【第三部開始】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。

夢見真由利
夢見真由利

皇国の大祭 三日目 晩餐会の準備と皇王陛下の悪戯心

公開日時: 2023年7月18日(火) 08:25
文字数:3,714

 翌日は、アルケディウスの大祭、最終日。

 私は朝一で王宮に向かった。

 いつもの通り、ザーフトラク様のお手伝い。

 晩餐会の最終確認の為だ。

 今回の調理の仕切りは第二皇子妃付きの料理人マルコさん。


「うわー、このタルトレット凄いですね。まるで花が咲いたよう」

「マルコの盛り付けの美的感覚は国内でも随一だからな」


 我が事のように嬉しそうに褒めて下さるザーフトラク様にマルコさんは少し照れた様子だ。


「今回の主催はチューロスのフォンデュだからね。あんまり盛り付けの出る幕が無い。

 その代わりにちょっと締めの甘味や前菜に気合を入れたよ」


 メニューの素案は出しておいたのだけれど、その後、全体的に変更も加わった。

 秋の戦において影の立役者となったおむすびを取り入れる様にという話になったのでピザは取り止め。オリーブオイルは最高級品をパンにつけて食べるのを前菜にもってきて、その後、豚の角煮とリアのおむすび取り合わせを出すことになった。

 メインの前におなかがいっぱいになりすぎないように、全体的に小降りでてまり寿司サイズ。イクラの醤油漬けとグルケ(キュウリ)の塩もみの薄切り、錦糸卵、生ハムで作られた細工寿司ならぬ細工おにぎりはかわいらしい上に美味だった。

 新米、最強!


 塩漬けオリーヴァ入りポテトサラダはマヨネーズ少な目で、コンソメスープと共に素材の味を中心に楽しんで貰い、濃厚な味わいは次のチーズフォンデュでカツンと持っていく。

 フォンデュで体と心が温まった後、締めはプラーミァのヴェリココとアルケディウスのピアンの甘煮のタルトのバニラアイス&チョコレート添え。

 ドリンクのメインはアルケディウス各地で作られた麦酒にフルーツフレーバーの炭酸水、最後はテアで〆る。


 タルトは薄切りのピアンがみっしりと敷かれた上に、薄切りのヴェリココで花のような細工が作って乗せてある。向こうの世界の高級洋菓子店で売っていても遜色ない美しさだ。

 試作に切って貰ったタルトを一口食べたら、フルーツの下に敷き詰められたカスタードクリームと砕いたクラムのクッキーかな?の下地とピアンが口の中で絶妙のハーモニーを繰り広げる。


「うーん、幸せ」

「こんな美味なお菓子を食べたことがありませんわ」

「果物とクリームが口の中で蕩ける様です」


 側近達も大絶賛。


 タルト生地そのものは固く焼くだけだから中世のオーブンでも失敗が少ないし、カスタードクリームはどんな果物とでも相性がいいから、バリエーションはいくらでも効く。 

 これは、今後畜産も重要視されるという暗示でもある。厳しい山地の多いアーヴェントルクでも牧畜によるチーズ、バター、ハムが作れるのだからあまり肥沃ではない土地でも産業として成り立つ可能性は高いと思う。

 他国の美味を取り入れつつ、この国の良さ、可能性をプレゼンする料理。


「素晴らしいですね」

「昨年の大祭の晩餐会のさらに上を行くと自負している。

 この料理のように各国の良いところを取り入れていくことでアルケディウスはきっと、さらなる発展を遂げるだろう」


 私がアルケディウスで本格的に料理指導をするようになってまだ二年になっていないけれど最初からのメンバーである皇王家の料理人さん達はその一年間の間に毎日研究を重ねて、料理の腕をめきめきと上げている。

 向こうの世界の有名なお店にも勝るとも劣らないと個人的に思っているくらい。


「そうなるといいな、と私も思っています。新しい調味料も研究中なんですよ」

「それはいい。最近はなかなか一緒に料理もできんが、また調理ができると良いな」

「はい。本当にそう思います」

「新年の参賀は同行できるかな?」

「なんか最初に儀式があるっぽいですけど、その後ならきっと」

「なら、楽しみにしている」


 私の頭をなでてくれる。ザーフトラク様の気持ちが暖かい。

 ザーフトラク様は本当に私の事を子ども扱いしてくれるんだよね。

 最初の印象は悪かったけれど、今は大好きだ。


「っと、話が終わったら皇王陛下が何か用があると言っていたな」

「はい。準備の前に寄るようにと申しつけられています」

「行くといい。こちらの方は任せておけ」

「お任せします。楽しみにしていますね」


厨房を離れた私も本当に今から夜が楽しみになる。


その後、皇王陛下の元に謁見に伺う。

陛下達も夜の準備があるので、奥の離宮にいらっしゃるのだそうだ。


「マリカの着替えと入浴にこの館の設備を使ってよい。

 少しマリカに話があるので、其方らは準備をかねて外に出ておれ」


 皇王陛下の御命令で、ミュールズさん達が外に出ると、室内に残るのは私とカマラだけになる。

 対するのは皇王陛下と、皇王妃様。そしてタートザッヘ様。

 いつもながらに護衛さえも残していない。


「マリカ。其方に頼みがある。舞踏会開始までライオットやティラトリーツェにも内緒の話だ」

「なんでしょうか?」


 皇王陛下の改まった物言いに私は小首を傾げてしまう。

 皇王陛下が私に頼み?

