――カリバーン歴853年2月。
「提督! レオナルド王国から緊急通信です!」
「メインモニターへ回線開け!」
「了解!」
惑星ベルの衛星軌道上。
私はレオナルド王国から受注を受けた艦船の試運転をしていた。
武装も載せたばかりで、艤装も完全には済んでいない。
現在預かっている兵員の訓練も兼ねた最中だった。
「……ドラグニル星系が反乱!?」
「ソウナノデス! カリバーン帝国ノ傀儡ニハナリタクナイト……」
それはレオナルド王国の大臣からの連絡だった。
レオナルド星系はフェーン星系とドラグニル星系と共に、カリバーン帝国の従属勢力である辺境連合国家を形成しており、その盟主格はレオナルド星系を治めるレオナルド王国だった。
しかし、先月にドラグニル星系の王が急逝。
第一王子が後を継いだ。
この若き王太子は、現状の辺境連合国家を否定。
カリバーン帝国からの完全独立と、辺境連合国家の盟主の座を求めてレオナルド王国に宣戦を布告したのだった。
「ドウシタモノカト……」
「和平交渉は?」
「一切応ジナイトノコトデス」
「困ったな」
軍部や軍人は性急に戦争をしたがるものと考える人が多いが、一部を除き概ね誤りである。
彼等の力の源は兵力や組織そのものであるため、その損耗を避けたいのである。
それはまさに、資産を浪費する資産家が実際には少ないように、兵力を悪戯に戦地に投入したい軍人も少なかったのである。
「准将閣下ノ、オ手並ミヲ拝見シタク……」
……だんだんに大臣の言いたいことが分かった。
自分達の損耗を抑えたいから、ハンニバルだけなんとかしてほしいということだった。
かの大臣も、多数の民衆の代理人なのだ。
卑怯と罵られようとも、自国民の被害は少なければ少ない方が、まさしく良い為政者なのだ。
「わかりました、なんとか鎮圧してみせましょう」
結局、私は依頼を快諾して、大臣との通信を切った。
「提督、大丈夫なのですか?」
「う~ん、あまり大丈夫じゃない」
副官殿は不安の様だ。
実は結局のところ、私もかなり不安なのだ。
しかし、不安ながらも沢山の修羅場をくぐってきたこともあり、副官殿のポヨヨンとした胸を見る余裕もあった。
慣れとは恐ろしいものである。
しかし、地位と俸給を頂いているからには、仕事をして結果を出さねばならない。
やはり、タダ飯提督等と言われるのは御免だった。
「訓練兵は他艦に移乗し退艦せよ!」
「我が艦は単艦で反乱軍を討つ!」
「「「了解!」」」
その後、ハンニバルは長距離跳躍を連続で果たし、予定より明らかに素早くドラグニル星系へ歩を進めた。
私だけでなく、乗組員たちも熟練の人となってきていた故だった。
☆★☆★☆
――ドラグニル星系主星。
惑星ドラグニル。
ドラグニル王家が支配する、小型二足歩行龍族であるドラグニル族の王国である。
文明水準はカリバーン帝国に劣るが、その屈強な体躯は銀河有数のものであり、恐ろしいまでの白兵戦能力を有していた。
もともと、交戦的な民族であったのだが、先王ドラグニル2世は温和な名君で、それが辺境星域連合国家の成立に寄与していたのだった。
……その先王が無くなった今。
比較的独立志向が強い彼らが、辺境連合国家に反乱を起こすことはある種、普通の成り行きだったのかもしれない……。
「ドラグーン星系外縁にワープアウト!」
「敵影見ゆ!」
「旧式核融合炉型戦闘艦4隻の模様!」
この敵に対しては、火力、装備、練度、全てがハンニバルの方が上だった。
その後、一方的に索敵に成功し、砲撃戦に優位な位置をとる。
「撃て!」
「主砲斉射ポコ!」
ハンニバルの主砲は今回、50.8cm75口径3連装レーザービーム砲である。
青白い光軸が次々に敵を捕らえた。
「命中7発! 残りは夾叉」
……敵に対し、一方的に砲撃を浴びせるハンニバル。
今回、ハンニバルの外部追加装甲部は、高い隠蔽性に優れた光学ステルス方式だった。
よって、相手はハンニバルの正確な位置を捕捉できていないようだった。
……なにも、距離だけがアウトレンジ攻撃ではない。
相手の索敵外から一方的に攻撃するのも、立派なアウトレンジ攻撃といえた。
「続いて、副砲は敵の武装と機関を狙い打て!」
「了解ポコ!」
ハンニバルの副砲は、15.5cm速射砲塔型レールガン。
超硬タングステンの実弾が、次々に敵の砲塔部や機関などのバイタル区画を的確に撃ち抜いていった。
……それは一方的な戦いであり、戦いというには戦いに対し失礼であったかもしれない。
敵艦隊4隻の全ては瞬時、武装と機関を沈黙させるに至った。
その後、ハンニバルは航行不能になった敵艦隊を放置して進軍。
適時、短距離跳躍を織り交ぜ、惑星ドラグニルの重力圏にまで到達した。
――外交儀礼に則り、丁寧な降伏勧告を行う。
……が、
「貴様らに降伏するなど笑止千万!!」
けんもほろろに断られる。
多分、彼らの戦いの本領はこれからなのだ。
惑星ドラグニルの地上戦は避けがたい展開となった。
……こちらの戦闘員は、乗員を全て足しても150名に満たない。
地上で白兵戦を行えば、必ず負ける情勢だった。
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