日差しがまぶしい。
もう暦は秋だが、残暑が酷い。
冷蔵庫を開け、リンゴを齧る。
……酸っぱい。
現実の私には、見る眼は無い様で、少し納得したように自嘲した。
最近気づいたのだが、現実時間のわりにゲーム世界の時間の進みが悪くなっていた。兄に問い合わせると、『沢山遊べていいだろ? まぁ、そんな楽な仕事はないってことよ!』と笑われてしまった。
――ゲームを始めて三か月。
カリバーン歴849年7月。
皆でワイワイと小惑星を破壊する。もうカリバーン帝国の土建屋さんに名前を覚えられ、急ぎの場合は報酬割増しの仕事の指名まで頂けるようになった。
たまにクラン仲間のバニラ大尉に誘われて宇宙海賊退治もやる。でも、一人で遊んでいる方が好きだな、と思う。現実には一人ではないのだが……。
NPCであろうと思われる、クリームヒルトさんやタヌキ軍曹、マルガレータたちと遊んでいる方が良い。同級生とはなれ、一人砂場で遊んでいた過去の自分を思い出す。
何はともあれ、衛星アトラスは活気を呈していた。
大規模生産という訳ではないが、ミスリル鉱山からの鉱石精錬を経て、精錬鋼を惑星フィリップスの中心都市パンゲア市へ輸出していた。
その為、いくらでも労働者は必要だったし、その労働者を相手に商売する者も惑星リーリヤから大量に流入していた。
住宅プラントも商業プラントも、工業プラントも設備すればするだけ住人でいっぱいになった。あ……ブタ族が多いけれども。
町造りのゲームをやったことがあるが、それ以上に急激に住人集まった。
皆で計画し、道路を作り、駅を作り線路も伸ばした。都市部中心は大きなドーム状のシールドで覆った。
マルガレーテ嬢は地上でチマチマするのが嫌みたいで毎日海賊を追い回しているけど。
……そんな平和な時間が過ぎていた。
が……、ある日。
「電力が足らないポコォォォ!」
「水も足りませんわ! どうしましょう?」
我が幕僚たちから、エネルギー不足を通達された。
いわゆる生活インフラ不足である。
……ああ、急に人が増えすぎか!?
停電や水不足は、生活上大変である……(;’∀’)
私が所属するクランの長、シェリオ氏が推進するのはダイソン球。
我々の世界で言う太陽を、丸々ソーラー発電パネルで囲う壮大な計画である。
建設費は膨大だが、効率は良い。
これを惑星リーリヤの役所に打診したところ。
「我々の信仰対象の恒星に、それは絶対にダメです!」
惑星リーリヤの役人にこっぴどく怒られた。
仕方なく、化石燃料燃焼発電プラントを増設。
うは、お金がかかる……。
……水は、作れないしなぁ。
水不足は難問だった。
地下水を掘る手もあるが、いつか尽きるだろう。
惑星リーリヤと違い、衛星アトラスにはわずかな氷しかない。
他の惑星から水を求めると、別の問題も起きそうだった。
☆★☆★☆
……翌日、星間ギルドに初めて仕事の発注をした。
【運び屋】の依頼だった。
衛星アトラスがあるエールパ星系の外縁には、多数の氷でできた天体がある。しかし、もし破砕できたとしても運ぶのが大変だったのだ。
短距離跳躍が可能な輸送船を買うとして、コストの元が取れるのに10年はかかりそうなお値段だったのだ。
現在は休戦状態とはいえ、戦乱期の我が帝国の新艦船製造コストは、ちょうどバブル状態と言っても良かった。
よって、輸送艦を複数持っている方に頼んで、運んでもらうことにした。一回だと割高だったので定期輸送契約に、外縁にも氷塊破砕プラントを建造することにした。
「また借金ですか?」
「う……うん」
クリームヒルトさんにプンプン怒られたが、星間ギルドから借金し、水対策費に充てた。
ミスリル鋼の生産は未だ少なく、我が【ハンニバル開発公社】は先の輸送船強奪が無ければ完全に倒産していた。
内政や開発は思いつくのは簡単だけど、凄いお金がかかるモノだと痛烈に思った。
現実世界では水施策の結果が出るのは、50年先とか聞くけど、大丈夫かなあ……。
……ちなみに今回は多めに借金して、新たな資源鉱山の鉱区の開発に着手した。
――その晩。
「あ、マルガレータさん、こんにちは」
いつもは宇宙海賊退治に忙しいマルガレータ嬢に会ったので、挨拶をしたところ。
「貧乏な男に用はないにゃ!」
とソッポを向かれてしまった。
ああ、借金が多くて嫌われたのかな、これは……。
なにはともあれ、お金の大切さがわかる一日だった。
☆★☆★☆
【ハンニバル開発公社事業内訳】
・住宅地開発部門……赤字
・工業地開発部門……赤字
・商業地開発部門……赤字
・宇宙港運営部門……若干の黒字
・ミスリル鉱山及び精製施設……若干の黒字
・水供給部門……採算好転見込み無し。
・新規鉱山開発……大赤字
……その他、有利子負債多数。
(´・ω・`) やばい会社だ。
水資源として利用できる河川や湖沼などの地表水と一部の地下水は,地球上の水の総量の 1%にも満たない。
――ブリタニカ国際大百科事典より抜粋。
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