……ここ6か月の間。
私はエールパ星系以外に、辺境連合国家にも造船施設を建設していた。
依然としてこの世界の全文明宇宙において、食料不足であったためだ。
これは一重に、物資の停滞が原因だと私は考えた。
物資の運送手段があれば、食料が余った一部地域から速やかに飢餓地域へと輸送できるはずだった。
よって今まで、私は宇宙船を建造できる施設を新規に沢山作っていた。
しかし、その資金はといえば、膨大な借り入れだった。
……とある木曜日。
ハンニバル開発公社に激震が走る。
「鉄鋼とミスリル鋼の相場が暴落してるクマ!」
「燃料相場も下落していますわね……」
「船の値段も下がっているニャ!」
「造船株が値下がりめぇ~」
我がハンニバル開発公社の事業で、資源と造船はその9割以上のウェートを占めていた。
よってこの日を前後して、ハンニバル開発公社の株価は大きく下がったのだった。
「ちょっと蛮王様にお金借りて来るわ……」
「……またですの!?」
「完全な負け組にゃ!」
「大丈夫ポコ?」
副官殿をはじめ、幕僚たちの目線が痛い。
最近まで活況だった資源と造船景気の面影は、今はもう乏しい。
……実はここ3か月、平和なのだ。
カリバーン帝国もグングニル共和国も、そしてルドミラ教国も目立った動きは無い。
戦争する気配が無いと、軍に優先的に高値で買い上げられていた輸送船がだぶつき始める。
更には、戦争で撃沈すると思われた船舶数の予想は下がり、各種工業に対する需要が大きく下がった。
……所謂、戦後不況だった。
この動きを掴んだ各星系の金融機関は、資源や船会社の株や権利をたたき売り、景気悪化に更なる拍車をかけた。
実際には、資源や宇宙船は足らないのだが、今までの値段が高すぎたのだ。
急激に上がった分、急激に下がる。
各種信用取引やシンジゲートの思惑売りがどんどん加速していった。
……まさに暗黒の木曜日だった。
☆★☆★☆
「また金の無心か!?」
「……は、はい」
「今の市況をみろ! 船なんぞ余っているんじゃないのか!?」
「いえ、未だに足りておりません!!」
私は不機嫌な蛮王様に、強めな声と共に資料を差し出す。
それは、今においても宇宙船が足りず、今後もひっ迫する情勢を示した資料だった。
それから二時間……私は半ば泣きながら説明する。
資料と説明は誠心誠意、事実であった。
しかし、それとは別に、企業にとって資金が尽きるのは死を意味した。
それは、今まで頑張った設備投資が無に帰することも意味していた。
「……これは本当なのか?」
「きっと、事実です!!」
「う~む」
腕を組み、悩む蛮王様。
……しかし、少し意地の悪い笑顔をとともに口をひらく。
「良かろう……」
「あ、……有難うございます!」
「……ただし、一年後には返せる見通しが立たないと、今後100年間は我が星系の守り人をしてもらうぞ!!」
いまの私はギガースという巨人族だ。
平均寿命は140年を超えるという……。
失敗すれば、一生働けということだ。
「わかりました!」
私はうなずき、新規に15億帝国ドルの借用書にサインをする。
……これで、資金のめどがたつ。
安堵のため息がもれた。
「……貴様の腕に賭けたんだぞ!」
「提督としてのな!」
「ぇ!?」
意外だった。
私は戦争が得意といった自覚がなかったのだ。
「今まで、貴様は完全には負けたことは無いだろう?」
……そういわれると、そんな気もする。
「勝敗は兵家の常。それを大敗せずに来た貴様は凄い!」
「……はぁ?」
なんだか、お金が借りられると安心して、気が抜けた返事をしてしまう。
それを見た蛮王様は、バシッと私の背中を叩いた。
「頼りにしているぞ!」
「あ、ありがとうございます」
まさしく、地獄に仏だった……。
私は蛮王様に力強く励まされ、衛星アトラスに資金を無事持ち帰ったのだった。
☆★☆★☆
資金が借りられたこともあり、我がハンニバル開発公社は窮地を脱した。
巨額の有利子負債があるので、所詮は青息吐息であるが……。
しかし数日後には、あまりにも売り込まれた造船株も幾分値を戻し、資源価格も若干安定した。
各星系政府が失業者対策をはじめたのも大きかった。
工場労働者を助けるために、いくぶんかの新規造船受注が公的資金により賄われた。
少し長い目で見れば、宇宙船も食料も資源も足らなかったのだ。
的を得た政策だった。
しかし、このフラフラとした経済の中で、株価や市況は短期で乱高下した。
この期間において、星系間ギルドをはじめとした巨大な機関投資家たちは、資金運用で巨万の富を得たと言われている。
カリバーン帝国の総人口のおよそ20%が失業者となったにも関わらずだ。
今回の不況で、失業者は街にあふれ自殺者も増加。
失業により、日々の食料を買えない人たちが、比較的豊かな都市部でも散見された。
まさしく、帝国中で暗い空気が立ち込め、暗雲が垂れ込めた……。
……それは、他の国家も同じ様相を見せ、混とんとした空気を醸し出す。
徐々に熟成される民衆の不満……。
「緩衝地帯に、共和国艦隊多数!!」
「警戒態勢!」
「要撃機隊、緊急発進!」
共和国の政府は、高まる民衆の不満のはけ口を外敵に求め、遂にはルドミラ教国に宣戦布告。
国境付近に大艦隊を動員した。
……それは、新たな大規模戦乱の幕開けだった。
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