魔王城での会談を終え、その後、アルケディウスで皇王陛下に事情の報告。
夜は第三皇子家に戻って、お父様やお母様、双子ちゃんとのんびりとした一時を過ごして。
「お母様。舞を披露した後、アーヴェントルクの姫君がお花をくれたんですよ。
私の舞を見て感動してくれたっぽくて、家でも真似をしているって公子妃様が。
もっと大きくなったら舞を教えて欲しいって言ってました」
「え~。よそのあかちゃんにおしえるなら、もっとレヴィーナにおしえて? マリカねえさま」
「レヴィーナちゃん。そうだね。せっかく舞の練習始めたのに忙しくなっちゃったから時間が取れなくてごめんしてたもんね」
「そうね。あちらにはアンヌティーレ様もいらっしゃるでしょう? 子どもに甘いのは貴女の良くない所です。その辺はけじめをつけなさい」
「はーい」
「レヴィーナはいいなー。きれいなドレスきてマリカねえさまにおしえてもらえるんだから」
「フォルだって、リオンにいさまに剣をおしえてもらってるでしょう?」
「そりゃあ、そうだけど……。レヴィーナは剣もおしえてもらってるのに、おれは舞をおしえてもらえないのはなんかズルいきがする」
「こればっかりはな……。我慢だぞ。フォル」
「お父様……。フォル君が基礎をちゃんと身に着けたら、私から剣を贈るのってダメですか?」
「剣? 向こうの業物を持ち出していいのか?」
「あちらにはそれなりありますし、私も昔は剣の練習してたんですけど、今は使ってないので……」
「お前と向こうの許可が出るのなら構わんが……。って、目を輝かせるな。フォル!
まだ真剣を持つのは早い!」
「勿論、お父様とリオンの許可を得てからだけど。楽しみにしてて」
「おれ、がんばる!」
「え~。フォルズルーい」
「レヴィーナ!」
家族団らんも久しぶりにゆっくり楽しむことができた。
フォル君とレヴィーナちゃんも、もう3歳、実質4歳。
言葉も身体も、行動も随分と成長してきている。
色々な事に興味を持つお年頃。
自分の将来の為に体験の引き出しを増やしてあげたいとは思っている。
翌日は保育室の様子を見て、ケントニス様とアドラクィーレ様にご挨拶して、アーヴェントルクからのお土産を渡して、ラウル君と遊んで。
大仕事を終えた後の細やかなお休みを満喫した私は大聖都へと戻った。
「お帰りなさい。マリカ」
「お帰りなさいませ。マリカ様」
転移陣の間では神官長であるフェイが出迎えてくれる。
側には神殿女神官長マイアさん。
ここは国境でもあるので、警備の関係上入って来れる人物は限られている。転移陣から出た直後に襲い掛かられたりすると結構ヤバいし。
「ただいま、フェイ。ソレルティア様がよろしくって言ってたよ。
お腹の子も順調みたい」
「それは良かった。マリカ、リオン。
……ちょっと、いいですか。帰ってきたばかりで疲れているところ、申し訳ないのですが少し相談したいことがありまして」
「相談したい事?」
「ええ。僕も昨日伝えられたばかりで、正直困惑しているのですが……」
「伝えられた? 困惑って……あ!」
話を聞いて思い出した。魔王城での『神』レルギディオス様との会話。
そういえば、大神殿にもいる、と言っていた。
「もしかして、『神の子ども』?」
「そうです。話を聞いて貰えますか?」
「勿論です。大神官の謁見室に来て貰うようにしてください」
「承知しました。行きましょう」
転移陣の間を出て、そのまま大神官の謁見室へ皆で移動。
今回の帰国の同行者はリオンと、カマラとセリーナだけだった。
全員で部屋に入るとフェイは扉の鍵をがちゃりとかけた。
「あれ? フェイ。『神の子ども』は呼ばなくていいの?」
「はい。そこにいますので」
「え?」
「大神殿を統べる、大神官たるマリカ様に、偉大なる父の名の元ご挨拶を申し上げます」
私の前にスッと膝を付き、胸に手を当てたのはマイアさん。
別にそれ自体は別に、珍しい事じゃない。
マイアさんは女神官長だし、私の世話役だし、礼儀正しいし。
でも……
「マイアさん、今、なんとおっしゃいましたか? 偉大なる父?」
このアースガイアの地において『星』は大母神として女性として崇められている。
他の『精霊神』や『神』については男性神として扱われているけれど、偉大なる父という呼び方を聞いたことは無い。
ここで、私の前でその呼び方をする、ということは……、まさか?
