「第二エレベータ雷撃機搬送急げ!」
整備員が甲板に現れた雷撃機に、四人がかりで大型ミサイルを据え付ける。
「艦上滑走路及び発進進路オールグリーン」
「カタパルト電磁推力チャージ一番二番オン」
航宙母艦上の滑走路に青色の誘導灯が灯り、誘導オペレーターが信号を送る。
「艦載機発進せよ!」
「了解! 第一雷撃隊順次発進!」
胴体に大きな対艦ミサイルを抱いた雷撃機が、電磁カタパルトによって弾きだされた瞬間、アフターバーナーを点火し次々に虚空の彼方へ消えてゆく。
「第三エレベータ、強襲爆撃機準備急げ!」
「続いて、制宙戦闘機、電磁カタパルトにセット」
帝国軍航宙母艦バロンの艦橋にて、サンタクロースを思わせる風貌のカールハインツ提督は、発進した艦載機攻撃隊を、目を細めて見送っていた。
カリバーン帝国防衛の要、大要塞リヴァイアサンを共和国軍に奪取された帝国軍は、主星系アルバトロス外縁にまで攻め込まれる。しかし帝国軍は廃棄寸前の退役艦までも繰り出し、防衛に徹した。
特に皇帝近衛部隊クー・フーリン艦隊は防衛戦において獅子奮迅の働きを見せていた。
しかし、防衛だけではじり貧に陥ると判断したカールハインツ中将は、帝国軍総司令部に艦載機による敵兵站への攻撃を進言。しかし総司令部は航宙母艦を護衛する艦船の抽出は困難と判断。カールハインツは迷ったが、麾下の航宙母艦二隻のみで敵泊地へ殴り込みをかけることにした。
護衛艦隊無しで航宙母艦を運用することは、一般的な運用法に反していた。航宙母艦は敵の攻撃に対してとてもぜい弱だからである。
敵前線を迂回したカールハインツ艦隊は巧く宇宙磁場潮流に紛れ込んだため、共和国軍のレーダーに探知されることなく後方のレーベル泊地の攻撃に成功した。
【戦果】
星間航行可能大型輸送船……撃沈4大破6
星間航行可能中型輸送船……撃沈16中破2
各種その他輸送船……撃沈6
防衛艦……大破1
駆逐艦……中破1
レーベル泊地アダマンタイト貯蔵庫……破壊6
……という前代未聞の戦果を叩き出し、凱旋したカールハインツは帝国軍の英雄として称えられ、階級も大将へと昇進した。
艦載機による攻撃に際し、共和国軍の前線への輸送物資が次々と誘爆し戦果が拡大したのは幸運だったが、彼の勇気への評価が下がるわけでは決してなかった。
☆★☆★☆
「ほらぁ~逆転ぽこぉ~♪」
「まだ不利なのは変わりませんわ」
奇襲成功の臨時ニュースに浮かれるタヌキ軍曹。片や慎重な意見を述べるクリームヒルトさん。
状況分析の多分大方の見方は、クリームヒルトさんの方だろう。
我が軍は未だに不利、といっても私には所属意識が薄いのだが……。
……PIPIPI
「はいはい」
『はい』は一回だ、とよく支店長に怒られたことを思い出しながら、ビデオチャットの回線の着信に応じた。そこには見たことがない偉そうな人が映っていた。
「エールパ星系赴任中のヴェロヴェマ中尉であるか?」
「はい」
思い出したように啓礼をする。
「貴官に第87要塞への補給任務を与える。子細は命令書を読め、健闘を祈る」
「はっ」
偉そうな人は帝国軍の補給部の参謀だった。彼の姿がビデオチャットから消えたあと、横にあるプリンターから命令書がカタカタと印刷される。
手に取ってみると、今回の【補給作戦の作戦要項】だった。
作戦の内容は、前線で孤軍奮闘する帝国第87要塞への補給。
しかし、第87要塞は包囲されており、普通の補給船団では輸送不能であった。よって武装した星間航行艦で、つまりハンニバルで敵の包囲を強行突破し、食料などの物資を届けるということだった。
――衛星アトラスの港湾ドッグの中。
今回のハンニバルの兵装はレーザービーム砲を下ろし、先日奮発して買ったレールガンを載せることにした。レールガンはレーザービームに比べて威力は下がるが、エネルギー反応が少なく敵に探知されにくい。よって隠密行動に向いていた。他にも新たに星間ギルドで買い求めた連装対空砲を両舷に1基づつ配置することにした。
☆★☆★☆
「メインエンジンにアダマンタイト注入」
「エルゴエンジン点火5秒前!」
「……3」
「……2」
「……1」
「点火!」
「短距離跳躍開始!」
環境配慮の為、衛星アトラスの重力圏を脱したあとにメインエンジンを作動させたハンニバルは作戦目標目指して発進した。
僚艦オムライスを伴った初めての正式な作戦だった。
【現在時点のハンニバル主要兵装】
【主砲】……15.6cm連装レールガン3基。
【装備】……各種ミサイルVLS16基。及び対空ビーム砲連装二基。
【防御】……重力波シールド
【主機】……エルゴエンジンD-Ⅳ型一基
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