「あなた如き、スチュワード伯爵様の手を煩わせることもありません!」
「……は、はあ……」
敵対する士官が相手なのだが、何故か敵意や戦闘意欲がわかない。
見た目が、ご近所の小学生の女の子だったからだ。
「提督!」
クリームヒルトさんに耳打ちされる。
……うん、それでいこう。
「スチュワード伯爵は臆病なんだね! 君の後ろに隠れているのかな?」
ビデオチャットにて大きな声で挑発してみた。
実は臆病なのはスチュワード伯爵ではなくて、私である。
100%演技なのである。
敵対勢力の高級士官に戦う前に喧嘩を売ったのだ。
ビビりまくりで心臓がバクバクいいそうだった。
「許さん! 貴様は決して生かしておかん!」
「首を洗って待っていろ!!」
めちゃめちゃ大声で怒られた。
正直怖い……。
……しかし、巧いことに挑発にのってくれた。
彼女はこちら側の星系まで出向いてくれるそうだ。
我が艦隊の作戦行動は陽動が目的なので、敵の目をひければなんでもよかったのだ。
敵は我が艦隊が駐留しているアルデンヌ星域まで来てくれるという。
そう、ここアルデンヌ星域はルドミラ教国との戦いで要塞化されていたのだ。
ここまでは、我が副官殿の策謀が当たった形となっていた。
☆★☆★☆
今回の我がエールパ星系艦隊の陣容は以下のとおりである。
〇エールパ星系艦隊旗艦≪エルゴ機関搭載艦≫
装甲戦艦ハンニバル
〇星系航行戦闘艦≪エルゴ機関搭載艦≫
宇宙母艦・オムライス
装甲機動歩兵母艦・ジンギスカン
〇通常航行戦闘艦≪核融合炉搭載艦≫
戦艦……1隻
巡洋艦……2隻
駆逐艦……4隻
ミサイル艦……4隻
惑星揚陸艦……2隻
中型輸送艦……2隻
……計18隻。
残りは顧問のシャルンホルストさんとともにエールパ星系に残ってもらっていた。
前回の戦闘で激しく傷ついたオムライスとジンギスカンを大幅に改装して、各種母艦として運用している。
今回はハンニバルも左舷に滑走路と電磁式カタパルトを備え、艦載機も複数搭載していた。
全長が800Mもあるので、いろいろと趣味なものが装備できたのだ。
☆★☆★☆
約束通り、8時間後に敵はアルデンヌ星系外縁に現れた。
「合図があるまで撃つな!」
「「「了解!」」」
ハンニバルは単艦で敵に立ち向かう。
こちらの防御陣に敵を引き込むためだった。
ハンニバル以外の艦は、後方の小惑星群の中に隠れている。
「しかし、敵の艦隊の司令官は、何故ちいさな女の子なんですかね?」
クリームヒルトさんが腕を組んで悩んでいる。
そして、その腕の上にポヨヨンとした大きな胸が載っている。
『……お前のところの副官はどうなのだ?』
とか敵に言われそうだから、黙っておいた……。
「敵発砲! 初弾きます!!」
「左舷に命中、火災発生!!」
「消火急げ!」
「反転180度! 後退機動開始!!」
ハンニバルは敵レーザービーム二発を受け、左舷装甲区画に損傷。
後方へじりじりとさがる……。
……という演技である。
実は、電磁防壁や重力シールドの出力を態と落としていたのだ。
「敵弾さらに来ます! ミサイル数20!」
……やべぇ。
実は結構冷や汗ものである。
「慌てずに、ゆっくり逃げろ!」
「了解ポコ!」
所謂、囮役をしているのだが、これが案外難しい。
本当にダメージを受けては元も子もないし、逆に早く逃げると敵がついてこない恐れがあった。
「敵ミサイル第二波来ます! 数200以上!」
「危ないポコ!」
「全力離脱!」
結局、最後は本気で逃げてしまったハンニバル。
……なんだか情けない。
しかし、
「艦載機発進ニャ!」
「装甲機動歩兵攻撃開始メェ!」
「全艦砲撃開始!」
ハンニバルが引き付けた敵艦隊に、待ち受けた味方が一斉に攻撃を開始する。
敵はシールドを貫かれ、次々に爆発していった。
「反転180度! 攻撃態勢に移る!」
「了解! 主砲射撃ポコ!」
「攻撃隊! 発艦ですわ!」
ハンニバルも反撃に加わる。
今回、小惑星帯防衛ラインにアルデンヌ星系の警備隊まで加勢してくれたため、一方的な戦いとなる。
……開戦2時間後には、敵は壊滅的被害を受け、潰走し始めた。
「追撃しろ! 一兵も逃すな!」
「「「了解!」」」
我が方の追撃は苛烈で、敵は退却のための長距離跳躍の機会を掴めず、ほとんどが撃沈または降伏した。
「……ふう」
「完全勝利ニャ!」
「我々は強いメェ!」
「……ははは」
意外と逃げる演技をするハンニバルは必死だったりして、全然楽勝じゃなかったんだが、黙っておこう……。
☆★☆★☆
「敵巡洋艦拿捕!」
「敵巡洋戦艦拿捕!」
「敵第二陸戦中隊投降!」
「敵宇宙母艦自沈!」
……次々に戦果が上がる。
こういうとき敵の立場になると、哀れで可哀そうな気もする。
船は幾らでも欲しいので、できるだけ沈めずに降伏させるようにしていた。
敵の兵隊さんにも、味方にならないかと誘ってみた。
……しかし、先ほどの宇宙母艦の自沈はもったいないね。
「つかまえてきたメェ~♪」
「くっ!」
敵方の司令官である少女が、バフォメットさんによって連れてこられた。
後ろ手に電磁手錠をされているようだ。
驚いたことに、あとから連れてこられた彼女の幕僚たちもまた、幼い少女たちだった。
なんだか不思議な光景だった。
彼女たちから、敵の情報を聞き出さねばならない。
……情報は最大の戦力だったからだ。
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