「大神殿にいるっていう『神の子ども』って、マイアさんだったんですか?」
「はい。マリカ様には長らく隠しておりましたこと、お詫び申し上げます」
驚いた。けど、納得した。
女神官長マイア。
『聖なる乙女』の世話を一手に引き受け、前神官長とも懇意だったらしい人。
フェイが神官長になっても無視できない旧時代からの大神殿の有力者の一人である彼女が『神の子ども』であることはあり得る事だし、理解もできる。
「私は、眠りより目覚めて後、『神』より遣わされた大神官フェデリクス・アルディクスの補佐として遣わされました。
補佐である神官ミオルが魔王討伐に助力する事になったので、その後を埋める者として」
時系列的には
『神』降臨&魔王誕生 精霊神を封印、人工太陽機能を乗っ取る。
↓
大神殿設立。この頃『神』直属の子ども達が何人か頑張って仕事をして基礎を作る。
↓
魔王討伐(表立っては知られていない)
アルフィリーガ(リオン)誕生。フェデリクス・アルディクス誕生。
↓
アルフィリーガが仲間と共に、魔王討伐の旅を始め大神殿にたどり着く。
騙されて『精霊の貴人』と共に死亡。
不老不死世の始まり。
フェデリクスは青年になるまで培養されてから、大神殿に入り『神』から与えられた力で君臨したという。
当初は『神の子ども』の一人ミオルさんが補佐についていた。
(ラールさんの話っぷりだとラールさんとミオルさんは同期で、ラールさんも大神殿でフェデリクスの長をするように期待されていたけれど、嫌がって逃げ出したらしい)
その後、アルケディウスのライオット皇子が魔王討伐の旅を始める。
彼を助けるという名目で、取り込むか『神』の望む方向に誘導する為にミオルさんが加わり、その後を埋める形でマイアさんが大神殿に派遣された。
「前神官長 エレシウスはミオルが拾い育てたこの星の子でありました。
ミオルが旅に出てからは大神官が直々に教育を与え、不老不死世の後は大神殿を任せておりました。自分が矢面に立つよりもその方が、効率がいいと考えられたようです」
マイアさんは、その後大神殿の儀式の実務を取り仕切り、人々の気力を『神』に送る役割を続けた。聖なる乙女 アンヌティーレ様を『神』の為に傀儡化したりとか。
「全ては偉大なる父、『神』の御為。
いつか『神』の国に帰る為。その御心に従う事が私の使命でございましたから」
彼女は、立ち上がり強い眼差しで私を見据える。
ございました、と過去形を使っても、闇色の瞳には今も、迷いや後悔は見えない。
「不老不死世が終わる寸前、偉大なる父『神』からの声が私に届きました。
『不老不死世は間もなく終わり、変革の時が訪れる』
もし、自分が一時姿を消したとしても、必ず戻ってきて、お前達を導くから今まで通りの生活を送り待つように、と」
そうしてやってきた『神』の宣告と不老不死解除の大騒動。
『神』の意向に沿う為に、マイアさんは私を生贄に捧げようとしたが、結果は『神』の試練に破れたとして世界は、不老不死を失った。
「私は『神』の言葉を信じ待っておりました。
そして、昨日、再び声が届いたのでございます。
『神』の国への帰還の道は閉ざされた。お前達の望むままに生きよ。
私はお前達をいつでも見守っている』
と」
でも。
彼女はまだ諦めてはいないとその瞳が語る。
『神』に終わりを告げられても。自由に生きろと言われても。
「お聞かせいただけないでしょうか? 『神』の愛し子たる『聖なる乙女』
貴女は御存じの筈でございます。
『神』は何処におわし、何をされておいでなのかを」
ひたすらに『神』を思い、その言葉に従う盲信の徒が今もそこに立っている。
闘志にも似た熱をその瞳に宿して。
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