 何かやって欲しいことがあれば、命令すればいいだけのこの国のトップなのに?


「舞踏会で力を貸してほしい。

 私とこの杖に」


 皇王陛下が手に携えた杖を軽く振る。


 周囲が雪の粉を散らしたような輝きに包まれたと同時、杖から光が立ち上がる。

 いつもながら、立体映像。ホログラフを見ているようだ。


『マリカ様。麗しの『精霊の貴人』にご挨拶を申し上げます。

 木の王の杖。アーベルシュトラム。御前に』


 現れた杖の精霊 アーベルシュトラムが優美なお辞儀をする。

 光を宿した銀緑の髪、春の若葉のような新緑の瞳。

 正しく碧の貴婦人だ。


「私に力を貸してほしい、とはどういうことですか?」

 

 まだ意味がよく分かっていない私に、アーベルシュトラムは静かに微笑む。


『私は『アルケディウス皇王家』と契約し国を守る杖にございます。

 現在の主は国王シュヴェールヴァッフェと登録されておりますが、彼は不老不死者であり、並人に比べれば強い『気力』をもっているものの、単独では魔術を行うことはできません』

「そうなんですね」


 王の杖の継承とか細かい仕組みは理解できていないと思うけれど、理屈は解る。

 この世界の魔術の仕組みは魔術師の願いを仲介する精霊石が配下の精霊達に伝え、現象を起こす形だ。

 魔術師は術を行使するためには力はいらないけれど、杖が精霊達を動かすためには『気力』と呼ばれる特別な力を必要とする。

『気力』は人間なら誰でもあるとされる生きる力、だけれども不老不死者は不老不死になる為と不老不死にした『神』に知らずその力を搾取されているので、術を行使する為に使う力が足りず術が使えない、と聞いた。


「舞踏会の最後に、木の王の杖と、国王魔術師の復活を大貴族達に知らせたい。

アーベルシュトラムのお姿を見せるだけでも効果はあろうが、もう一つ、何かできないかと願っておったら『精霊神』様が条件付きで、と方法を教えて下さったのだ」

「方法があるんですか?」

「うむ、其方の力を祈りによって私に送って貰う形だ」

『僕達に舞や祈りで力を贈るのと同じやり方だよ。外付けの電池から充電するような感じ』

「ラス様!」


 いつからいたのか、どこからいたのか。

 ひょっこりと私の肩に飛び乗ったラス様がそう教えてくれる。

 ……ラス様も取り繕うの雑になってきたな。電池とか充電とか、私にしか通じない説明だろうに。

 それともロックがかけられている中でできる限り私の考えが正しいと教えてくれているのかもしれない。


『質の違う『気力』を互いの身体に入れるのは使う方にも使われる方にも負担がかかるから、本当に特別な時だけにしておけと命じてある。力を貸してやってくれるかい?』

「私にできることであるのなら喜んで」


 断る理由は無いので素直に頷くと精霊獣、いや『精霊神』は顔を上げて皇王陛下を睨みつける。


『シュヴェールヴァッフェ。マリカがいるなら魔術が使えると調子に乗るんじゃないよ。

私利私欲の為に自分に足りない力を他所から持って来ようとするのを認めると、行く先は『神』や魔性と同じになる』

「肝に銘じます」  


 胸に手を当て、祖の精霊に礼を捧げた皇王陛下は、けれど


「それで、どのようなことをすれば良いと思う?」


 その瞳を子どものように輝かせている。


「何ができるんです?」

『『精霊の貴人』がお力をお貸しくださるのなら、木と緑と花に関することならなんでも』

「なるべく、視覚効果があるものが良いな。舞踏会の終わりを締めくくるに相応しい華やかなものが良い」

「うーん、じゃあ、こういうのはどうです? 秋なのである程度はありそうな気がするんですけど」


 私は小さな提案をして、皇王陛下は大急ぎで準備をするといってくれた。

 皇王陛下も国務会議に出席しなければならないらしくて、本当に突貫工事のようになったけれど。

 会議の間に準備を整え、会議の後、本番まで何度か練習して臨むことになった。


「皇王陛下とこんな時間まで何をしていたのです?」

「すみません。内緒って言われているので」

「もう時間だ。行くぞ」


 入場時間ギリギリまで練習をしていたので、ちょっと怒られたけれど、これで今回の舞踏会、騒ぎが起こっても私のせいじゃない。


 華やかな光と音楽に包まれて、私達は大祭最終日。

 社交期間の終わりを告げる晩餐会と舞踏会に足を踏み入れたのだった。


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