――カリバーン帝国暦853年9月。
午前8時20分。
侵攻してきたルドミラ教国艦隊と星系を防衛するフェーン星系艦隊が激突する。
フェーン星系外縁にて初撃を放ったのは、今回援軍のラム星系艦隊旗艦ハンニバルだった。
「主砲、次弾装填完了!」
「放てポコ!!」
ハンニバルの連装大口径レーザービーム砲が、時空振動が計測された地点目掛けて超高温の青白いエネルギーを吐き出す。
敵からすれば索敵外から闇雲に撃っているように見えたかもしれないが、私の万里を見通す【羅針眼】はほぼ正確に敵を捕らえていた。
そして【魔眼】は敵の予備動作から未来行動予測をはじき出す。
私の左手と連動した生体コンソールによって、ハンニバルの射撃指揮システムと私の眼は連動していた。
……かといって、この無限に広い大宇宙で相手に弾が当たるという保証はどこにもないのだが。
事実、外れた。
「生体連動開始! 誤差修正良し!」
「第二射放てポコ!!」
再び青白い大出力レーザービームが再び漆黒の宇宙を切り裂く。
今回は一撃目と違い、遥か彼方で赤い気泡のような光が現れる。
「着弾! 命中です!!」
「良し!」
「命中データーを全艦へ送信! ラム星系艦隊、射撃開始!!」
「了解ポコ!」
ラム星系艦隊は各々砲塔を調整し、長距離射撃を開始した。
「着弾! 命中!!」
「大光源確認! 敵撃沈の模様!」
「着弾命中!」
「再び大光源、敵炎上の模様!!」
次々に長距離砲戦の戦果が上がる。
私は今回初めて、【羅針眼】と【魔眼】を複合して艦隊戦に臨んでいたのだった。
戦果は今のところ上々だった。
ハンニバルが当てた相手を目掛けて他艦も砲撃するという、一緒に訓練や戦闘をしてきた艦艇同士ならではの艦隊運動だった。
「敵、怯まず前進してきます!」
「レーダーにて捕捉! 敵影37隻!」
「フェーン星系艦隊へ連絡、突出した敵艦艇に集中攻撃!」
「防御弾幕開始!」
「了解!」
敵は強引に前進して、射撃レーダーの確実有視界に打ってこようとしていた。
遠距離戦は不利と見たのだろう。
「敵駆逐艦、本艦に高速接近!」
「!?」
防御弾幕を高速で突破した敵が単艦でハンニバルに迫る。
……しかし、ハンニバルは本来接近戦を得意とした重装甲戦艦であった。
「左舷側近距離ビームガトリング砲群用意!」
「用意良し!」
「撃てポコ!」
敵駆逐艦はハンニバルの左前方近くで回頭し、高威力の対艦ミサイルを撃つ予定だったのであろうが、ハンニバルの近距離ビーム砲をハチの巣のように浴び、ぼろ布のように爆散した。
「敵撃破確認!!」
「やったポコ!」
「よし、再び、長距離砲撃開始!」
「了解!」
……しかし、敵もさるもの、中距離ミサイル射程にほぼすべてが殴り込んできた。
「敵ミサイル群確認! 数300以上!」
「迎撃ミサイル発射!」
「こちらも対艦VLSを放て!」
「了解!」
次々にミサイルの応射が開始される。
ミサイルによって防御スクリーンの能力を飽和させられた艦は被弾し、戦列から後退する。
「左翼突破されました!」
「!?」
遂に、敵の高速巡洋艦にコチラの戦列を食い破られ、突破に成功されてしまう。
敵艦は突破後に回頭し、我々の背後から照準を定める。
「敵巡洋艦爆沈!」
「!?」
我が艦隊の後ろに配置していた対艦陣地砲の一斉射撃だった。
「小僧! 背後は任せろ!」
「ありがとうございます!」
我々の背後の小惑星帯に布陣する対艦陣地砲列の指揮官は、帝国にこの人ありと謳われた砲撃の名手シャルンホルスト退役中将。
蛮王様にお願いして歩兵と一緒にお借りしてきたのだ。
この陣地砲列の射撃が加わることにより、敵の攻撃は限界線に達する。
……潮目が完全に変わり、こちらが押し返す番となっていった。
☆★☆★☆
「シールドのエネルギーを主砲に回せ!」
「全艦全力攻撃!」
「艦載機発進! 第二次攻撃隊用意!」
「ポセイドンシステム開始!」
我が方の猛攻により、敵の艦列は乱れ、あちこちで戦果が拡大していった。
「敵空母、中破!」
「敵軽巡洋艦、撃沈!」
「……命中!」
「……撃破!」
もはや、我が方の勝ちは決し始めていた。
次々に戦果が上がる。
遂に、敵旗艦とおぼしき大型艦も重力シールドが破られ、電磁障壁も消え去る。
――ドォォオオン。
大衝撃が走る。
「敵旗艦、撃沈!」
「やったニャ♪」
仕留めたのはマルガレーテが指揮する巡洋艦オムライスの対艦ミサイルだった。
防空射撃網を食い破ったオムライスのミサイル3発が、敵旗艦のバイタルエリア内に命中。
弾薬庫と機関部を誘爆させた。
……これを見た敵は次々に反転をはじめ、戦線から離脱していった。
☆★☆★☆
「逃がすな! 追撃!」
「「「了解!」」」
「次の艦載機は対艦ミサイルに換装!」
「装甲機動歩兵も準備させろ!」
「長距離対艦ミサイル発射!」
「了解!」
残酷なようだが、私は執拗な追撃戦を指揮。
背後からも容赦なく射撃して、敵を撃沈していった。
さらに、敵艦の長距離跳躍を阻害し続け、残存する敵艦を全て降伏に追いやった。
とくに後ろに控えて物資を満載していた輸送艦4隻を拿捕したのは大きかった。
……この追撃戦は実に10時間に及んだ。
このあまりにも執拗な追撃戦により、私は後日『地獄の番犬』と呼ばれるようになった。
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