【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

魔王城 星と神のこれから

公開日時: 2025年2月19日(水) 08:35
文字数:3,719

 親子の和解を見届けた後、私達は色々な話をした。

 具体的には今後のアースガイアについて。


『私は当面、ステラに従ってこの星の維持管理の手伝いに勤しむ。

 交換条件は可能な限り早い、船に眠る子ども達の受け入れだ』

「まったく未知の状態で、新しい環境に放り込まれるのですもの。出来る限り環境は整えてあげたいですね」


 10万人の人が増えるというのはけっこう大変な話だ。一つの大きな市が丸ごと増える計算になる。食料とかも確保しないといけないし。


「少しずつ、数名、数十名ずつ目覚めさせることは可能か? 一気に万単位の人間に来られると受け入れが大変だが数十名ずつ数年かけて、であれば国の監視の目も行き届くだろう」

『本当は一刻も早く起こしてやりたい。保存が長期になればなるほど、目覚めてから記憶を失ったり、現実との乖離に苦労したりする者が多くなる』

「むしろ記憶が無い方がまっさらな思いで新しい環境になじめるやもしれんぞ」

「でも、記憶を持っていてくれた方がやりやすくはあります。中には向こうの世界の技術や知識をマリカやラール、マルガレーテのように生かしてくれる可能性もありますから」


 この辺は難しい問題でもある。向こうの世界をあんまり引きずられると『帰りたい』って落ち込むことになりかねない。何しろ『神』本人がそうだったわけだし。

 一方で記憶、知識があればマルガレーテ様のようにこの世界に新しい息吹を目覚めさせてくれるかもしれない。避難してきた地球移民は子どもが多くて、即戦力の技術者は少ないと思うけれど。


「皇王陛下の提案ですけれど、子ども達を纏めて魔王城の島に受け入れる、というのはどうでしょう?」

『魔王城の島? エリクス達がいる所か?』

「あ、いえ。ここ。『星』の島です。

 っていうか。エリクス達のいる魔王城の島って実際はどこなんです?」

『座標的に言うのであれば、大陸の北。氷の大地の少し手前だな』


 この星全体から見ると、人類の居住エリアは比較的狭く、星の三分の一程度。

 島全体に張られた氷の星にある海洋部分に、私達は住んでいる。

 ワカサギ釣りのように穴を開けて、大陸を作っている感じかな?

 灯りは人工太陽があって、大気圏の中ではあるけれど星を周回するように巡っているとのこと。あれ、宇宙空間にあるんじゃなかったのかあ。


「この星は浮遊惑星なので特定の恒星に、光も熱も依存しないの。

 その気になれば一年間、ずっと同じ季節にすることも可能だけれど、なるべく子ども達の体内時計を崩さないように、そして持ってきた植物がスムーズに育つように、大陸と人工太陽に季節をプログラムしているというわけ」

「基本的には春夏秋冬、大陸全て同じ感覚で季節が巡る。

 だから我々がこの地に根を下ろした時、皆、意識して故郷に近い形で気候をプログラムしたようだ。ロシア生まれのラスは北に寒さ強めの国を、インド生まれの私は南で常夏、という感じにな」

「人工太陽は私の船の外枠を加工したもの。

 大陸の各国も、皆が乗ってきた宇宙船を融合させてあるわ。

 機関部は王宮や神殿という形で切り離したけれど。だから物理的にもう私達は宇宙に出ることはできないのよ」


 各国の細長い形は宇宙船の名残なのかな? と思う。

 因みに、各国の王宮にも王族さえ知らない入らないSFの部屋があるらしい。

 精霊石が城の内部にありかつ、精霊神様が許可を与えないと入れないので精霊石が神殿にある今は入れようと思っても入れられないらしいけれど。


「無色の精霊を加工する機能そのものは、大陸にすむ人間の気力を源として動く全自動だから。多分精霊神がいなくなっても働く。封印されていた時のように多少は出力が落ちる可能性は高いが」

「『精霊神』って人間に継承させることは可能なんですか?」

「……可能ではあるがどうしてもの時以外は、やりたくはないな。『神々』が暴走した時の危険は『神』が証明しただろう」

「なるほど」

『納得するな!』


 ステラ様が私を後継者に繋いだのは、本当にシステム的に重要度が違うからなのだろう。

 ただ、ちょっと怖くはある。全てがナノマシンウイルスを使用した機械的なものであるのなら誤作動とか起こしたらどうなるのかな、って。

 それを管理する為に『精霊神』様がいらっしゃるのだろうけれど。 


『……ステラ。この星の軌道にはお前が介入しているのか?』


 突然ぽつりと『神』が問いかけた。


「え? 特にはしていないわよ。使用出力が大きすぎるもの。一応他の惑星や恒星の重力圏には近づかないようにしている筈だけれど」

『そうか……なら、偶然? にしては……』

「何の話?」

『いや、私の勘違いだったのだろう。気にするな』


 意味が解らず小首を傾げた子猫に、タブレットの中の画像が首を振る。私達もちょっとよく解らない。なんとなくでも察した顔をしているのは……レオ君だけ?


