魔王城の島の空気も随分冷たくなった。
暦の上では空月の終わり。
もういつ雪が降ってもおかしくない。
今年多分、最後の外出になると思って、私はみんなで城下町にでかけることにした。
時期的にもう採取できるものはないし、来年用の麦の畑の準備まで完了したので、ティーナとガルフが使っていた家の片づけと封鎖。
後は最後の外遊びを楽しませてあげようと思ったのだ。
ついでに、ちょっと私用もコミコミ。
「今日のお外は探検ね。おうちの中に何か面白いモノがないか探してみよー!」
子ども達を四つのグループに分けてそれぞれで城下町の家の中に使える者が無いか、探してみるという探検ごっこ。
「はい、班分けするよ。リュウと、ジャック。ミルカとエリセは私と行こう。
アーサーとアレクはアル兄のいうことよく聞いてね。
シュウとヨハンとギルはフェイ兄と一緒。リオン兄がクリスとジョイをお願いします」
「りょーかい」「解りました」「任せとけ」
まあ、探検ごっこと言っても実用は勿論ある。
廃墟とはいえ他人の家を漁るのは申し訳ないのだけれど、実は鉄が切に欲しいのだ
魔王城に保管されていた鉄の資材。
釘とかは実はそこまで量が無かった。
「すみません。私が管理していますから、修理道具など基本必要ないので…」
「謝る必要ないよ。エルフィリーネ。
おかげで快適生活させてもらってるんだから」
色々な改築や、スモーカー作りなどで大よそ使ってしまい、最近は使っていない鎧や武器を加工して使っていた。
でも
「あんまりこわしたくないなあ。この鎧。
丁寧に作られているのに、壊したら戻せないもの」
「だったら、城下町で素材を探したら? 古い鍋とか壊れた道具とかあるのでは?」
「それいい! 加工は冬の間やればいいもんね」
というわけで、今日の探検となったのだ。
「なーべ!」
「あ、おなべがあった? ありがとう。ジャック。足元、気を付けて」
一軒の家に入って、中をみんなで探索する。
石造りの家だから、基礎はいがいとしっかりしているけれども、あちらこちら崩れているところがあるので注意はしないといけない。
ジャックが見つけてくれた古い鉄鍋は少し腐食しているところもあるけど、割と形を保っている。
「マリカ姉。こっちにもお鍋いくつかあるよ」
エリセが指さした先には確かに大小の鍋、それから柄は無くなっているけれどナイフと思しき刃もあった。
石造りの大きな竈とか、同じく石造りの作業台とか割れたお皿があるので、もしかしたら、ここは食堂か、パン屋とかそんな感じの飲食を扱うお店だったのかもしれない。
「すみません、大事に使わせて頂きます」
私は自己満足と解っているけれども、手を合わせて声をかけてから鍋などを外へ運び入り口に積み重ねた。
後でアーサーや男の子たちに持って行ってもらうためだ。
子ども達はあちらこちらを本当に探検気分でのぞき込んだりしながら、色々なものを見つけていく。
布類は全滅、木材もほぼほぼ朽ちかけ。石と鉄がかろうじて残っている感じだけれど。
調査何件目か。
「姉様、これはなんでございましょうか?」
部屋の隅にあったものをミルカは指さす。
完全に崩れているけれど、固い丈夫な木材を複雑に組み合わせてあったようだ。
「うーん、多分機織り機械とか、そんな感じかな?」
一つ一つのパーツに、なんとなくそんな面影がある。
かなり本格的な地機織機のような気がした。
「これで、布を作るのですか?」
「そう。羊とかから毛を刈って脱脂して羊毛を作って、それを布に織り上げるの」
ミルカもきっと見た事は無いだろう。
普通の家ではあまり見ないものだ。
魔王城はお城だっただけに、たくさんの人が住んでいたらしく衣服などの貯蔵がかなりあった。
それを使って着替えを作ったりしているけれど、補充の目途がつかないから減る一方だ。
今の人数が暫く使う分はあるけれど、今後、子ども達が大きくなることや、子どもが増える事を考えると外で補充する事も考えないといけない。
幼稚園や学童でやっていた子どものお遊びレベルの機織り器では使用に足る布は作れないと思う。
何よりけっこう手順が難しいのだ。糸の準備とかかけかたとか揃え方とか。
糸紬は私も出来ないし、やったことがないし。
これも今後の課題かな?と思う。
「そういえば、この島に今は羊、いないのかな?」
前はいたようなことをリオンが言ってたけど、野生化しちゃってるかも…。
「ぴょーん!」
「あ、木とか石とか危ないから気を付けて! リュウ」
ちょっとした場所を見つけて子ども達は直ぐに遊び始めてしまう。
まあ、今回の探索はそこまで真剣なものではないので、いいんだけれど怪我はしないように注意しないと。
私は少し未練が残る機織機械に背を向けて、リュウのところに走って行った。
お昼頃、みんなで集まってごはんを食べながら成果を話し合う。
「とりあえず鉄っぽいのはいっぱい集めておいた。
オルドクスと一緒に城に運び込んでおくから」
「ありがとう。アーサー。すごく助かった」
城に戻りホットドック風ソーセージサンドイッチを食べながらアーサーが胸を張る。
みんな色々と頑張って探し集めておいてくれたらしい。
エントランスは鉄製品でいっぱいだ。
とりあえず、そのまま使えそうなものは使って、使えないものは鉄板に形を変えて保存しておく。
後で釘とかにして使おう。
ありがたい。ありがたい。
「あと、マリカ。探していたものはこれですか? ギル」
「これ、ぼくがみつけた」
布に包んだ包みをギルが自慢そうに差し出してくれる。
中をそっと開けると
「うわあ、ホント工具だね」
その中には確かにいろいろな工具があった。
やすり、ピンセット、第三の手…第三の手っていうのは小さな部品を掴んでおく固定ピンセットみたいなもの、あとは金づちとかヘラとか。
鏨までたくさんある。
「工房らしい家で、石の箱の中に大事に入っていたんですよ。
布にくるまれていたので、布の腐食はありましたが保存状態は良さそうですよ」
「うん、凄くいい。一つお手本があれば同じものを作れるからこれは凄く助かる。
ありがとう。ギル」
私がギルをぎゅーっと抱きしめると
「マリカ姉。それなあに?」
興味津々の顔で包みを覗き込むのはシュウだ。
「これはね、アクセサリーとかを作る時に使うの。
こうやって小さいものを持ったり、金づちで叩いて金属を曲げたり、とか」
「へえ~。すごいねぇ」
「シュウ使ってみる?」
「いいの?」
「うん、その為に探して貰ったんだから」
私が何かを作るならギフトを使えばいい。
シュウや他の子ども達が冬に何かチャレンジする手助けになればいいと思ったのだ。
「ただし、ちゃんと使わないと危ないし、怪我の元だから。
使う時はふざけない。約束できる?」
「うん!」
「じゃあ、教えてあげるね」
もうシュウは木工関係が本当に上手になっている。
金属加工はまだ早いかもしれないけれど興味があるのなら側に付いて教えてあげられる冬に少し教えてあげたいと思っている。
この世界では紙が使えないから、お絵かきや工作ができないんだもん。
「ぼくもやりたいなあ」
「ギルもやりたいなら木工からやってみようか?」
みんなとワクワクそんな冬の予定を考えるうち、
「あ、雪!」
空を覆った分厚い雲から、今年最初の雪が降り始め、冬が始まった。
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