(……遡ること、一週間前)
――俺は金山豪。
俺は月面戦線まで撤退していた。
主力は月面にあることを考えたら予想の範疇なんだがな……、くくく……。
「S島の自爆成功!」
「おう、よくやった、ざまあみろってんだ!」
S島に設置していた自爆装置が役に立ったようだ。
勝ったとおもったN国の兵士のみなさん乙ってやつだな……。
……しかし、
「謎の大型戦艦が、N国の我が方の戦線に攻撃をかけてきております!」
「どこのふざけた船だ!?」
「船籍は旧カリバーン帝国、識別信号はハンニバルです!」
「ま、またあいつか!?」
「そもそも、どこから湧いてでやがった!?」
……多分、ワームホールからだろう。
厄介な奴だな……。
「支援部隊を出しますか?」
「……いや、イラン!」
「しかし、このままではN国戦線が!?」
「現地の指揮官には死ぬまで戦えと告げろ!」
「……は、はっ!」
……どいつも、こいつもトロいよな。
さっさと金山様の為に、仕事をしろよな。
……不甲斐ないN国戦線は崩壊。
ゴミみたいな部下をもって、俺は不幸せだ。
ついに、奴はここ、月面基地までやってきやがった……。
「敵、大型戦艦接近!」
「迎撃システム稼働、VLS起動!」
「高射砲斉射、用意良し!」
「敵を生きて返すな!」
「砲撃開始!!」
……俺は、迎撃を指揮する。
しかし、あの巨体はすさまじい防御スクリーンをもっていた。
「有効弾無し!」
「ミサイル攻撃も効果なし!!」
「……こ、効果なしだと!?」
「くそう、……この化け物野郎!」
砲撃やミサイルでは、奴のシールドを破れないと見た……。
「艦載機を出せ! 宇宙海獣も全部出せ!」
「了解!」
「艦載機発艦!」
……しかし、すべての戦力は灰燼に帰した。
しかも、奴等は宇宙海獣と会話できるらしい。
チート過ぎるだろ!?
「敵上陸部隊が進出してきました!」
「迎撃戦車隊を出せ!」
「了解!」
……しかし、
「戦車隊全滅!!」
「正面第六ゲート突破されました!」
「この司令部へまっすぐに通路を進撃してきます!」
「げぇ!?」
……なぜ、俺がいる場所が判るんだ!?
奴等は真っすぐこちらに攻めてきていた。
……そうか、わかったぞ!!
情報がバレていた原因が……。
「貴様ら! 裏切ったな!」
「この役立たずが! 死ねぇ!」
――ドンドンドン
俺は腰から拳銃を抜き、司令部の幕僚たちを撃ち殺した……。
「ぐふ!」
背後にいた副官に撃たれた!?
脇腹から血が噴き出る。
「貴様も裏切っていたのか!?」
「金山様、誰も貴方を裏切っておりません、頑張っている我々を裏切ったのは貴方ではありませんか?」
「ごふっ」
……口から血反吐が溢れる。
「貴様ら、お……覚えておけよ……」
――ドンドンドン
「ぐあぁぁぁ……」
☆★☆★☆
「ごふっ!」
「提督大丈夫ですか!?」
「救急班きてくれポコ!」
私は口から血を吐いていた……。
この体でも【眼】の力は使えたのだが、こちらの体はひ弱だ。
情報を得るために、力を使いすぎて、疲労が出てしまった。
「敵司令部制圧!」
「敵地上部隊、司令部要員は降伏の模様!」
……どうやら勝ったようだった。
「私の体をアパートに置いて、皆は帰ってくれ!」
「……でも」
「心配ポコ!」
「パウリーネ様に約束してある、メドが就き次第撤退すると……」
「……もし、私がいなくなった場合には、艦の保有者はクリームヒルトとする……」
それだけ言うと、私の意識は無くなった……。
☆★☆★☆
眼を開けると、見慣れた天井があった。
いつものアパートの中だった。
……すこしホッとした。
死んでいるかと、少し思っていたからだった……。
枕もとには薬がおいてある。
薬の下には『早く元気になってね!』と書置きがあった。
……重たい体を起こし、TVを見る。
『ご覧ください! 西都が解放されました!』
N国国防軍が頑張って、N国首都の西都が解放されたらしい。
……よかった。
自分の活躍も少しは役にたっているよね。
ちなみに、月面基地を攻める前に、例のワームホールの周りに、宇宙機雷を多数設置して置いた。
これによって、ルドミラ教国の兵站線は、かなり苦しくなるはずだった。
N国にいた新カリバーン帝国の残敵は、N国の防衛省に降伏を打電したようだった。
親玉の金山がいなくなったのだ。
当然と言えた……。
南半球のルドミラ教国の軍も、北半球側の国連軍に押されはじめているらしい。
戦況は好転しているようだった。
……TVの電源を落とす。
私は例の如くシャワーを浴びた後、近くのコンビニへ食料を買い出しに行く……。
「ぶっ!」
コンビニのモニター映像で、私の顔が出ていた。
救国の英雄とされていた……。
嬉しいけど、めちゃ恥ずかしくて、買うものだけ買って、走って家に帰った。
「ぜぇぜぇ……」
「金山のような度胸はわたしには無いな……」
家に帰ってご飯を食べる。
少し落ち着いて、お茶を啜る……。
「……さぁ、戻るか!!」
私はVRカプセルに入って、赤いスタートボタンを押す。
白い神経ガスが出て、意識が離れる。
……もはや私の国は、N国ではなくなっていた気がする。
向こうの世界の私が、本当の私な気がしたのだった……。
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