宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

宇宙を駆け敵を撃つ! タヌキの砲術長と副官のアンドロイドの仲間と一緒に敵を倒して目指せS級宇宙提督!
黒鯛の刺身♪
黒鯛の刺身♪

第二十七話……巨大アメーバ

公開日時: 2020年11月28日(土) 23:17
文字数:1,906

「ゴホンゴホン……」


 頭が重く、胸が苦しい。

 どうやら風邪をひいてしまったようだ。



『……おかゆができましたよ~♪』


 ……嬉しい。


「……」


 ……。


 ……どうやら熱でうなされ為の空耳だったようだ。

 私はアパートで独り暮らしだった。


 コンビニでおかゆを買い、家で温めて食べた。

 そして、ゲームの世界へ戻った。


 ……もどった!?




☆★☆★☆


「エンジン増速!」

「エルゴエンジン第二戦速から、速度一杯へ!」


「エンジン内圧臨界点突破!」

「ワームホールへ進入せよ!」



――ワームホール。

 エネルギーの根源にて、時空の地平線への到達点。

 ここを抜けるとはるか遠くへ行くことができる。


 しかし、現実的な速度では異次元に吸い込まれたまま、抜け出せなくなる。


 古代アヴァロン超文明遺産、インフレーション機関をもつエルゴエンジンの保有者だけが、このワームホールを抜けて遥か彼方の世界を旅することができた……。




☆★☆★☆


 ハンニバルはワームホール通過で距離と時間を短縮し、未開地域であるC-136方面に来ていた。

 窓の外には神秘的な赤紫色をしたガス雲が漂っており、ハンニバルはエンジンパワーを絞って航行する。



「奇麗ポコ~♪」

「引火したら大爆発しちゃうけどね……」

「危ないですわね」


 世界には奇麗なものは多数あるが、それは猛毒を持ったクラゲだったりもする。

 奇麗がイコール人間に優しいとは限らなかった。


 ……ガス雲がかなり薄くなった頃合い。



「左舷前方にエネルギー反応!」

「警戒態勢!」


「な……なんだあれは!?」

「こ……怖いポコ??」


 我々の前方に現れたのは直径8kmほどのアメーバ状の巨大生物だった。

 透明な体の中に、各種器官や核も見える。



「近づいてきますわ!」

「迎撃ポコ!?」


「いや、ガス雲が爆発すると危ないから逃げよう」

「了解ポコ!」


「短距離戦術跳躍準備ですわ!」

「了解ポコ!」


 しかし、ハンニバルが短距離跳躍に入るより先に、巨大アメーバが触手を伸ばして攻撃してきた。

 鋭利な先端が、重力シールドを押しのけて突き刺さる。



「左舷前方破損! 複合装甲3層まで貫通!」

「第64ブロックを放棄しろ! 液体窒素注入急げ!」


「再び触手来ます!!」

「やむを得ん! 砲撃開始!」


 ハンニバルの主砲塔が左に旋回、次々に高出力レーザービームを発射。

 それと同時に舷側の近距離兵器群も一斉に火を噴いた。



――ズズシィィン


 まばゆい閃光と爆発とともに、アメーバ細胞が飛び散る。

 巨大な触手が体液をまき散らせながら千切れた。


 痛そうにしたアメーバだったが、更にもう一つの触手を振り上げた。

 鋭利な先端が再びハンニバルに迫る。



「艦長! 短距離跳躍いけますわ!」

「よし、跳躍開始、逃げるぞ!」


――ドゥッ


 鈍い音と重力波を残して、ハンニバルは10万キロほどの空間を一瞬で跳躍。

 そこからエンジン全開で、辛くも巨大アメーバから逃げ延びた。




☆★☆★☆


 ハンニバルは巨大化したため、主に惑星リーリヤからのブタ族の移民を乗員としていた。その数400名。

 当然に食事の需要があり、ハンニバルは巨体の中に養殖用水槽から農場プラントを備える。更には乗員のための大食堂も併設されていた。



「く……一生の不覚」

「どうしたポコ?」


「今日のカツ丼定食に間に合わなかった……」

「あはは……頭悪いポコね」


 ……くぅ、タヌキ軍曹に馬鹿にされた。

 ハンニバルは士官食堂がないために、並ばないと今日のおすすめ人気メニューが品切れになる恐れがあったのだ。


「よかったら食べます?」

「え!?」


 なんとクリームヒルトさんがオムライスを作ってくれた。

 湯気があがり、とても美味しそうな匂いがする。



「いやっほぉ~♪」

「あ~ずるいポコ!」


 美味しそうに食べる私に、タヌキ軍曹殿は悔しがったが、人生こういうこともある。

 勝敗は時の運なのだ。


 ……風邪の時のおかゆも良いが、手作りオムライスも最高だな。



 ハンニバルはガス状宙域を抜けて、更に未知の宙域に突き進んだ。




☆★☆★☆


 安全な位置を知らせる発信機を逐一投下しながら、未開の地を進むハンニバル。

 巨大なアメーバほどではないにしろ、不思議な生物や危険地帯を避ける道導を周辺宙域に記していた。

 これはこれから来る者の為でもあり、また彼等の安全な帰り道の確保でもあったのだ。



「ここはどの辺りなのかな?」

「わからないポコね」


 私達、つまるところ我が帝国が知らない地域も沢山あった。

 それは敵方の共和国とて同じだろう。




 ……それは3つ目の太陽と、2つ目の星系の外縁を過ぎたあたりだった。


――PIPIPI

 アラームが鳴る。

 警戒発令だ。

 私は急ぎ艦橋に駆け上がった。



「何があった!?」

「艦長! 停船命令ですわ!」


 珍しく副官のクリームヒルトさんも慌てている。




……それは、未知の文明との遭遇だった。


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