「よいしょと」
私はアパートの階段を一段づつ上る。
寝たままゲームの世界に入り浸っていたので、リハビリである。
一階に住んでいたので、初めてのぼる階段でもあった。
アパートの裏側に見える野菜畑がのどかで気持ちがいい。
空にはトンビがくるくると旋回していた。
TVでニュースを見ると、若干に物々しい。
大国の動静が大きな見出しで伝わる。
我が国の女性アナウンサーが昔のNK国を思わせるような勇ましい雰囲気だ。
先日、大国の兵器が爆発して世界が混乱した影響からか、書店に並ぶ本は『来年にN国は崩壊する!』や『C国共産党崩壊!』などのセンセーショナルな題名が並ぶ。
なんだかんだ言って、世界は何も起きないものだ。
コンビニで食料を買いあさって、自室に届いた電気代の通知を見た。
Σ( ̄□ ̄|||) 高けぇ!!
……いや、世界は凄くヤバいかもしれない。
日課のリハビリをこなした後、カプセルに入る。
世間は大変かもしれないが、私には某巨大医療機器メーカーとの契約は残っているのだ。
……一応、お仕事である。
カプセルの内側で赤いボタンを押す。
白い薬剤の霧が吹きだし、私は意識を失った……。
☆★☆★☆
ラム星系にある謎の惑星の解析が進んでいた。
解析結果によると、惑星の名前はツーリアというらしい。
機能としては、若干の機動性と隠蔽性をもった惑星型の準武装要塞といったところであった。
要塞惑星と言っても、地表の86%は普通の岩盤である。
隠蔽性さえ失わせれば、外見はただの寂しい岩の惑星といった風であった。
(……数日後)
「凄いポコ!!」
「凄い量ですわね!」
「お金持ちニャ!」
砲術長殿と副官殿が驚くのも無理はなかった。
この惑星ツーリアの地下には、エルゴ機関の燃料となるアダマンタイトと超硬質ミスリル鋼が大量に備蓄されていたのが発見される。
大昔にこの星の主が蓄えていたモノだろう。
燃料のアダマンタイトはともかく、超硬質ミスリルはとても嬉しかった。
早速惑星ベルに貯蔵量の約四割を輸送することにする。
現在建艦中の新造艦の材料にするためだ。
この件は、この惑星に勝ったご褒美といってもよかった。
この材料のお陰で、新規の建造艦コストはぐっと抑えられることになった。
惑星ツーリアは古代アヴァロンの貴族の別荘だったらしいが、改造させてもらうことにした。
文化財として保護しようにも、概ね防衛設備以外は老朽化して、原形を留めていないのが多かったのだ。
ラム星系の第二惑星として、更には既存の設備を活かして、周辺星系へのハブ宇宙港として整備することにした。
宇宙港の設備が小なりといえ、既存で存在していたのが大きかったのだ。
☆★☆★☆
「提督! 大発見ポコ!」
「発見メェ~♪」
「なにかあったの?」
更に数日後。
惑星ツーリアの地下探検を最近の日課にしているタヌキ砲術長殿とバフォメットさんが報告に来た。
なんと、元領主の隠し部屋を見つけたとのことだった。
その隠れ区画にはエルゴ機関を搭載した160m級の艦船が4隻格納されており、小さな宮殿まであった。
「素晴らしいですわ♪」
「豪華ニャ♪」
その宮殿は小さくも金銀に彩られた中世欧州の宮廷の一室といった趣だった。
フカフカのソファーがある来賓室もある。
「ここをお家にするクマ♪」
「それが良いですニャ♪」
「素敵ですわ♪」
ここは幕僚の皆での共有の別荘といった部屋となった。
まあ、私が独占するのも変だろう。
……しかし。
コタツやら電気カーペットやらTVゲームなどを皆が思い思いに持ち込んでしまったため、2週間後には謎の部屋になってしまっていた。
☆★☆★☆
「ヴェロヴェマ君! やはり今は君のような若者の時代だ!」
「是非力を貸してくれ!」
「はっ!」
帝国軍総司令部クレーメンス公爵元帥閣下より超光速通信を受ける。
正規軍への復帰要請である。
どうやら、私がいない間の帝国軍は負け続きで、ついには予備役の私にも登板機会が来たということらしい。
『君のような若者の時代』というのは、私に対する懐柔の姿勢と受け取るべきだった。
現実世界で支店長がピンチの時によく私に言った言葉だったからである。
ハンニバルは長距離跳躍を重ね、帝国主星系であるツエルベルク星系新帝都バルバロッサへと急ぎ向かった。
途中の宇宙港で星間交易商人と話をする。
噂で聞くより戦線は良くなさそうだった。
……これは貧乏くじかな?
☆★☆★☆
「……これからも朕の為に尽くせよ!」
「ははっ!」
ツエルベルク星系新帝都バルバロッサの皇帝謁見の間。
赤い絨毯が敷かれた皇帝玉座の間において、私は皇帝に少将に任じられた。
カリバーン帝国において少将以上は正規の将軍であり、星系などの艦隊を一つ任せられる要職だった。
将軍は皇帝直々に任じられる親補職であり、皇帝以外は勝手に罷免できない。
当たり前だが准将時と異なり、今度は重臣の末席ではない。
「有難き幸せ!」
「うむ!」
膝をおり、背を屈め、小さな皇帝に階級章を付けてもらう。
上品な赤い布地に金のラインが二つ入ったものだった。
その後、総司令部に出向き、再びエールパ星系艦隊司令官に任命される。
……そこまでは良かったのだが、新任の上司はなんと、あのリーゼンフェルト中将だった。
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