装甲戦艦ハンニバルが未開宙域を彷徨っていた頃。
グングニル共和国艦隊が突如、カリバーン帝国との戦線のはるか後方のトブルク星域に現れた。
後方でのんびりとしていた帝国トブルク警備隊は、共和国の艦隊が現れるとトブルク星系を見捨てて逃走した。
背後から現れた敵艦隊に、帝国軍総司令部は大慌てになったのは言うまでもない。
☆★☆★☆
時間を遡ること5か月前。
未だハンニバルが宇宙海賊討伐に向かっていた頃。
共和国軍のバリバストル少将は、帝国との主戦線迂回作戦の任を受けていた。
主戦線迂回航路は、未開宙域であり危険であった。
……にもかかわらず、少将に任されたのは二線級の旧型戦闘艦艇10隻と老朽輸送艦6隻という編成だった。
少将は上層部に不満を持ったが、無事に航路を開拓し、無事に会敵できた場合は援軍を貰えることを条件に進軍した。
少将は未知の危険宙域を急いだ。その予定航路はとても長大で、ハンニバルが後に請け負った予定航路の20倍の長さだった。
途中、ブラックホールや宇宙海獣に襲われ、戦闘艦は6隻に減じるものの見事に危険宙域を突破し、帝国領奥深くに出現した。
帝国軍の戦線は大崩壊の危機に見舞われていた……。
☆★☆★☆
「星系警備隊は逃走した。抵抗せず降伏するなら攻撃はしない」
「8時間以内に回答せよ! 回答時間を過ぎれば無差別爆撃も辞さない」
バリバストル少将はトブルク星系に侵入した後、星系政府に交戦規則に則り降伏を勧告した。
もはや、帝国軍警備隊もおらず、後方星系には防衛設備も備えてはいなかった。
少将の艦隊はとても疲弊しており、帝国の警備隊が一目散に逃亡してくれたことに助けられていた。
度重なる長距離跳躍の影響で、エネルギー残量はほぼ0といって過言では無かった。
……あとはこの星系を前線基地にして、本国からの援軍を待つだけだった。
――通告から6時間30分後。
「……我々は降伏しない。最後の一兵まで戦う!」
「馬鹿な!?」
「気が狂ったか!?」
トブルク星系主星アーバン政府からの返信に、少将とその幕僚は驚いた。
帝国警備隊に見捨てられた星系が、共和国に降伏せず、徹底抗戦の姿勢を見せたのだ。
それは衛星軌道からの無差別爆撃にも屈しないという意思表示だった。
有人惑星が取り得るべき選択とは到底思えなかった……。
「共和国恐れるに足らぬ!」
「奴らは遠路はるばる来て、飯もろくに食っておらぬわ!!」
こう豪語するのは、帝国地上軍シャルンホルスト中将だった。
彼は歴戦の老将で、共和国軍との戦いに76回も参加した経験をもっている。
さらには、地上からの電磁高射砲たった一門だけで巡洋艦を撃沈した記録まであった。
シャルンホルスト中将は遥か後方にあっても、埃を被った旧型の装備のメンテナンスを欠かさず、防備を備えていたのだ。
さらに彼は巧みに電磁高射砲陣地を築き、惑星アーバンの衛星軌道に共和国軍を侵入させない体制をとっていた。
彼は前線陸上軍を率いると、他の将軍たちの手柄を全て奪うほどの戦術家だったのだ。
……なぜ、かの名将がこのような僻地にいるかというと、彼は政治的取引にとても疎かったのだ。
ある日、帝国宰相ホーウッド公爵の子息と作戦本部で喧嘩してしまう。
同僚の諫めも聞かず自分を曲げなかったため、共和国との休戦の間に前線勤務から外されて、このような僻地に飛ばされていたのだった。
頑なな老将は高射砲指揮所からギロリと青い空を睨んでいた。
☆★☆★☆
「やむを得ん、衛星軌道に入り次第、主要都市を攻撃せよ!」
「はっ!」
バリバストル少将は麾下の艦に惑星アーバンへの攻撃を命じた。
6隻の戦闘艦が惑星軌道上へ降下する。
……しかし、惑星から尋常でないほどの反撃を受けた。
凄まじいレーザービーム弾幕が衛星軌道上に張られたのだ。
「閣下! 対空砲火が激烈です!」
「い、いかん一時撤退する!!」
こうして、一日目の攻撃は失敗に終わった。
この世界、宇宙船自体は半永久的に動くことができた。
しかし、それは無理のない最低限の範囲である。
浪費の権化とも呼ばれる軍用艦は、著しい補給物資を必要としたのだ。
補給とは、限界線がある。
補給を行う輸送船自体が、物資とエネルギーを必要とするからだ。
距離が離れれば離れるほど、輸送船の航行コスト等が運ぶべき輸送物資自体を食いつぶす。
ついには前線には一切の補給が届かない距離というものがあった。
バリバストル少将の艦隊は、この補給限界線を越えていたのだ。
一刻も早くこのトブルク星系を陥落させるか、または速やかな撤退の決断が求められていた……。
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