――ある晩。
コンコン。
深夜、ホテルの扉をノックする音がした。
今日は蛮王様主催のパーティーで飲みすぎていたのだ。
気持ちが悪いので、明日にしてほしい。
悪いが眠ったふりをした。
――が、
「カズヤ様、いらっしゃいますか?」
『……ぇ?』
慌てて鏡を見る。
一つ目巨人の姿だ。
なぜ私のリアルの世界の名前を知っている!?
……しかし、思い当たる節がある。
ベッドから飛び起き、急いでドアを開ける。
そこには予想通り、背の小さな老婆がいた。
「へっへっへ、こんばんは」
「どうぞ!」
「あれ? 今日はすんなりじゃな?」
老婆を丁重に部屋にお通しした後、席を勧める。
「眼の件は、誠にありがとうございます」
「……なんのことじゃろうね?」
老婆は頭を振って、椅子に座った。
「さて、今夜は用件があるのじゃ……」
「なんでしょう? 女神様」
……確か、この老婆は自称女神さまだったよな?
「あはは、覚えておいでか」
「実はの、ワシは女神というのは嘘ではないのだが、本当でもないのじゃよ……」
「……と言いますと?」
私は老婆に、お茶をお出しする。
「正式にはの、ワシの名前は帝国第23工廠という名前での。当時の通称が、ルドミラの女神と呼ばれていたんじゃよ」
「呼ばれていた? 過去形なのですか?」
「そうじゃの、最後の仕事は、カリバーン歴でいえば823年になるかの……」
「……お仕事? 工廠?」
……帝国第23工廠でカリバーン歴823年!?
以前に、聞いたことがあるぞ、確かクリームヒルトさんが製造された場所……!?
私は思い当たる疑念を、一つ一つ老婆にぶつけてみた。
「そうじゃよ、今の姿は思念体での……、ワシの本当の姿は、バイオロイドを生み出す人工子宮なのじゃよ……」
「ひょっとして、クリームヒルトさんの?」
……ひょっとしてこの老婆は、クリームヒルトさんの実質上の親御さんなのだろうか?
「それが違うんじゃ……」
「実は、あの子は本当は、アンドロイドではないのじゃ……」
「え!?」
私の驚いた顔を見ながら、老婆は出されたお茶を啜り、話を続けた……。
「あの子はの、超文明古代アヴァロン王国の正統な後継者なのじゃ……」
「身の安全の為に、アンドロイドだと本人さえ騙しておるがな、いつかはバレるじゃろう……」
「え? じゃあ王女様かなにかです?」
「……そうじゃ、そして、お主はそれを守るために選ばれた戦士じゃ」
「じゃあ、この眼の力は?」
……私は、思わず自分の眼を指さす。
「そうじゃ、それは王女の護りのためじゃよ」
「おぬしは王女の守護に選ばれたのじゃ……」
「言っておくが、この世界はグングニル共和国のものでもなく、カリバーン帝国のものでもない、そして地球のものでもない」
「唯一無二の、アヴァロン王家のものじゃ……」
「……ははは、御冗談を?」
渇いた笑いをひねり出すと、老婆に睨まれた。
「嘘なら試してみるがよい、王女を傷つけたなら、貴様の目玉は間違いなく吹き飛ぶぞ!!」
「……え!?」
「ワシはの、ワシは……、創られてから時間が経ちすぎた、もう永久の眠りにつきたいのじゃ、王女を頼んだぞ……」
そう言い、笑顔になった老婆に、優しく肩を叩かれると、私の記憶はそこまでになった……。
☆★☆★☆
気が付くと、私はホテルの部屋で目を覚ます。
窓から入る朝日がまぶしい。
……さっきのは、夢だったのだろうか?
コンコン。
……げ、Σ( ̄□ ̄|||)
思わず、ノックにビックリしたが、現れたのはタヌキ砲術長だった。
「提督、朝ごはんに遅れるポコよ!」
「あ、ありがとう」
ホテルの1Fの朝食会場には、クリームヒルトさんもいた。
……(´・ω・`) 副官殿が王女様ねぇ? 本当かな?
朝食にサーモンのマリネが出る。
……おいしそうだ。
しかしその時、うっかりテーブルに置いてあったナイフを落とす。
ナイフは隣に座っている、副官殿の足元近くの床に突き刺さった。
【羅針眼】……警告! 危険行為!
【魔眼】……警告! 危険行為!
【邪眼】……警告! 危険行為!
『うあああ……!?』
目の前が真っ赤になるほど、凄まじい数のエラーメッセージが出る!
同時に眼底に激痛が走った……。
「提督! 大丈夫ですか?」
「提督! 大丈夫ポコ?」
突然の痛みにうずくまった私に、副官殿とタヌキ砲術長が驚く。
それに気が付いた、SPが周囲の警戒に就く。
【羅針眼】……王女の無事を確認!
【魔眼】……王女の無事を確認!
【邪眼】……王女の無事を確認!
すぐに、エラーメッセージが消え。
それに伴い、痛みも引いた。
……Σ( ̄□ ̄|||) てか、この安全装置は敏感すぎじゃね!?
昨晩のことは、結局誰にも話さなかったが、多分副官殿がただのアンドロイドではないことも間違いない気がする。
……てか、これからの私は護られる人じゃなくて、きっと護る方なわけだよね?
元帥になって、SPを2人つけて貰ったが、逆に足らない気もしてきた。
しかし、このことは誰かに相談せねば……、私一人ではどうしようもないぞ。
……新たに重要案件が増えた気がした私だった。
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