みゃあみゃあとカモメが鳴き、槌の音も勇ましい。
ここ惑星リーリヤの海岸水上型宇宙港は活況を呈していた。
カモメが狙う漁船が入港する海上船の港はとても大きく、実はそれに小さく間借りする形で宇宙港は存在している。
惑星リーリヤの漁業は一大産業だったからだ。
この世界の構造は、今の我々が考えるよりもずっと食料は貴重である。
干物や缶詰めなどの水産加工業も盛んだった。
のんびりと海を進むタグボートの後ろで、宇宙船建造ドックのいくつかは完成にこぎつけ、順次宇宙船の建造に着手していた。
カリバーン帝国政府は、先の敗戦の汚名をそそぐべく、宇宙船の増産体制を発していた。
しかし、折からの資源高騰で、造船計画は遅々として進まない。
更には軍の民間船徴用によって、民間産業の停滞を招き、より一層の宇宙船不足に悩まされていた。
これは多少の差こそあれ、グングニル共和国も同様である。
長く続く戦争により、文明のある全宇宙において、宇宙船はいくらあっても足らない状況だったのである。
半面、惑星リーリヤは近場の衛星アトラスより、ミスリル鋼などの資源を安価に手に入れていた。
それを伝え聞いた商人たちは、次々に惑星リーリヤへビジネスの為のオフィスを立ち上げていた。
造船産業が沢山の人に職を与え、その余波は他の産業にも波及し、惑星リーリヤは好景気を迎えていた。
惑星リーリヤの現状を見た帝国政府は、蛮王ブルーに侯爵の地位を授ける。
そして、エールパ星系の支配権も正式に与え、彼の感心を帝国に繋ぎとめようとした。
それに従い、惑星リーリヤの宇宙防衛艦隊の実質的な提督である私も中佐に昇進した。造船産業様さまである。戦働きだけが提督の仕事ではないのかもしれない……。
産業の躍進は、同時に犯罪も連れてきた。
……大規模な宇宙海賊の出現だった。
☆★☆★☆
「ヴェロヴェマの旦那ぁ~」
惑星リーリヤの街中でラーメンを啜っていたら、星間ギルドの職員さんであるウォルフさんに話しかけられた。
最近は惑星リーリヤの星間ギルドの出張所が大きくなって、職員さんも100名以上いる。
「なんでしょ? 急ぎの小惑星案件です?」
私は拉麺の器を両手で持ったまま、ナルトをくわえながら答えた。
実は私は【小惑星キラー】の二つ名を頂くほど、小惑星破壊の仕事に打ち込んでいた。きっと小さな小惑星だと、私の名を聞いたら逃げ出すに違いない……。
「いやいや、宇宙海賊のほうでさ!」
「ぇ? それはマルガレーテ嬢に言ってよ!」
……餅は餅屋なのだ。
確かに私は小惑星破壊に限っては銀河一巧いだろう。動かない石ころ相手なら、もはやS級提督と言っても過言では無い成績をあげていた。
「いやいや、相手がおおいんでさ! 旦那!」
「反撃してくる相手は苦手なんだよなぁ~」
「戦争屋がなにいってんだい!」
実は宇宙文明有史以来、宇宙軍の主な仕事は宇宙海賊退治である。間違っても戦争ではなかった。
民間の航行の安全を守ることこそが、宇宙軍人の真の姿なのだ。
間違ってもサボれる案件ではないと、ウォルフさんに怒られた。
……たしかに、武器を持っている人が戦うべきだ。今の私の姿はギガースだけど。
☆★☆★☆
衛星アトラスに帰り、タヌキ軍曹の家で作戦会議を開く。
彼の家は宇宙港のとなりで便利だからだ。
本人の承認は、実は得ていないが……。きっと大丈夫だろう……。
机上の作戦パネルの周りにみな席に着いた。
「敵が多すぎるニャ!!」
宇宙海賊対策部長様がお冠だ。
敵が多すぎて手が回らないらしい。
手が回るなら、私にこの手の仕事は回ってこないはずだ。
マルガレータ嬢は依頼報酬が大好きだからだ……。
……しかし、宇宙港に泊まっている彼女の船は傷だらけだ。
前面のみならず、側面や後方からの被弾の痕も見られた。
本当に苦戦しているのだろう。
「宇宙海賊の活動範囲は、この円の範囲ポコ!」
「この円の中心に近いところに、宇宙海賊のアジトがあるはずですわね」
「お肉の倉庫はどこ辺りメェ?」
「それよりも金庫はどこニャ?」
……敵は宇宙海賊。
さして強くないかもしれないが、地形を生かしたゲリラ戦が強い。
彼等の巣窟は主に辺境星系シャーウッドの外縁の小惑星帯だった。
ここは磁場も強く、センサー類も当てにならない。
下手に踏み込むと、思わぬ奇襲を食らうかもしれなかった。
準備は多めにしておかなければならない。
ゲリラ戦対策って何をすればいいのか分からないけれども。
更には、平和的な解決も相手が望めるなら行うべきだ……。
……好き好んで残忍な海賊になる人も少ないだろう。
……作戦会議は深夜まで続き、お目当ての夜食は美味しい牡蠣鍋だった。
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