「……これからも朕の為に尽くせよ!」
「ははっ!」
ツエルベルク星系新帝都バルバロッサ。
赤い絨毯が敷かれた皇帝玉座の間において、私は僅か8歳の皇帝に准将に任じられる。
カリバーン帝国において准将以上は将官であり、一応は将軍である。
伝統的に将軍は皇帝直々に任じられる親補職であり、皇帝以外は勝手に罷免できなかった。
今までの佐官と違い、一種独立した重臣に列したとも言えた。
「有難き幸せ!」
「うむ!」
膝をおり、背を屈め、8歳の皇帝に階級章を付けてもらう。
上品な赤い布地に金のラインが入ったものだった。
立ち上がり、敬礼をして、列席した来賓の最も末席に戻る。
軍で准将はお目見え以上で最下位の階級だった。
実は私は皇帝とあったのは、初めてなのである。
皇帝陛下は金髪の清楚な小さな女の子といった感じの方であった。
……その後、軍の式典と会議に出席し、晩には皇帝陛下ご臨席の晩さん会に招かれた。
感想としては、『ご飯が美味しかった♪』くらいのモノであったが……。
☆★☆★☆
――その日の深夜。
クレーメンス公爵元帥の執務室に私はいた。
「巨人族の貴様如きが准将とは世も末だ!」
クレーメンス公爵元帥は御不満の様だ。
そもそも、私は軍の参謀大学校を出ていない。
参謀大学を出ずに、人族ではない将官は私一人だけだった。
「そんな貴様への仕事は……これだ、……」
小さなパネルを手渡される。
そこに映るのは、アメーリア女王のレオナルド王国をはじめとした、辺境星域連合国家の勢力地図だった。
「辺境の蛮族たちと仲の良さそうなお前を推薦する声があってな……」
「はぁ?」
「……だからな、今回そのための准将だよ、ヴェロヴェマ君!」
「蛮族相手には、皆やりたがらないからな……」
横で控えるパウルス上級大将に諭される。
カリバーン帝国が他国へ派遣する軍事顧問や駐在武官のTOPは准将以上との決まりがあったのだ。
……どうやら、そのための昇進だったようだ。
「蛮族どもを我が帝国の戦力とすべく練兵に勤めてもらいたい!」
「はっ!」
「……ってのは、表向きでな。しっかりスパイに励め! 提示報告を忘れるなよ!」
「かしこまりました!」
「うむ、退席せよ!」
私は敬礼をし、複雑な思いで部屋を後にした。
てっきり、アルデンヌ星系を守備した戦功で昇進したと思っていたからだった。
……どうやら、危険な汚れ仕事を担当させるための昇進だったらしい。
☆★☆★☆
「おめでとうございますわ!」
「おめでとうポコ!」
「昇給間違いなしニャ!」
事情を話しても、皆は素直に今回の私の昇進を喜んでくれた。
一つの理由として、私の幕僚も今回昇進した。
嫌な言い方をすると、上司が出世すると、部下の出世も望める形式だった。
逆に言えば、出世しない上司の下では昇進があり得ないかもしれない。
派閥の要因ともなる制度だった。
衛星アトラスのドックにて、ハンニバルは再び追加装甲を付け、800m級の大型艦に戻る。
資材も積み込み、辺境連合国家の中心であるレオナルド星系を目指し出発する。
僚艦は軽巡オムライスと重巡ジンギスカンの二隻とした。
ちなみに、私はエールパ星系の星系艦隊司令官にも任命されていた。
前任者が配置換えを望んでいたらしい。
エールパ星系は出世の望める最前線でもないし、獣人人口率96%の辺鄙な地方星系だったからだ。
「エルゴエンジンのシリンダー圧上昇!」
「点火!」
「エルゴ機関無事稼働しました!」
「よし、ハンニバル発進!」
様々な思いを秘め、ハンニバルは辺境連合国家へ向けて発進した。
☆★☆★☆
相変わらずの危険宙域を再び航行するハンニバル。
辺境連合国家が今も自治を得ているのは、地形的な障壁に守られているためだった。
途中、巨大アメーバなどの宇宙海獣に追い回されるものの、流石に私の航行技術も上がっていた。
「今だ! 短距離跳躍開始!」
「了解ですわ!」
相変わらず短距離ワープで逃げたりして、無事(?)にレオナルド星系に到達。
主星である巨大なガス雲に包まれた惑星に降下し、アメーリア女王に謁見した。
「ソチガ、帝国カラノ顧問デ嬉シイゾ……」
「……有難き幸せ……」
相変わらずの薄布しか纏わない格好で、目のやり場に困る女王陛下だが、私の赴任は喜んでもらえたみたいだ。
レオナルド星系をはじめとした辺境星系軍を組織し、カリバーン帝国軍の下部組織として統御しなくてはならない。
……何とも気の重い任務だった。
☆★☆★☆
「こちらが我が新鋭艦隊となります!」
「素晴らしい艦隊ですね!」
「……ははは、照れますな!」
レオナルド星系近隣の星系の水棲生物の王様は、こちらの言語も学んでくれる誠実な方だった。
国防を意識して、新規に宇宙戦闘艦を建造していたらしい。
……確かに、新鋭である。新しい。
想像しにくいのだが、この世界においては一般的に、新しければ新しいほど弱い戦闘艦になることが多い。
それは、熱核兵器使用の戦争で技術を失ったことも大きい。
また、新たに新規の古代アヴァロンの遺跡を発掘できていなかったのも要因だった。
例を挙げれば、ハンニバルは建造が古いため、優秀なエルゴ機関などの装備を搭載していた。
「……こ、これを我々に頂けるので!?」
「はい! 代わりにこの辺りの発掘権を頂けませんでしょうか?」
ハンニバル開発公社は積載してきた超硬質ミスリル鋼などと交換で、遺跡の発掘権などを買いあさっていた。
ここは文明の発展が遅れた異境であるために、未発見の古代アヴァロンの遺跡を発掘できる可能性があったのだ。
他にも、蛮王様から借りてきた資金を、この異境の地での開発に沢山投資した。
帝国軍の准将の立場とは関係ない私的な事業である。
それは水資源、鉱山、燃料、インフラなど純軍事的でないものも多数網羅していった。
「買いすぎポコ!」
「お金にならないものを買ってはダメにゃ!」
「……お財布は大丈夫メェ?」
……たしかに、資金がどんどん減っていく。
クリームヒルトさんにカジノで稼いできて欲しいと思うほどだった……(´・ω・`)
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