「おう! シェリオ伯爵ご無事であったか?」
「ええ! まあ俺からしたら大したことなかったっす!」
「いやまぁ、無事でよかった!」
「ちーっす!」
クレーメンスの奴が、俺様ことシェリオ様を出迎える。
……NPC風情が、偉そうにすんなよヴェオケが!
俺様が、グングニル共和国から捕虜返還で帰ってきたら、奴は皇帝になってやがった……。
……このゲーム腐ってね?
クソ運営とか、どうせキムチ鍋パーティーやってて、ユーザーのこと全然考えてないよな。
……ちっ、腹の傷がいてぇ。
「なんだと! トロストの奴が行方不明!?」
「……はい!」
アルバトロスの屋敷に帰った後、アンドロイドのメイドの報告に驚く。
「……あいつは、俺様のことをお師匠様と慕う、良いヤツだったのにな」
「はい、残念でなりません」
「ヴェオケが! 機械メイド風情が俺様に気安く声をかけんじゃねぇ!」
「す……、すみません!」
「このガラクタが!!」
「……てか、クラン・シェリオのメンバーが全員いねぇじゃねぇか?」
「ちっ、どうなってやがる??」
俺様はクラン・シェリオのマスター様だ。
普通の奴とは訳が違うんだよな。
しかし、もうずいぶん長い間、ログアウトしてねぇ……。
あんなクソみたいなリアルに戻りたくねぇがな。
「うん?」
フレンドリストに一人ログインしている奴がいる。
……名前は、ヴェロヴェマ!?
どんな奴だっけ?
プロフィールの顔写真を調べると、思い出す。
『ヘガクサイ』というあだ名の雑魚のことだった。
「……へ?」
「奴の階級が大将だと!? ふざけんな!」
俺様は部屋の花瓶を叩き割った。
……メイドがキャアキャア喚いて、超うざぃ。
どうやら、現在はこのカリバーン帝国に在籍していないらしいが、マジムカつくよな。
何様のつもりだよ、クズが……。
プロフィールを更に読んでいくと、彼奴は領地持ちの領主の様だった。
「いいねぇ、いいねぇ、くくく……」
「いまから部下を集めろ!」
「はい、伯爵様!」
「早くしろ、ヴェオケ!」
俺様のゲーム生活は、まだまだこれからだった……。
☆★☆★☆
「へっくしょい!」
「提督、お風邪ですか?」
「風邪ひきポコ?」
「いや、風邪じゃないと思うんだけどな、最近くしゃみが多くて……」
ハンニバルはルドミラ教国政府に反する勢力を、全力で応援していた。
私は反乱勢力が進出したところへ、簡易の基地を建設して回っていたのだ。
ハンニバルの広大な倉庫には、沢山の必要な資材が積載できた。
一般に人気がある機動戦術とは違い、チマチマと陣地構築する不人気な分野を受け持ったのだ。
……動くガソリンスタンドといった感じで、反乱軍艦艇の修理や補給をこなす。
隙間時間ができたら、前線地域の簡易防御施設も作っていった。
「いつも裏方ありがとうな!」
「助かっているよ!」
「いえいえ!」
「頑張ってくださいポコ!」
陽の当たらない後方任務だが、見てくれている人は、どこにもいるものである。
逆にサボれば、評価が下がるということだったが……。
こうして反乱勢力は順調に戦線を拡大し、ルドミラ教国は地球への戦力を、削減せねばならない状況に陥ったのだった。
「修理と建設が忙しすぎるクマ!」
「反乱起こしたい気分クマ!!」
少し、クマ整備長に負担が偏りすぎてはいたのだが……
☆★☆★☆
――反乱軍の勢力範囲が、ルドミラ教国の版図の半分に迫る勢いになったころ。
「ヴェロヴェマ君、君にお礼がしたいのだが……」
「望みは何かないかね?」
反乱軍のリーダー格の老人に問われた。
「私はパウリーネ様の一家臣にすぎません。功績は主人である皇帝陛下に帰します!」
「そ、そうか、君の立場も尊重せねばな……」
「……では、こういうのはどうだろうか?」
そこで提示された案件とは、反乱軍が建国に成功した際、その国家はパウリーネ様のみが、唯一カリバーン帝国の正統な皇帝であると宣言すると約束するものだった。
「はっ! 有難うございます!」
「皇帝陛下も、お喜びになると思います!」
「喜んでいただき、なによりだ!」
このリーダー格の方からのご好意は、有難く受け入れた。
……いまや、パウリーネ様は逆賊扱いなのである。
この件では以前に叱られていたのだ……。
一部、汚名返上といったところだった。
この三日後、反乱軍は正式にルドミラ教国から独立宣言を果たす。
さらに反乱勢力は、名称をポセイドン商業連合とした。
……名前のとおり、協商を主眼とした他⇒多民族からなる連合国家だった。
このポセイドン商業連合の外交指針の第一弾は、パウリーネ様側の旧カリバーン帝国への通商協定と軍事同盟の打診だった。
結果的にだが、私は主に味方を連れてきたのである……。
☆★☆★☆
――ハンニバルの超高速通信モニターにて
「ヴェロヴェマよ、よくやった!」
「其方の此度の功績には、十分報いねばなるまい!」
「はっ、有難きお言葉!」
珍しく、皇帝パウリーネ様に笑顔で褒められる。
……喜ばれるっていいね。
その後、皇帝陛下の侍従が、詔を読み上げる……。
「子爵ヴェロヴェマ大将殿! 此度の功績により、貴官を……」
――その日、私は軍人としての階段を更に上ることとなった。
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