――カリバーン帝国歴852年7月。
「我々は真の友となる!」
「素晴らしい互恵関係だ!」
カリバーン帝国とルドミラ教国の外相は、お互いの関係をマスコミの前で褒めちぎった。
カメラのフラッシュがたかれる中、笑顔で外交官たちが握手をする。
この日、二つの国は正式に軍事同盟を結んだのだ。
事の始まりは、グングニル共和国からの侵攻に際し、ルドミラ教国はカリバーン帝国に支援を求めた。
ルドミラ教国とカリバーン帝国の二つの国力を合わせても、グングニル共和国の国力に及ばない。
よって、この機会に弱者同士が手を組んだのだ。
もちろん、国防という外交的戦略として合従連衡したに過ぎず、二つの国の性質は大きく異なる。
帝国は皇帝を中心とした他民族主義であり、教国は宗教を中心とした人族至上主義である。
しかし、両国とも辺境星域に地方勢力を抱えており、彼らは戦力的に不利になると裏切る恐れがあった。
また、二つの勢力とも、貴族による帝国議会や管区大司教による議会があり、国家元首による独裁といった形式でもなかった。
よって、主義主張も大切だが、勢力全体としての利害が最も大切だったのだ。
ちなみに人口はグングニル共和国が約2億5千万人で最大であり、以下カリバーン帝国が約1億2千万人、ルドミラ教国が約8000万人であった。
熱核戦争以降、食糧難で人口が減ったまま増加してはいなかった。
よって3か国とも国力の源たる労働力である人口を求め、安易な他国侵略という基本政策に変わりはなかった。
☆★☆★☆
「……ということだ、ヴェロヴェマ君。20日後までに共和国領スプーン星系に侵攻したまえ!」
「はっ!」
私は総司令部からのビデオチャットに向かい敬礼をする。
そして、手元のプリンターから命令書を受け取った。
それは共和国への再侵攻作戦の一環とした陽動作戦の命令書だった。
また懲りずに、わが軍は共和国に侵攻するらしい。
まぁ、ルドミラ教国がやられるのを座視してしまうより、戦略的には正しい気がするのだが……。
「新たな命令ですか? 提督」
「ああ、共和国に侵攻しろ、だって……」
「……まぁ、命令ですから仕方ありませんわ」
「そうだね」
我がエールパ艦隊は帝国軍本隊の侵攻を助けるべく、共和国の一地方星系であるスプーン星系目指して進軍するのである。
噂によると、帝国軍本隊の目標はラヘル星系の惑星ロンギヌスの占領らしい。
前回の雪辱戦ということだろうか。
私は急ぎ幕僚を集め、作戦会議を開くことにした。
今回のスプーン星系の攻撃においては、総司令官は私であった。
公式には初めての総司令官となる戦いだった。
☆★☆★☆
――スプーン星系
その支配者は細身の美しい青年であるといわれる。
名前はスチュワード伯爵。
ホーウッド公爵と共にグングニル共和国に鞍替えした、元カリバーン帝国貴族の一人である。
彼は以前より宇宙海賊討伐に功があり、そこで救出した奴隷たちを召し抱えていた。
しかし、そのすべてが花のつぼみのような少女たちだった。
他の大人たちや、男の子たちはどこへ行ったのかは謎である……。
「伯爵さま、帝国軍が攻めて来るようです」
「……ああ、らしいな……」
彼は領主としての玉座の周りに、うら若い少女たちを沢山侍らせていた。
「伯爵さまが負けるわけありませんわ!」
「伯爵さまは、その……素敵ですもの……」
「ありがとう」
そう口々に顔を赤らめて言う彼女たちの頭を順番に撫でていく。
あたかも、彼女たちが彼の忠実な玩具であるかのように……。
彼女たちもまた、愛らしい玩具であろうとしていたようだった。
☆★☆★☆
ハンニバルの艦橋にて、私は幕僚たちと会議を開いていた。
実は珈琲を飲みながら、半ば談笑しているだけだが。
「准将閣下! これが補給計画書です!」
「ああ、ありがとう!」
少し偉くなったのもあり、細かい作業はそれ専門の人たちにまかせていた。
彼等に今回の細かい補給計画や航路の立案をしてもらっているのだ。
いわゆる役に立たない管理職のような立場の私であった。
「楽になったポコ♪」
「昔は全部自分達でやらないと駄目でしたからね」
「油断大敵にゃ!」
「でも、分業は正しいことメェ♪」
傍から見ると、人が働いている横で、珈琲を飲んでいる罰当たりな連中がいる構図である。
「准将閣下! 航路計画が出来上がりました!」
「ありがとう!」
「それじゃ、そろそろ皆頼むよ!」
「「「了解!」」」
この後、ハンニバルは麾下のエールパ星系艦隊を引き連れ、マールボロ星系を経てアルデンヌ星系へ向かう。
このアルデンヌ星系で最後の補給を行ってから、スプーン星系に向かう予定だった。
星系外縁の小惑星帯の補給基地にて、最後の燃料補給を行う。
併せて、最後の整備チェックも行っていた。
「アダマンタイト積載量99.86%確認」
「燃料満載完了ポコ!」
「……じゃあ、そろそろ行きますかね?」
「行きますニャ!」
……てな感じになっているところへ。
「提督! 共和国軍より入電です!」
「了解!」
副官殿にそういわれ、私は慌てて超光速ビデオチャットの回線を開いた。
戦いの前に敵からの連絡とは何だろう……。
……そう疑問に思っていると。
『……!?』
モニターに映った敵の高級士官らしき姿にびっくりした。
……所謂小学生ほど小さな女の子だった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!