最初の贈り物がとんでもない話になったけれど、その後も順番にゲストがお祝いと贈り物をしていく。
「まったく。陛下。それでは贈り物だか仕事だか解りませんわ」
呆れたように苦笑しつつミュールズさんと進み出たのは皇王妃様。
「私からは、あまり特別なモノではありませんが、この首飾りを。もっといいものを夫から貰えるでしょうが、貴女の身を守る手助けになればと思います」
皇王妃様がさし出したのはビロードの箱に入ったネックレスだった。
ため息が出るような精巧な作り。ソレルティア様の瞳に合わせた大きなエメラルドが目を引く。
「このエメラルドは以前皇王妃様が身につけられておられた首飾りのものではありませんか?」
「流石ソレルティアね。ええ、私の使っていた首飾りを今風に作り直させたものです。見る者が見れば貴女に、私が加護を与えていると解るでしょう」
「ありがとうございます。皇王妃様」
「私からは、マリカ様が出版した妊娠出産の覚書の本です。
もう持っているかもしれませんが、それに私が出産介助を経験して気付いたことなどを書き添えてあります。参考にして下さい」
「ミュールズ様」
流石ミュールズさん。解ってる。
実用的で彼女らしい贈り物だ。皇王妃様もソレルティア様の今後の為に、実用でも役立つものをと贈って下さった。
「私からも似たようなものだ。マリカ様から教えて頂いたレシピは、その都度書き留めておるのだが、その中から家庭でも試しやすいものなどを纏めてみた。
既に何冊かレシピ集も販売されているが、まだ載っていないものもある役立ててくれ」
ザーフトラク様は料理人の贈り物。
ちなみに後からの話ではあるけれど、ゲシュマック商会からも今、販売されているレシピ集を全巻贈られていた。大貴族になるソレルティア様だから、直接お料理はしないだろうけれど、館の料理人さんに役立てて貰えばいいよね。
ちなみにゲシュマック商会は、ザーフトラク様監修のこの本も、ミュールズさんの本もできれば印刷したいと交渉に入ったそうだ。
皇王陛下達の後は、第三皇子家。お父様とお母様達。
「俺からはこれをフェイに。
お前の事だから必要とはしないだろうし、気にも留めないだろうが」
「……これは認可証? 第三皇子名義の?」
「アルケディウス限定ではあるが国境を通らず入国したことが見つかっても、これを見せれば俺の用事で呼ばれた、と逃れられる筈だ。
どうせ、ソレルティアや子に会いに転移陣を使って日参するつもりだろう?」
「はい」
「そんなに堂々と密入国をするとか、許すとか言わんでくれ」
「とりあえず、祝いの席です。酒に酔ったふりをして聞かなかったことにしておきましょう。陛下」
ははははは。
すみません。笑っちゃった。皇王陛下。タートザッヘ様。
フェイらしい。
そして、私達の性格をよく理解してるお父様らしいと思う。
「私からは、子供服と下着。それから遊具などを用意してみたの。
この子達を育てた時に、役立ったものを揃えたわ」
「ありがとうございます。ティラトリーツェ様」
「これ、赤ちゃんへのプレゼント!」
「わたしたちが、プリーツェにたのんだの! わたしたちのと、おそろい!」
お母様からの贈り物のあと、フォル君とレヴィーナちゃんも小さな手で一生懸命荷物を運んでソレルティア様に手渡した。
ぬいぐるみだ。私が、フォル君達の最初の誕生日にプレゼントした灰色短耳兎、アルケディウスの精霊神、ラス様の精霊獣。
「ぼくらの、だいじなともだち。あかちゃんもともだちにして」
「ありがとうございます。お二人とも。大事に使いますね」
とてもかわいい気持ちが詰まった贈り物だ。フェイとソレルティア様の子が生まれたら、二人はきっと仲良くしてくれるだろう。
「ゲシュマック商会、正式には製紙、印刷を取り扱うクリーニチカ商会からのものですが、アルケディウスでここ3年、発行された全ての本をお送りします」
