――現在の我々が分かっている宇宙の成分は僅か5%であり、その他95%は未だに不可解な物質とエネルギーで構成されていると言われる。
現在の我々の知っている物質と全く反応しない物質。例えば光も音も電波も反応しない物質の中に潜り込まれたら、我々はどうやってそれを見つけ出せるのだろうか?
多分見つけることは極めて困難だろう。
――カリバーン帝国暦853年7月。
カリバーン帝国軍兵器開発局は不活性ケミカル・ダークマターに浸透し物体を隠蔽する方法を発見。
さらに兵器開発局はこれを実用可能にするD-5システムを秘密裏のうちに開発に成功。
このシステムを搭載した小型特殊艇を特務潜航艇と呼称し、実用試験を繰り返していた。
――ドォォォォン
「第6輸送艦爆発!」
「敵か!?」
「レーダーに反応無し!」
「事故と思われます」
グングニル共和国の勢力圏にて正体不明の輸送艦消失が連続して起こる。
「なにをやっているのですか? 貴方たちは!」
共和国第6宇宙艦隊司令官ジョー・キリシマ中将は焦っていた。
彼はこの連続する輸送艦の消失事件の原因究明責任者だった。
……彼は最初、輸送艦の整備不良を疑った。
しかし、整備不良を表すデータはどこにも存在しなかった。
さりとて、輸送艦が爆沈した空間に出向いても、ミサイルなどの破片など攻撃された痕跡は発見されなかったのである。
……この後、グングニル共和国内では星間航行可能な輸送艦の消失が更に増加。
船舶のみならず物流コストが急上昇し、経済が停滞しはじめる。
こうして帝国のみならず、共和国内でも民衆の不満は高まり、各地で反乱が増加していった。
☆★☆★☆
「第8特務潜航艇部隊より通信! 作戦成功! 大型輸送艦撃沈6とのことです!」
「了解!」
「量子魚雷の補給の為、帰港するとのことです」
「了解! リヴァイアサンの第6宇宙港を利用しろと伝えろ!」
「はっ!」
リーゼンフェルト大将が統括する大要塞リヴァイアサンの秘密指揮所は歓声に包まれていた。
今日も多くの共和国の輸送艦を秘密裏に撃沈することに成功していたのだ。
「ふふふ……、君の対滅式量子魚雷の性能は素晴らしい!」
「有難うございます閣下!」
リーゼンフェルト大将はトール技術少将を褒めたたえた。
彼は特務潜航艇とともに、攻撃の痕を残さない対滅式量子魚雷を開発した責任者であった。
「しかし閣下! 閣下はなぜ共和国の輸送艦の正確な位置を御存じなのです?」
そう、攻撃する手段があるからと言って、有効に攻撃が可能なわけではない。
攻撃には詳細な敵の情報が必要不可欠だったのだ。
「……知りたいか?」
「是非とも……」
彼はリーゼンフェルト提督に極秘と記された部屋に案内される。
その部屋の中。
秘密暗号型の超高速通信のモニターに映った相手をみて、トール技術少将は驚いた。
「こ、このお方は……」
立派な白いひげを蓄えた老人、それは元帝国宰相ホーウッド公爵だった。
☆★☆★☆
「提督! 朝ごはんですよ!」
「……まだ、眠い」
「起きてください!」
「クリームヒルトさんが優しくちゅ~してくれたら起きます」
ちゅ♡
……そんな寝ぼけたことを言ったら、左の頬に柔らかいものが接したのを感じた。
(((o(*゜▽゜*)o))) ぉぉ!?
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
期待して起きて目を開けようとした瞬間、アンドロイドのクマ整備長にシバかれた。
「早く起きるクマ!!」
「は~い」
朝からほっぺたがヒリヒリする。
トボトボと朝食の席に着く。
今日の献立はハムエッグとこんがり焼けたバタートーストだった。
『今日のゲストはリーゼンフェルト中将です!』
『いやいや、どうもどうも!』
……テレビは今日もリーゼンフェルト提督一色だった。
帝国軍宇宙艦隊総司令官がマスコミ受けの悪いパウルス提督から、ナイスミドルな風貌のリーゼンフェルト提督に替わったのだ。
新任ということもあって、民衆からの人気は上々だった。
その人気ゆえ、現在は空席の帝国宰相に将来的にはなるだろうとの一般的な見方だった。
「……この人残忍ポコ」
「怖い人ですわね……」
「ふむ」
リーゼンフェルト提督は、先日にマールボロ星系の一般市民を無差別爆撃した人でもある。
流石にそのことは緘口令が敷かれており、一般には知られていなかった。
「みんな早く仕事するクマ!!」
のんびり朝ごはんを食べていたら、クマ整備長に怒られる。
折からの謎の輸送船事故の頻発で、我がハンニバル開発公社の造船部門は凄まじいほどの活況だった。
……もう、6日続けての深夜残業であった。
☆★☆★☆
このところの政情はカリバーン帝国もグングニル共和国も似たようなもので、物資や食料不足に加え臨時の高税率などで各星系で反乱が勃発。
自治独立を目指し内戦となる星系が頻発した。
……しかし、民衆の反乱は必ずしも民衆の為になるとは限らない。
多発する内戦による混乱のため、民衆の中でも弱い立場の老人や病人、貧困層には食料など物資がほとんど行きわたらなくなっていった。
だが、その中でも地方独立の機運は弱まることなく、各地で反帝国や反共和国などの政治勢力が割拠する更なる混とんとした時代となっていった。
そんな中、宗教教義を是とするルドミラ教国だけは、帝国や共和国と違い確固たる政体を維持していた。
かといって、そこに真の自由や平等な権利などがあったとは限らない。
むしろ反政府デモには激しい弾圧が加えられ、秘密警察の暗躍があったことには、当時の帝国や共和国の人々が知る由も無かった。
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