「うむ。では、報酬を3割増しにしておこう。遠路はるばるご苦労であった。」
「そ、そんなに頂いてよろしいのですか!!」
「もちろんだ。次もよろしく頼む。」
「は!かたじけないお言葉、ありがとうございます。」
私の横で商人を相手に素晴らしい対応をしてなさるのは、愛して愛してやまない私の夫、アム殿下。齢17歳にして急逝した前国王様の跡をお継ぎになられて、それから10年間ご立派に国を治められています。
艶やかな金色の髪、凛とした碧い瞳、思わず聞き入ってしまう美声、そして国王にふさわしい毅然とした様、老若男女問わず誰からも慕われております。容姿端麗、質実剛健、知勇兼備。その名声は幼少の頃より国中に轟いておりました。国王となられてからも、中堅国家であったこの国をサミットの理事国に任命されるほどに育て上げられました。今や、世界中から尊敬の目で見られるようなお方なのです。
「ルシエ、今日もお疲れ様。業務は終わったから、晩餐まで部屋で休んでなさい。」
「かしこまりました、アム様。」
「私はもう少しだけ決めなければならないことがあるからね。」
その目で見つめられながら一声かけられてしまえば、瞬く間に虜になってしまうでしょう。普通の女性ならば。
「では、お先に失礼いたします。」
私が椅子を離れて歩き出したのを見計らって、そばに控えていた大臣が口を開きました。
「失礼致します、国王様。先ほどの商人から入手した魔女に関する古文書は、最重要文書として保管するので宜しいでしょうか。」
「そうだな、解読はウィリー博士に任せよう。」
「かしこまりました。これで、魔女被害が減らせると良いのですが…」
「とりあえずは魔女狩りを最優先にして推し進めよう。新たな対策は解読結果が出てからだな。」
「左様でございますね。それでは、続いて今季の財政状況に関してなのですが、」
私は自室に戻ってしまったのでそれ以上は何を話されていたのかわかりませんが、本当にアム様は多忙にも関わらず、的確な判断をされる賢王でございます。しかし、そのアム様をもってしても頭を悩ませるのが魔女問題です。財政危機などは人の知恵で解決も出来るでしょうが、今回の相手は人智を超えた存在です。暴力に秀でた魔女ならば人を殺すことなど造作も無く、結束すれば街も滅ぼせると言われています。他にも人の心を陥れることに長けた魔女や毒を作ることに長けた魔女もいるようです。私の愛するアム様を困らせるような悪い魔女もいるものなのですね。
魔女は基本的に魔女として産まれるのではなく、ある日急にその力に目覚めるのです。ですが、その力に気づいてコントロール出来るようになるには早くて3年かかると言われています。ですので、魔女の力に目覚めてからその力をものにするまでの間に捕らえてしまおうというのが魔女狩りでございます。魔女として目覚めると人格が悪に染まっていき、それに伴って顔つきもほんの少し変わってしまうようです。身体に痣でも出来てくれれば分かりやすいのですがね。
〜〜〜
「国王様!先の古文書の解読が出来たようです!」
どうやら1ヶ月ほど前に持ち込まれた古文書が解読されたようですね。これでアム様の魔女問題に対する気苦労が少しでも減れば良いのだけれど。
「おお、でかした。早速聞かせてもらおう。」
「ははっ、ではウィリー博士、前へ」
「失礼致します。解読の結果ですが、魔女についてわかったことがいくつかございます。まず、一点は魔女の力の源には魂が大きく関与しているということです。我々には存在すら認知できませんが、魔女は魂を見ることができ、それを源として力を発揮していることは確かなようです。」
「魂か、対策の取りようがないな。しかし、もしかすると魔女の発生の予見などには使えないのか。」
「その点に関することが次にわかったことです。どうやら一般人が突如として魔女になってしまうことは魂が変異してしまったためらしいのです。そしてその変異してしまう魂にはどうやら傾向があるとのこと。」
「なるほど、その傾向を掴むことができれば事前に魔女の発生を察知できるかもしれないというわけか。」
「左様でございます。加えまして、驚愕の事実が判明いたしました。」
「なんだ?」
「実は、魔女には純血の魔女という一族が存在しており、全員が生まれながらの魔女です。そして、恐ろしいことに、純血の魔女は自然発生する魔女とは比べ物にならないほどの力を持ち、禁忌の秘術と呼ばれる術を使うことが出来るとのことです。国家単位の土地を消し炭にする超規模爆破といったものから、擬態どころの話ではなく1人の人間の記憶や人格を完璧に乗っ取って成り代われるようなものまで存在していると記されていました。」
「な、一国家を単騎で消せるだと…その一族は現在もいると思われるのか?」
「アウル山の中腹に住まうと記されていましたので、おそらくは。あの辺りは狩りぐらいでしか人は入りませんし、現在も純血の魔女の一族が続いていたとしてもおかしくはないかと。」
「アウル山だと?王族が10歳になった日に威厳を示すために狩猟祭を行う場所ではないか。」
「その通りでございます。アム殿下におかれましても、アクシデントはあったものの無事に優秀な成績を収められておりました。」
「あぁ、そのようなこともあったな。100人規模の隊の中にいながら何故か私だけいなくなってしまったのであろう?幼少ゆえか余り覚えていないが、その節は迷惑をかけた。」
「滅相もございません!今、このように賢王となられて指導役であった私も嬉しく思います。」
「ありがたい言葉だ。にしても、アウル山か、一度隊を編成して調査すべきか…」
「それが良いかと思われます。」
あらあら、大変なことになってしまいましたわね。と言っても、故郷も元の家族も大して興味はないからどうでもいいんですけれど。
あぁ、愛しのアム殿下。10歳のあなたの純白のタマシイに一目惚れでした。あなたの側にいれるなら誰が死のうが人格がぶっ壊れようが関係ない。あなたの側にいれるなら、いや、あなたのタマシイを手に入れられるならどんな手でも使ってみせる。愛しています。
あぁ、なんて素敵なタマシイなんでしょう!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!
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