一通り、皆のお祝いが終わってからは、楽しい会食になった。
と、言っても主役二人は、皆に囲まれたり、ひたすら接待していたりしてなかなか食事もできないようだったけれど。
「せっかくのジョイや、ラールさん、ザーフトラク様の力作だから食べて見て!」
私は適当な所で二人を座らせて食事を促した。
皆に荒らされる前に、確保しておいた食事をテーブルにセッティングして、隣同士に座らせる。
「ありがとう。マリカ」
「実は食べたくて食べたくて仕方が無かったんです。頂きますね」
ソレルティア様はもう妊娠五か月を過ぎ、つわりも落ち着いたようだ。
最初に小ぶりの手毬寿司をぱくり。
「あー、さっぱりとして、でもお米の甘さと具の味が絡み合ってスーッと体の中に入っていく感じですわ」
「これが、噂のラーメンですか? これはショーユのようですが……、塩などもあるんですか?」
「あるよ。お代わりする?」
「はい、向こうで食べた塩ラーメンはとても美味しかったので」
ミニラーメンに興味津々のフェイと共に二人とも、モリモリ食べている。
やっぱり緊張してたし、お腹もすいていたよね。
きっと。
結婚式には花嫁、花婿がゆっくり食事をしている暇は無いと聞くし、実際セッティングしてみてそれは本当だと解ったけれど、本当は一番、食事をして元気をつけないといけないのは新郎新婦だと思う。
皆が喜んで食べている姿に、調理担当者達は嬉しそうに手を合わせていた。
パーティの終盤には最後のサプライズイベントも用意してあるし。
楽しく談笑しながらの食事会の最中。
『マリカ!』
「ジャハール様?」
私を呼ぶ声が頭に響いた。ホールの中央から少し離れた物陰で手を差し伸べると、バサバサッと、羽音を立てて中空から鳥精霊獣が降りて来る。
「どうかなさいましたか?」
自分の子孫であるフェイの結婚式に祝福をしてやりたい、と式で最高のお祝い下さった風の精霊神ハジャルヤハール様は、結婚式の後は姿を消していた。
ステラ様もさっきの皇王陛下の相談の後は、また姿を見せなくなっている。
お二人がいると、みんながちょっと緊張してしまうのを察して、姿を消して下さっているのだなあ、と思っていたのだけれど……。
なんだか、真剣な様子が見える。
ふくろうだから、はっきりと解る、っていうわけではないのだけれど。
『なあ、マリカ。アマリィヤを連れて来てはダメか?』
「え? アマリィヤ様を?」
アマリィヤ様はシュトルムスフトの女王陛下。
フェイにとっては伯母上にあたる。
「面倒なことになるから、呼ばないっておっしゃってませんでしたか?」
『いや、そうなんだけどな。
フェイと花嫁の幸せそうな様子を見てたら、アマリィヤも見たいんじゃないかって思ってしまって。あいつはフェイの事を、凄く可愛がっているし、愛しているから』
ジャハール様にとっては、アマリィヤ様も大事な子孫だもんね。
でも……。
「それは解りますが、一国の女王陛下が簡単に国を離れることができるんですか?
