――チリリーン
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「四人ポコ~♪」
女王アメーリアさんを総司令部に送り届けた後の昼下がり。
タヌキ軍曹殿の要請により、ここ新帝都バルバロッサにあるレストランに来た。
ちなみに彼も出世しているので、もはや軍曹ではないのだが……。
タヌキ軍曹殿が、店内を走って眺めの良い席をゲットした。
皆で席に座ると、ここからは宇宙港が見えた。
少々音がうるさいが、宇宙船が次々に青空に飛び立つ景色も悪くない。
「ご注文はいかがしましょう?」
「ハンバーグパスタが3つポコ♪」
「熱燗と枝豆クマ~♪」
……Σ( ̄□ ̄|||) このクマ型アンドロイドは昼間から酒か!?
料理が運ばれてきても、ずっと熱燗を飲んでいるクマ殿。
「なにか食べないと体に悪いポコよ!?」
「余計なお世話クマ!」
クマ殿は飲んだくれて、隣のテーブルで飲んでいるお爺さんに絡む。
「爺さん、しけた面してるクマね♪」
ヾ(▼ω▼´メ)ノ
「うるさい熊だな!」
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
「やったクマね!」
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
「この非グマめ!」
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
お爺さん酔っぱらいと、ちっちゃいクマ殿が喧嘩になってしまった。
「「もっとやれ~♪」」
「「いいぞ~♪」」
シワシワのお爺さんと、ちっちゃなクマのホノボノとした喧嘩だったので、周りのお客さんがチップを投げ入れてくれた。
「艦長! やられました!」
全長30cmのモフモフなクマ殿がボコボコにされて帰ってきた。
……弱いな、クマのくせに (´・ω・`)
そんなことを思っていると、
「も……もしかして、シャルンホルスト中将ではありませんか?」
副長殿が思い出したように尋ねる。
ち……中将閣下ですと!? Σ(・ω・ノ)ノ!
「元中将だ、もう軍は辞めたんだよ。今はただの爺だ……」
不貞腐れて飲んでいるお爺さんを横目に、副長殿が私にこっそり耳打ちしてきた。
『……ぇ? あの人有名人なの?』
『そうですわ! 帝国の虎と言われた名将ですわ』
私はお爺さん中将の御猪口に、クマの徳利のお酒をなみなみと注いだ。
「部下がどうもすいません!」
「話が分かるな」
ぺこぺこと頭を下げる私に、お爺さん中将は私の肩を叩いて笑ってくれた。
「実は……」
「なんだ?」
「ウチの船にとても良いお酒を用意してあるんです!」
「ほぉ?」
「それはクマの純米大吟醸クマー」
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
我が副官殿がクマ殿を無言で黙らせる。
「よろしければ是非、これからお越しになりませんか?」
「よかろう」
☆★☆★☆
「うわっはっは♪」
「お爺さんもイケるクチクマねー♪」
我がハンニバルは、エールパ星系に向けて航行中だが、クマと元中将殿はずっと艦の食堂の片隅で飲み明かしている。
クマ殿がお手洗いに行っているときに、私は元中将に尋ねた。
「……ついてきて頂いてよろしいのですか?」
「家にいると孫娘にも邪険にされてな、まぁ……やることもないしな」
――こうして、シャルンホルスト元中将を私設顧問として登用することに成功したのだった。
私はその日から、彼から戦術のいろはを学ぶことになる。
とてもわかりやすい講義だったが、とても酒臭かったのもいい思い出だった。
☆★☆★☆
カリバーン歴850年8月
グングニル共和国は新たな問題を抱えていた。
帝国の大要塞リヴァイアサンが陥落して以降。
カリバーン帝国の通貨が暴落し続けた影響により、帝国側からの安い輸入品が猛威を振るっていたのだ。
中央政府同士は確かに戦争をしているのだが、これから仲間になるかもしれない地方星系とは普通に貿易していたためだ。
とくに、占領地であるホーウッド公爵自治領からの安い工業品が大量になだれ込んできた。
統治上、新たな占領地からの製品をボイコットするわけにはいかない。
……しかしそれは、グングニル共和国の競争力の弱い中小零細企業に、深刻な打撃を与えていた。
「自由な貿易を! 私は保護貿易など擁護しない!」
これが共和国大統領の再選スローガンの一つであったため、有効な打開策を見いだせないでいた。
大統領の顧問団も『自由貿易こそが至上』との考え方だったのもあり、体力のない企業が次々に倒産に追い込まれ失業者が街にあふれた。
街をあるけば普通に物乞いがおり、スラム街はどんどんと広がっていった。
一部の大企業の社員は、庭にゴルフ場を造るほど潤っており、政治家たちはそのような大企業から、多額の選挙資金を貰っていた。
自由貿易を推奨する共和国は相対的貧困率において、帝国より悪い方向に大きく上回っていったのだった。
……そして、各地でデモや暴動が次々に発生。
治安は大幅に悪化。
警察署などの公共インフラ施設への襲撃も発生した。
……そんな共和国の社会情勢不安の中。
「神は全ての民をお救いになられます」
女神ルドミラを崇める教団が、民衆の心を徐々に掴み始めていた。
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