのおそらく鮮度、質を保つために不老不死に近い、傷つくことを禁じるプログラムをナノマシンに組み込めるのだ。奴らに、俺達はどこまで、何ができるのか?

 現に我々は一度作り替えられた汚染地域を元に戻すことは。能力の全てを駆使してもできていない。

 浸食を止めるのが精一杯だ」


 シュリアさんの宣告の後、部屋は静かな沈黙に包まれた。

 自分達はわずかに残された地球の希望だと、そう思って持ちこたえていた彼らの精神はもう限界を迎えている。

 神矢君ではないけれど、日々繰り返される、採血、検査、実験は非道かつ過酷で壊さないように、壊れないように細心の注意を払われながらも能力の複製、強化を目指してありとあらゆることを強いられていた。

 特に唯一の女性である真理香先生は、シールドの維持に全体力、気力、能力を奪われながらも排卵誘発剤や、成長促進剤を限度ギリギリまで投与され続けているようだ。

 子宮や卵巣内部を弄られ、卵子を取られ。奪われた種子は第二、第三の能力者誕生を願って試験管の中で加工を施されている。


 だが、そんな彼らの苦悩も所詮は、時間稼ぎに過ぎないのだ。元より、コスモプランダーと地球とでは地力が違いすぎる。

 奴らはいつでも地球を滅ぼせる。けれども、こちらには彼らに届く武器は無い。核爆弾もミサイルも無意味。モンスターはほぼ不死身で人間達の銃も効果は殆どない。

 その上で、能力者達が敵の手に囚われることが確定なら、先に待つのはコスモプランダーに全人類が支配される未来。

 勝負にならないワンサイドゲーム。


「でも、諦める訳には、いきませんよね……」

「マリカ?」


 俯き、すすりなく第一世代達は、たった一人顔を上げた女性を見やる。

 彼女の眼は、遠く高く、ここでは無い何かを見つめているようだ。


「私達が、諦めたら、この地球の歴史、人類が紡いできた文化、科学、歴史、全てが無駄になってしまう。無意味に消えてしまう……。せめて、少しでも未来に繋げないと。

 子ども達だけでも、助けないと……」

「未来に、繋げる? でも、この星に、もう未来は……」

「未来はあります。希望も。星子ちゃんと神矢君。二人の第二世代。

 そして、私達と地球に生き残った全ての人達の、全部を賭ければ、0ではない可能性が」

「方法が、あるっていうの? マリカ?」

「あいつらに、一泡ふかせてやれるのか?」

「一泡、は無理でも、少しは悔しがらせてやれるかもです。

 本当に、それくらいしかできないのですけれど……」

「このまま、蹂躙されるよりはマシ、ということか?」

「はい。後は、それをやるか、やらないか。決める権利は私達にはないのですが……」


 再び、真理香先生のスマホが唄い出す。

 未来への希望の歌を。


『詳しく、話を聞かせて貰えないか? ティエイラ。いやマリカ先生』



 この日は、もう残りわずかしかない地球に生きる人々にとって、最後の転換の日となった。

 地球の希望が未来に飛び立つまで、あと100日。

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