「ここにあるのはごく一部です。後程新居に本棚と一緒にお送りいたします」
「それは、いいですね。城や神殿、魔王城でいつでも読めると思うとなかなか、自分で買う所までいかなくて……」
ガルフからのお祝いにフェイは目を輝かせる。
印刷された本はクリーニチカ商会とゲシュマック商会、私とアルケディウス王宮に一冊ずつ保管されている他、予備もあって、その予備分をガルフは提供してくれたらしい。
今はまだ、そんなに数は無いけれどレシピ集や、出産子育ての覚書、科学の手引書、勇者物語に、諸国の紀行本などバリエーションは多いから読み始めると間違いなく楽しい。
最近は活版印刷にも成功して、聖典なども買いやすくなったという。
あ、そうだ。聖典も近いうちに直さないとね。
とにかく、フェイは喜んでいる。
そして魔王城の子ども達。
「おめでとう! フェイ兄! ソレルティア様!」
今日の会場準備を頑張ってくれた子ども達だけれども、お祝いの用意もしっかりとしてくれた。
「ソレルティア様にはこれ。お花のいい匂い」
「わあ、本当にむせ返るようですね」
「シュウ兄が作ったこれに入れるといい匂いがするよ」
毎年作って集めてくれている花のエッセンシャルオイルのセット。木製香りペンダントつき。
「ねえ、マリカ姉。今年の分、ソレルティア様に少しあげてもいい?」
「いいよ~。ちょっとアイデアもあるから手を貸してくれる?」
「うん!」
そして
「ソレルティア様、さっきの式で使った祝福の花びらを集めて、魔術で水分をとって乾かしたものなんですけど」
私も便乗して贈り物をさせてもらう。
エリセに力を貸して貰って花びらを速攻で乾かして、エッセンシャルオイルを調合したポプリだ。
「中にはジャスミンの花のエッセンスを混ぜてあるんです。
ジャスミンは妊娠している女性にいい、と言われています。
今日の結婚式の思い出に」
綺麗なガラス瓶に入れて、リボンをかけてある。蒼と碧。二人の瞳の色だ。
後は、ジャハール様に頼まれた精霊金貨。
魔王城の島の宝物蔵にあったやつに枠をつけてリボンとピンを結んである。それぞれの胸に付けながら話しかける。
新しい家族に向けて。
「妊娠後期に入って出産、子育て。これから大変なことがたくさんあると思います。
でも、フェイと結婚したソレルティア様は、これからは魔王城の兄弟。家族の一員です。
何か、困りごとがあったら、いつでも言って下さいね」
「家族……。そう言えば、そうなのですね。フェイと結婚したことで、私達は家族になったのですね。私、孤児であったので家族と呼べる存在は、初めてです」
「困ったことがあったら、いつでも言って下さい。
全力で。大神官の権限も『精霊の貴人』の力も全部使って助けますから」
「おいおい……」
「大事な人を守れないで、何の為の力か、って奴です。
きっとステラ様もお許し下さいますから」
披露宴には、空気を読んだのかさっき出てきたステラ様は消えている。
ジャハール様は最初っから出てきてない。
でも、聞いてはいらっしゃるはずだ。
きっと。
後は、ティーナが魔王城の羊の毛を紡いで編んでくれた子ども用の手袋や、シュウが作った機械式時計とか、二人への贈り物をそれぞれが贈ったあと
「フェイ」
最後にフェイの前に立ったのはリオンだった。
リオンがフェイに、そしてソレルティア様に贈ったお祝い?は、ある意味二人の関係性を表すもので。
花嫁を優先し、新しい家族を寿ぐ結婚式に贈るもの。とは言えなかったかもしれない。
身勝手だとさえ言える。
けれど……フェイは、とても喜んだ。
「感謝します。リオン。
それは、僕が一番欲しかった贈り物です」
心からの安堵をその瞳に浮かべて。
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