しかも、魔王城に連れて来てもいいんでしょうか?」
そこは問題。ここにいるのは何年もかけて信頼を築いてきたアルケディウスのトップばかりなのだし。
『俺は、許可さえあればどこにでも跳べる。連れて来ようと思えばすぐだ。
フェイの結婚式の場、という風に伝えれば魔王城だと知らせる必要もないだろう?』
「それは、そうですけど……」
『実を言うと、だけどアマリィヤは、フェイの結婚の事を知ってる』
「え?」
『間諜を大神殿やアルケディウスに放ってるんだ。大神殿ではフェイの結婚は神殿則の改正までってことでトップ以外には伏せられているけど、アルケディウスではドレスを作ったり、ソレルティアの引継ぎしたりとかで、公然の秘密になっているだろう?』
「うわっ。そうだったんですか?」
流石、国王様だ。侮れない。
『お祝いに行きたい。でも呼ばれないのに行くわけにも。
女王として国を空けられないし、って悶々としてたのが哀れでさ』
「それは……確かにお気の毒ではありますけど」
『勿論、非公式でいい。
ほんの少しだけでも見せて、直ぐに連れて帰る。
祝いとか言わせてやること、できないか?』
「……フェイとソレルティア様。あと、皇王陛下に聞いてみます」
今回の結婚式の主役はフェイ達だ、私に決定権はあまりない。
でも、気持ちは解る。我が子を思う精霊神様と、身内を思うアマリィヤ様のどちらも。
だから食事の区切りがついたところで、私はフェイとソレルティア様、それから皇王陛下にジャハール様からの要望を伝えることにした。
「式も終わりパーティも終盤。今から連れて来るというのも、どうかと思うが……。
呼ぶなら最初から。呼ばぬのであれば最後まで。
後から知られて嫌味を言われるのは仕方が無いと思っていたからな」
と明らかな難色を示した皇王陛下と違い、フェイは真剣に悩んでいる。
「気になっては、いたんです。
アマリィヤ様は、僕にとっては数少ない肉親。報告しないで本当に良かったのかなって……」
「私も、フェイの伯母上にご挨拶はしたいと思っていました。ただ、私も転移術使いであることが知れたのでもう簡単に他国への入国はできないので」
フェイがアマリィヤ様に好意をもっていることは解っている。お母様達には結婚式を見せられない以上、代わりにって気持ちはきっとあるよね。
「うーん。じゃあ、夢、ってことにしませんか?」
「夢?」
「そうです。誰にも言わずお付きも周囲の人も連れてこない。
女王ではなく、フェイの伯母上、アマリィヤ様としてお一人だけで来て、お祝いだけ言って帰る。実際にはあくまでフェイの結婚式の夢を見た、ってことにしてもいいのであれば来て頂くっていうのは?」
「そうですね。後日全く知らない状態から話を聞くよりも、いいかもしれません」
「どちらにしても嫌味を言われることにはなるがな」
「でも、公式に招くことはできないんですから、仕方ないですよ。
フェイは神官長だから、名目上は式を上げず、神殿則改定した私達の結婚式の後に籍だけ入れたってことになるでしょう?」
今回の式は、フェイの気持ちと私達の区切り。
ソレルティア様に花嫁衣装と思い出を贈るのが一番の目的だから。
神々への承認という私達的一番大事なところはもう終わっている。
「フェイ個人としてはどう? 伯母上に来て欲しい?」
「はい」
返事は本当に素直に帰った。
「母上や父上にも、できれば報告したいと思っていましたが無理でしょう。
ならせめて、親代わりのように僕を受け入れてくれたアマリィヤ様には、結婚の御報告はしたいと思います。子を王家に欲しい、などと言われては困るのですが」
「フェイの子はアルケディウスの宝だ。渡すわけにはいかん」
「お祖父様」
「私も、許されるならお会いしたいです。許されるなら、ですが……」
『問題は起こさせない。俺が責任をとる』
ジャハール様にそう言われれば、是非も無いよね。
他国とはいえ精霊神様の思いに王族が異論を唱えられる筈もない。
「解りました。アマリィヤ女王陛下お一人が精霊神のお力で、夢を見た、という形にできるのなら」
『感謝する。マリカ。ちょっと来い。身体を貸せ』
「え?」
『その方が手っ取り早いんだ。説明役もいるからな』
「あ、はい、ってわあっ!」
ジャハール様は私の身体に飛び込むと、そのまま飛翔した。
皆、きっと驚いてる。
即断即決。流石風の精霊神様だ。
……そして、僅か一刻も経たない後。
魔王城のパーティ会場は、一人の賓客を迎えことになった。
「フェイ。結婚おめでとう」
「ありがとうございます。アマリィヤ様。いえ、伯母上」
銀の髪の女王を。
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