「敵襲!!」
「砲撃戦用意!!」
「長距離砲は射程に入り次第攻撃!」
「ミサイル艇は接近できるタイミングをうかがえ!」
ヴェーデル少将の艦隊と共和国艦隊はお互いに会敵。
じりじりと距離を詰め、長距離からの砲撃戦となった。
敵味方の大型艦の大口径レーザービーム砲が火を噴く。
距離が縮まり始めると、順次中距離用のミサイルが発射された。
そして、近距離支援のパワードスーツ隊は発艦のタイミングを、今か今かとうかがっていた。
ヴェーデル少将の艦隊は比較的開けた宙域に、星間航行戦闘艦8隻と輸送艦4隻、小型ミサイル艇32隻にて布陣していた。
彼等の任務は、クレーメンス公爵元帥率いる帝国主力艦隊がラヘル星系を落とすまで、共和国軍の艦隊を足止めすることであった。
「ヴェーデル閣下! 敵は次々にワープアウトしております。確認できただけでも我が方の2倍は優におりますぞ!」
「不味いな、リーゼンフェルト中将に援軍を頼め!」
「はっ!」
しかし、交通の便の良い場所は守るのに適さず、ヴェーデル少将の艦隊は防戦虚しくあえなく敗退してしまった。
その後、共和国艦隊は近隣にて布陣するリーゼンフェルト艦隊を発見。
これを攻撃にかかった。
「撃て!」
「迎撃せよ!」
帝国軍と共和国軍の双方は大口径レーザービームの束を吐き出す。
対艦ミサイルが飛び交い、戦いは激烈を極めた。
しかし、リーゼンフェルト中将の艦隊が布陣する宙域は恒星風が強く、その上流に構えるリーゼンフェルト艦隊は有利に戦いを進めることになる。
攻め寄せる共和国艦隊は地の利が乏しく、小惑星地帯に立て籠もるリーゼンフェルト艦隊を遠巻きに包囲するしかなかった。
このまま時間が過ぎれば、クレーメンス公爵元帥の帝国主力艦隊がラヘル星系を落とす方が早いと思われた。
☆★☆★☆
「このような地では、十分な補給が望めぬわ!」
「……しかし、これといって食料や弾薬が足りぬわけではありませんぞ!」
補給が届かぬと不満を鳴らすリーゼンフェルト中将に、幕僚たちが意見を異にする。
「……うるさい! それは兵たちのことであろう?」
「他になにがありまするか!?」
参謀長のミュラー大佐は顔をしかめ、尋ねた。
「そ……それは我が寵姫たちがだな……、こ、このような場所はこ……好まぬと……」
参謀長以下幕僚たちは、今おかれた状況を知り、驚愕する。
リーゼンフェルト中将は先日の夜の店で囲った女性たちを戦場に連れてきていたのだ。
その彼女たちが現状に不満を言っているというのだ。
「そ……そんな馬鹿な!? 兵卒たちに何と言い訳をしたしまする?」
参謀長のミュラー大佐が懇願するように、上司たる中将に翻意を請うた。
「……貴様ら下種には男の甲斐性というものがわからんのだ! ワシは現状を公爵元帥閣下に報告しに行く! 貴様らはここを死守せよ!」
「……し、しかし……」
「命令だ! ここを死守しろ!」
リーゼンフェルト中将は参謀長以下幕僚を睨みつけ、その場から立ち去ってしまった。
参謀大学校首席卒業の肩書とは思えぬ仕儀であった。
そのような経緯で優位な状況を捨て、リーゼンフェルト中将は堅固な小惑星帯を立ち去ってしまう。
彼だけでなく、彼の乗艦である攻撃型大型宇宙母艦デーニッツ他4隻の新鋭艦と共に……。
流石に主力艦5隻を欠いた艦隊では、堅固な陣地でも不利は否めず、彼の副官以下幕僚たちは共和国軍に降伏した。
――共和国の艦艇に甲高い笑い声が響く。
「ほっほっほっ……たわいもないの……」
「カリバーン帝国の俊英と言えども、麿にかかっては童よの」
笑い声の主は少し俯く……。
「……しかし、オキクとスメラギはようやったの、帰ったら褒めてやらねば……」
このときの共和国艦隊提督は知将ジョー・キリシマ中将。
濃い化粧と、お歯黒という独特の容貌であった。
彼はやんごとない高家の当主であり、艦隊戦の内容は今一つとされるが、百戦不敗の結果を残す名将である。
また彼は、クノイチ集団と呼ばれる暗部の女性情報工作員の頭領という別の顔もあったのだ。
☆★☆★☆
こうしてリーゼンフェルト中将の艦隊が敗れたことを機に、クレーメンス公爵元帥の艦隊は撤退を決意する。
大商都であるラヘル星系は包囲が解かれ、ジョー・キリシマ中将は共和国自由経済の守り手として絶大な賞賛を受けた。
彼はこの二か月後に大将へ昇進。共和国中央へも影響を与えるほどの重鎮となる。
結局、ラヘル星系の主星である惑星ロンギヌスは、わずか8日包囲されただけにとどまった。
よって物流はすぐに回復し、旧帝都アルバトロス星系のような経済的縮小は免れた。
……いやむしろ、その市場的信認は高まったと言えた。
――こうして『聖騎士の行軍』作戦は失敗。
今回カリバーン帝国が新たに占領した星系も、次々に支配地の惑星に反乱が起き、グングニル共和国軍を再び迎え入れた。
こうして両国の版図は作戦前に戻った。
カリバーン帝国はこの作戦で、多数の艦艇と物資と名声を失しただけの散々たる結果に終わった。
物資と人員の損耗も大きく、戦力は大幅に低下。
これから半年は整備の関係上、大規模な艦隊運用はできなくなってしまった。
……もちろんこれを領土拡大の好機と見た勢力もいた。
ルドミラ教国だった。
彼らの凶刃がついに、弱体化した帝国版図へと襲いかかろうとしていたのだった。
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