「レオ君、何か知ってる?」

「父上がおっしゃらないことは言えません。僕もはっきりわかっているわけではありませんから」


 つまりは何か知っていることがある、ということだけれど、言えないと口を閉ざした時の『精霊』の口の堅さは保証済みだ。時を待つしかないってことかな。


「ちなみにレルギディオス様の船はまだ宇宙船として動くんです?」

『十分な気力ナトゥラムと、精霊の力ナノマシンウイルスがあればな。ただ、この地に降りた時、機械的な中枢部が大陸の中央に落ちて外れた。それを取り出して組み込む必要はある』

「大陸の中央って、大神殿?」

『そうだ。泉が無かったか? あの泉は私の『精霊の力』を生み出す補助システムだ。管理用のAIと共にあの場に残しておくしかなかったので大神殿を建てたのだ』

「アーレリオス様が以前、大神殿を『神』に取られたら詰むって言ってたのはそういう……」

「ああ。補助AIはリオンが破壊したようだから、取り込むのは簡単な事ではないだろうが、あれを取られたら奴は宇宙に帰ることができるからな」

『宙に戻るのでなければ、直ぐに必要なものではない。放置しておけ。そんなに害はない』

 

 そんなに、って少しは害があるのかとツッコみたくなったけど、とりあえずはお口チャック。


「とにかく、一朝一夕で決められる事では無いし、『新しい子ども達』を受け入れるには先達である『アースガイアの子ども達』の協力が不可欠だから。

 マリカ。これから、各国を巡るのでしょう? その時に各国王家と精霊神の皆様に話をして意見を仰いできて? それを纏めて、新年の会議とやらで具体的に話を動かして、数年を目安に受け入れの準備を整えるように進めていきましょう。

 それでいいわね? レルギディオス」

『ああ。千年近く待ったんだ。数年くらい大したことは無い。限界を超えた子が出たら、その都度ラールやマルガレーテ達の所に預ければいい』

「数人だったら、魔王城やアルケディウスの孤児院でも直ぐに受け入れられますから」


 今後は、各国と相談して新しい移民の子達の受け入れ準備と、不老不死後の新体制づくりに全力を尽くすことになるだろう。

 特に食料の増産は重要になる。ここ三年でほぼ0の状態から、各国では自給自足できるくらいにまで生産が拡大したのはいいけれど、今後ここに十万人の子ども達が加わる。

 まだまだ、やらなくてはならないことは多そうだ。



 話の区切りがついた後、ステラ様はレオ君に問いかける。


「フェデリクス、貴方はどうしますか? 私は貴方が魔王城の島に戻り、補佐をして欲しいと思っているのですが……」

「申し訳ありません。孤児院に戻らせて下さい」


 ステラ様の誘いにフェデリクス、レオ君は申し訳なさそうに首を横に振る。ちょっと、意外な決断だ。


「ステラ様の補佐をするには、まだ僕には力と技術が足りません。もう少し孤児院で色々な事を学び、できることを増やしたいと思うのですが、お許しいただけないでしょうか?」

「それなら……」


 知識は転生者だから十二分にあるけれど、身体はまだ四歳児。

 自分の思い通りに動かしたりすることもままならない。

 だから孤児院で訓練したいと彼は言う。

 それなら、魔王城でも、とステラ様は多分言いかけたのだろうけれど、何かを察して口を閉じる。


「解りました。でも、こまめに顔を出してちょうだい?

 マリカもリオンも忙しくて、なかなか最近は帰って来てくれないの」

「はい。僕も母上にお会いしたいですから」

「あと、その子はどうしますか? 与えた力をそのままにしておくことも、貴方の力を分け与える形に戻すことも……星の輪廻に戻すこともできますよ……」


 レオ君は、肌身離さず持っていた犬のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


「この子を、輪廻に戻すのはもう少し待って下さい。助けたつもりで、僕は彼に助けられていたのだと気付きました。

 僕が自立するまで、このまま一緒にいさせてくれると嬉しいです」

「この子? 輪廻?」

「解りました。その子も貴方の助けになりたいと望んでいるようですしね。

 レルギディオスの抱えている『星』の子ども達も、不老不死後の世界が安定したら輪に戻すことになっています。その時にでも、ね?」

「ありがとうございます」


 ちょっとよく解らない言葉が挟まって気になるけれど、リオンに背を叩かれて私はこの場は見送ることにした。

 レオ君にとって、今の会話はきっと、とっても大事なこと、なのだろうから。


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