『……先週、暴徒に襲われたヴェロヴェマ大佐は、以前意識不明の重体の様です』
『……緊急手術が行われたようで依然として……』
……。
…………。
「はい、提督あ~んしてください♪」
「あ~ん♪」
……もぐもぐ。
うさぎさんカットのリンゴが旨い。
私は先日、熱心なルドミラ教徒にわき腹を3か所刺された。
救急車で惑星リーリヤの病院に搬送されるも、翌日にはある程度回復していた。
一つ目巨人族ギガースの緑色の体は丈夫だったのだ。
もし、人族の体だったら危険だったと思う。
同じく緑色の肌を持つ副官アンドロイドのクリームヒルトさんに介抱してもらっている。
……しかし、退屈だった。
「ハンニバルに帰りたいなぁ……」
「それはダメですわね」
私は今回、いわば政治的入院だった。
今回の件は、ルドミラ教国としては、熱心な信者の行動は勇敢な行為と賞賛されているらしいのだ。
先日のアルデンヌ星系を私が無事防衛できたことが、先方にとっては屈辱らしい。
……よって襲われたという訳だ。
しかし、私がすぐに退院しては先方のメンツに関わる。
よって、帝国政府中枢から『しばらく重症なふりをしておく』よう言われているのだ。
先の共和国との戦いでの大敗以降、戦力が整わないうちは、ルドミラ教国のご機嫌を損ねたくないのだ。
しかし、この件は軍部でも知らない人は多いらしい。
私が二階級特進で少将になる話もあるくらいだ。
やはり生きたうえで出世して少将になりたいものだ。
……PIPIPI。
ビデオチャット通信が入る。
蛮王様だった。
「元気に病人やっとるか?」
「お陰様で元気です!」
「それはなによりだ。でな、……」
エールパ星系艦隊司令官の私が重症(?)を負ったために、後任の司令官が赴任してくるそうだった。
シュレーダー少将という中年の方らしい。
軍中央から送られてくる官僚的な軍人らしく、蛮王様は扱いづらくて嫌みたいだった。
たぶん、向こうも嫌なんじゃないか、ってのは言わないでおいた。
私としても、ブタ亜人の外見で好物のトンカツを美味しく食べる景色は何とも言えないのは内緒だ。
「……では、軍人としてはおとなしくしていろよ!」
「はっ!」
実は『軍人としては』ってのが肝である。
あまりにも退屈なので、蛮王様に相談して、一介の商人になりすまして衛星アトラスに帰ることにしたのだ。
クリームヒルトさんも秘書ということで、変装してもらう。
……知っている人ならお互いにモロバレの素人変装である。
「では、お大事に……」
担当医師からお薬を貰い、こっそり病院の裏口から出る。
逃げるように用意してもらった車に乗り込み、宇宙港に急いだ。
その後、無事にシャトルに乗り込み衛星アトラスへ飛び立った。
「……ふう、これで帰れる♪」
「私はもう少し、あのままで良かったですけどね」
「ぇ?」
「……なんでもありませんわ♪」
シャトルの座席で私は安心した様で、クリームヒルトさんの肩にもたれかかって眠ったようだった。
☆★☆★☆
現実世界のアパートで起きる。
7月の日差しは強く、エアコンは入れっぱなしだ。
卵うどんを啜りながらPCを触る。
ハンニバルの再設計だった。
前部武装モジュールを取り外し、側面のいくつかの区画も分離して400m級のハンニバルにするつもりだ。
元からモジュール区画で作ってあるので、改造も早く済む。
軍艦としては大きければ良いが、しばらく星間商人の商船として偽装するため、大きさは控えめな船にしたかった。
……所謂、武装商船である。
追加装甲には擬態モジュールを採用して隠蔽率を上げる。
逃げたり隠れたりしやすいようにだ。
武装も控えめにする。
もちろんマイクロ・クエーサー砲なんて装備できるわけがない。
設計としては完成。
ハンニバル隠密(?)商船バージョンだった。
☆★☆★☆
衛星アトラスの水上型宇宙港の外れに、武装商船版のハンニバルを停泊させている。
近くを小さな漁船が行きかう。
鯛や鰤用の養殖池も近くに作ったからだ。
メインドッグには代わりに、ハンニバルに擬態させた重巡ジンギスカンを置いてある。
先日の戦いでジンギスカンは大きな損害を受けていて、どちらにしろ修理に時間が必要だった。
今回、『2か月は帰って来るな!』と蛮王様に言われているので、副官殿とタヌキ軍曹殿を連れて、近隣星域を巡ってみることにしたのだ。
……いわば、研修旅行である。
衛星アトラスでお留守番は、マルガレーテ嬢とバフォメットさんである。
なにしろ、もう私はエールパ星系の司令官ではないのだ。
怪我が治ったら司令官に戻れるのかな。
……少し不安になった。
☆★☆★☆
「微速前進!」
「了解ですわ!」
こそこそと離陸するハンニバル。
あくまで商船らしく、というのも今回の作戦趣旨だったのだ。
「アフターバナー使いたいポコ!」
「駄目です! めっですよ!」
私の癖が出ないよう、今回の離陸はタヌキ軍曹殿が行う。
なんだか二人とも楽しそうだな。
今回、一般の船員さんも併せて、8人だけの気楽な旅になるはずだった。
無事に衛星アトラスの重力圏を抜けだし、気を緩めたころに突然艦橋のドアが開く。
「誰だ!?」
皆、一瞬の緊張。
「暇だったから、ついてきたメェ~♪」
……もとい、羊亜人の密航者を合わせて9名の旅だった (´・ω・`)
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