宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

宇宙を駆け敵を撃つ! タヌキの砲術長と副官のアンドロイドの仲間と一緒に敵を倒して目指せS級宇宙提督!
黒鯛の刺身♪
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第二十四話……造船景気

公開日時: 2020年11月28日(土) 19:09
文字数:1,866

 みゃあみゃあとカモメが鳴き、槌の音も勇ましい。



 ここ惑星リーリヤの海岸水上型宇宙港は活況を呈していた。


 カモメが狙う漁船が入港する海上船の港はとても大きく、実はそれに小さく間借りする形で宇宙港は存在している。

 惑星リーリヤの漁業は一大産業だったからだ。


 この世界の構造は、今の我々が考えるよりもずっと食料は貴重である。

 干物や缶詰めなどの水産加工業も盛んだった。




 のんびりと海を進むタグボートの後ろで、宇宙船建造ドックのいくつかは完成にこぎつけ、順次宇宙船の建造に着手していた。


 カリバーン帝国政府は、先の敗戦の汚名をそそぐべく、宇宙船の増産体制を発していた。

 しかし、折からの資源高騰で、造船計画は遅々として進まない。

 更には軍の民間船徴用によって、民間産業の停滞を招き、より一層の宇宙船不足に悩まされていた。

 これは多少の差こそあれ、グングニル共和国も同様である。


 長く続く戦争により、文明のある全宇宙において、宇宙船はいくらあっても足らない状況だったのである。



 半面、惑星リーリヤは近場の衛星アトラスより、ミスリル鋼などの資源を安価に手に入れていた。

 それを伝え聞いた商人たちは、次々に惑星リーリヤへビジネスの為のオフィスを立ち上げていた。

 造船産業が沢山の人に職を与え、その余波は他の産業にも波及し、惑星リーリヤは好景気を迎えていた。



 惑星リーリヤの現状を見た帝国政府は、蛮王ブルーに侯爵の地位を授ける。

 そして、エールパ星系の支配権も正式に与え、彼の感心を帝国に繋ぎとめようとした。


 それに従い、惑星リーリヤの宇宙防衛艦隊の実質的な提督である私も中佐に昇進した。造船産業様さまである。戦働きだけが提督の仕事ではないのかもしれない……。



 産業の躍進は、同時に犯罪も連れてきた。


 ……大規模な宇宙海賊の出現だった。




☆★☆★☆



「ヴェロヴェマの旦那ぁ~」


 惑星リーリヤの街中でラーメンを啜っていたら、星間ギルドの職員さんであるウォルフさんに話しかけられた。

 最近は惑星リーリヤの星間ギルドの出張所が大きくなって、職員さんも100名以上いる。



「なんでしょ? 急ぎの小惑星案件です?」


 私は拉麺の器を両手で持ったまま、ナルトをくわえながら答えた。

 実は私は【小惑星キラー】の二つ名を頂くほど、小惑星破壊の仕事に打ち込んでいた。きっと小さな小惑星だと、私の名を聞いたら逃げ出すに違いない……。



「いやいや、宇宙海賊のほうでさ!」


「ぇ? それはマルガレーテ嬢に言ってよ!」


 ……餅は餅屋なのだ。

 確かに私は小惑星破壊に限っては銀河一巧いだろう。動かない石ころ相手なら、もはやS級提督と言っても過言では無い成績をあげていた。



「いやいや、相手がおおいんでさ! 旦那!」

「反撃してくる相手は苦手なんだよなぁ~」


「戦争屋がなにいってんだい!」


 実は宇宙文明有史以来、宇宙軍の主な仕事は宇宙海賊退治である。間違っても戦争ではなかった。

 民間の航行の安全を守ることこそが、宇宙軍人の真の姿なのだ。


 間違ってもサボれる案件ではないと、ウォルフさんに怒られた。

 ……たしかに、武器を持っている人が戦うべきだ。今の私の姿はギガースだけど。




☆★☆★☆


 衛星アトラスに帰り、タヌキ軍曹の家で作戦会議を開く。

 彼の家は宇宙港のとなりで便利だからだ。

 本人の承認は、実は得ていないが……。きっと大丈夫だろう……。

 机上の作戦パネルの周りにみな席に着いた。



「敵が多すぎるニャ!!」


 宇宙海賊対策部長様がお冠だ。

 敵が多すぎて手が回らないらしい。

 手が回るなら、私にこの手の仕事は回ってこないはずだ。

 マルガレータ嬢は依頼報酬が大好きだからだ……。


 ……しかし、宇宙港に泊まっている彼女の船は傷だらけだ。

 前面のみならず、側面や後方からの被弾の痕も見られた。

 本当に苦戦しているのだろう。



「宇宙海賊の活動範囲は、この円の範囲ポコ!」

「この円の中心に近いところに、宇宙海賊のアジトがあるはずですわね」


「お肉の倉庫はどこ辺りメェ?」

「それよりも金庫はどこニャ?」



 ……敵は宇宙海賊。

 さして強くないかもしれないが、地形を生かしたゲリラ戦が強い。


 彼等の巣窟は主に辺境星系シャーウッドの外縁の小惑星帯だった。

 ここは磁場も強く、センサー類も当てにならない。

 下手に踏み込むと、思わぬ奇襲を食らうかもしれなかった。


 準備は多めにしておかなければならない。

 ゲリラ戦対策って何をすればいいのか分からないけれども。


 更には、平和的な解決も相手が望めるなら行うべきだ……。

 ……好き好んで残忍な海賊になる人も少ないだろう。



 ……作戦会議は深夜まで続き、お目当ての夜食は美味しい牡蠣鍋だった。

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