クレーメンス元帥の帝国艦隊主力は、ラヘル星系の外縁に次々に侵入。
星系外縁の防備施設を急襲し、これを殲滅せしめることに成功した。
攻撃開始より8時間後。
ついにラヘル星系の主星、惑星ロンギヌスを肉眼で捉えるまでに肉薄した。
――惑星ロンギヌス。
帝国には詳しいデータは無かったが、見るからに緑が美しい自然が豊かな青い惑星だった。
「降伏勧告をしてやれ!」
「はっ!」
クレーメンス公爵元帥は目の前に広がる青く豊かな惑星に対し、降伏勧告を行った。
星系外縁の防衛施設は破壊したため、抵抗する力は無いと判断したのだった。
「……返信はまだか?」
「はっ、未だ返信ありません!」
クレーメンス公爵元帥は降伏勧告より8時間待ったが、返答はなかった。
いたずらに時間が過ぎれば、共和国軍の援軍が来る恐れがある。
……あまり時間の余裕はなかったのだ。
「やむをえまい、抵抗するなら仕方がない」
「無差別爆撃を行いますか?」
「いや、せっかくだから占領してしまおう!」
クレーメンス公爵元帥はこの星を廃塵にするのは惜しいと考え、惑星上陸戦を指示した。
「了解! 全艦対惑星戦用意!」
「惑星揚陸艦前へ!」
クレーメンス艦隊主力の後方より、惑星揚陸艦が前へ進み出る。
彼等は惑星地上軍の艦船であり、地上戦を専門としていた。
「前衛部隊、惑星軌道上に侵入!」
「降下開始せよ!」
「「「了解!」」」
全長150m級の惑星揚陸艦は次々と大気圏に突入。
艦体を摩擦熱で赤く焦がす。
惑星上陸支援にミサイル艦やパワードスーツ隊が続く。
流石に惑星ロンギヌスから対空砲の弾幕が上がる。
「敵対空砲着弾! 惑星揚陸艦ハーケン被弾! 中破!」
「やむをえん、艦隊を前進させて応戦しろ!」
「はっ」
「巡洋艦対地上戦用意!」
クレーメンス公爵元帥は宇宙艦隊にも攻撃への参加を命じた。
敵艦隊を警戒していた艦艇が、対艦砲弾から対惑星砲弾に切り替える。
換装しないと、交戦条約に引っかかるのだ。
「全艦突入せよ!」
しかし、クレーメンス公爵元帥の艦隊主力が衛星軌道上に入った途端、猛烈な対空弾幕が襲う!
「重巡洋艦アメリア被弾!」
「戦艦タストリア被弾! 火災発生!」
「航宙母艦バロン小破!」
クレーメンス艦隊は一気に爆炎の渦中となってしまう。
地上戦に参加した艦艇は、次々に被弾。黒煙を吐いて炎上した。
「ぬうう! 小癪な!」
「撃ち返せ!」
緑豊かな惑星に帝国軍の艦砲が次々に着弾。
大出力レーザー光線で大地が赤く焼かれると思った瞬間。
緑の大地は黒金の装甲の姿へと移り変わる。
「……なんだこれは?」
「閣下! あれをご覧ください!」
艦橋のモニターに映し出されたのは、緑豊かな惑星に見せかけるための艤装パネルだった。
緑色のはずの惑星の表面があっという間に銀色の金属色に切り替わる。
立ち並ぶ人口都市群、巨大なメトロポリスの姿が浮かび上がる。
立体輸送チューブが幾重にも張り巡らされていた。
そこは緑豊かな青い惑星ではなく、高度に人工化された機械惑星だった。
「いかん! 嵌められた!」
「全軍後退せよ!」
「了解!」
「後退開始!」
幾らかの惑星地上軍師団を置き去りにして、クレーメンス公爵元帥の艦隊は後退に成功。
惑星ロンギヌスを遠巻きに包囲した。
「くそ忌々しい共和国の奴らめ、干からびるまで包囲してやるぞ!」
クレーメンス艦隊は強行から包囲持久戦に切り替えた。
長距離レーザービーム砲で道路や橋梁、食料プラントなどを次々に狙い撃ちにする。
対地ミサイルは港湾や地上砲台めがけて次々と飛来した。
物流インフラを破壊して、そこに住む人々に圧力をかけた。
惑星ロンギヌスは人口が多いために、援軍無しでは長くはもたないだろうと予想された。
莫大な人口と経済力は、破壊されて縮小したインフラ能力に高負荷をかける。
防衛軍が健在であっても、不安に陥った大多数の民衆の心はどうしようもなかったからだ。
なにしろグングニル共和国は共和制だったのだ。
民衆の支持なしには戦争の継続は不可能だった。
☆★☆★☆
――それより16時間前。
クレーメンス公爵元帥の主力艦隊とは別行動するリーゼンフェルト中将の艦隊は、共和国軍の援軍予想経路に到着していた。
彼等は、主力艦隊がラヘル星系を陥落させるまで、敵援軍を遮断するのが目的の別動隊だった。
「……よし、ワシはあの小惑星群に布陣するぞ!」
別動隊の首席司令官リーゼンフェルト中将は、近くの恒星から吹き荒れる宇宙潮流上流の小惑星帯を指さした。
「しかし、あのようなところに陣取られては、共和国の奴らの通過を許しますぞ!」
副将のヴェーデル少将が苦言を呈する。
「あの激しい宇宙潮流上流に展開すれば、対艦ミサイルの射程は1.5倍にもなろう!」
「まさしく地の利を得るのじゃ!」
「確かにそれはそうですが、あのようなところに陣取られては、いざという時に艦隊が自由に動けませぬ」
ヴェーデル少将がいうのも、もっともだった。
恒星風が吹き荒れる小惑星帯は、艦隊運動が難しく、いざという時に素早く動くのが難しかったのだ。
更にそこは共和国軍の援軍想定ルートから少し離れていたことにも、ヴェーデル少将は気がかりだった。
二人の議論は紛糾した。
「ええいうるさい奴だ! ワシの艦隊はあそこに布陣するのだ!」
リーゼンフェルト中将は、顔を真っ赤にして怒りだす。
……彼の悪い癖だった。
それを皆が知っていたので、幕僚たちは一斉にリーゼンフェルト中将に同調した。
今度はヴェーデル少将が顔をしかめる。
「では、この会敵予想宙域にはヴェーデル少将の艦隊だけで布陣されては?」
老獪な参謀が折衷案を提示する。
両将ともそれを渋々飲み、ヴェーデル少将の8隻の艦隊は当初の想定宙域に、リーゼンフェルト中将の16隻の艦隊は険阻な小惑星帯に陣取ることになった。
――布陣より12時間後。
ヴェーデル少将の部隊から遠く離れた索敵用艦載機より通信が入る。
「……ワレ敵偵察機ト交戦セリ!」
……その通信は2分後に途切れる。
間違いなく共和国艦隊の到来だった。
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