最弱無能力者と最強能力者(仮)

よぞら
よぞら

Story1

公開日時: 2020年10月5日(月) 17:00
文字数:2,678

 某日、深夜。私立桜花学園第17地区ブロック、公安委員会警備部第11支部。


「そっちへ行ったぞ!」

「追え! 追え! 逃がすな!」

「はぁ、はぁ、はぁ。くっ」


 銃声が飛び交う中、1人の少女が走って逃げていた。

 身長はまだ小学生くらいで童顔である。白髪をたなびかせながら、真っ暗な裏路地を走るその姿は異様とも言えた。


「くっ。どこいった」

「あの目立つ髪色だ。探せ! 虱潰しに探すんだ! あの体躯だ、まだこの近くに居るはずだ!」


 銃が交差するような紋章がついた腕章をつけた、長身の男性が部下らしき男たちに指示を下していた。

 指示を聞いた部下たちは、少女を探すために散会した。

 ・・・・・・どれくらい走っただろうか。走り疲れて、もう足も動かなくなってきた。どこまで逃げても、恐らくどこまでも彼らは追いかけてくるだろう。目撃者である私を、彼らは逃がさないだろう。


「あっ」


 グラッと足がもつれて倒れ込んでしまった。

 足が痛い。お腹がすいた。

 なぜ自分自身がこんなことに巻き込まれたのか、彼女自身全く分かっていなかった。つい数十分前まで、楽しく過ごしていたハズなのに・・・・・・。


――――――――――――


『おはようございます、朝のニュースです。ショッキングなニュースが入ってきました。昨夜未明、学園都市の第17地区ブロックにある警務局第11支部が何者かによって襲撃される事件が発生しました。巡回業務から戻ってきた警務官によって発見され、当時第11支部に詰めていた8名のうち4名が殺害、2名が行方不明となっています。警察庁警務局と公安委員会警備部は、この行方不明者2名が何らかの鍵を握っていると考え行方を追うと共に、事件の究明を進めるとのことです』


 朝起きてテレビをつけると、そんなニュースをやっていた。正直、朝っぱらからそんな陰鬱になりそうなニュースはやらないでほしいところである。

 俺の名前は、雛形瑛士ひなかたえいじ。どこにでもいる、ただの中学生だ。俺が通っているのは、世界初の人口島上に作られた学園都市、桜花学園だ。何が世界初なのかと言うと、日本の領海の中に作られ、日本国の主権が及ぶのにもかかわらず、行政権、司法権、立法権の三権にとどまらず、独立国家に準じたあらゆる権利が認められているのだ。つまり、この学校の中では、日本の国内法は適用されないということだ。そんな学園都市は、日本国内のみならず世界各国から生徒を受け入れており、国際色豊かになっている。


「お、瑛士。はよーっす」

「おう、おはよう」

「エイジ、おはよう」

「おはー」


 通称、学園都市国家・桜花。奥多摩町とほぼ同じだけの敷地を誇るこの学園都市は、総人口が300万人を数え、うち100万人程度が18歳以上で18歳未満はおよそ200万人程度である。総人口のうち3割程度が日本人を占め、学園都市においては最多の人口を誇る。

 学園都市内の学校は、能力値によって進学出来る学校が決定し、能力値が高ければ高いほど、学校は選び放題で、好きな学校へ入学が可能である。これは、どこの出身者であったとしても、どれだけお金を持っていても、変わらない。


「そういやさ、朝のニュース見たか?」


 昼休みになり、クラスメートの一人が話しかけてきた。

 能力を持たなくても、学校生活を楽しむ学生はかなりの数が存在する。能力を持っていれば優遇されるが、持っていなくても、冷遇されるということではない。


「ニュース? あー、第17地区ブロックの警務局第11支部が襲撃されたってやつか?」

「あ、そのニュース、ワタシも見ました。怖いですねー」

「つーか、第17地区ブロックって、隣の地区ブロックじゃん。犯人とか逃げたやつとか、こっちに逃げ込んでるんじゃねーの?」


 俺たちの通う学校、須々木原中学は、第12地区ブロックにあり、第17地区ブロックは、地図で見るとちょうど北側に位置する。第17地区ブロックと接しているのは、第12地区ブロックだけではないので、気にしすぎるだけ無駄な気もしないでもないが。

 とはいうものの、公安や警察庁はそう考えていないのか、学校に来るまでにかなりの人数の警備がいた。無論、校内でも警備官が警備をしている。正直、物々しすぎて逆に怖いが。


「でもまぁ、仮に逃げ込んでたとしても、こんだけの人数いるんだし、すぐに見つかるんじゃね?」

「かもなー」

「ん?」


 窓の外を見ていると、視界の隅で何かがチラッと動いた。何かが動いた方へ顔を向けると、白っぽい何かが動いているのが見えた。しかし、またすぐに見えなくなってしまったので、見間違いかと思うことにした。


「どーかしたのか?」

「いや、何でもない」

「そうか? そういや、午後の予習したか? 蓮沼の数学だぜ?」

「あ、ああ。一応、な」


 友人たちと駄弁りながらも、見間違いだと思うことにしたはずの、先ほどの白っぽい何かが気になっていた。見間違いで何も見てない、と思うようにしても、なぜか頭から離れることはなかった。

 その日は何事もなく授業が終了し、周囲は物々しい雰囲気に包まれながら、俺たちは寮へと戻ることにするのであった。

 基本的に、学園都市内の学校へ通う学生は、寮に住んで集団生活をすることが義務づけられている。ただし、学園都市内に持ち家があり、両親が望んだ場合は別である。原則として中学生になったら寮生活が始まり、初等部に在籍する学生は、家から通うことになる。

 全寮制で男女別、というのは全校で決まっているが、寮や部屋の作りは学校によって様々で、全員個室のところもあれば、二人部屋のところもある。


「んじゃ、瑛士。俺たちは、こっちだから」

「おう、じゃあな」

「ごきげんよう」


 須々木原中学の寮は、1SKの個人部屋が基本となっている。簡易的なキッチンがついており、部屋で食事を取ることも、食堂で食事を取ることも可能だ。ほとんどの学生は、朝を自室でとり、夕食を食堂でとることが多い。ちなみに、お風呂も各部屋備え付けのものと、大浴場が存在する。


「はぁ、疲れた。今日もとっとと着替えてゲームでもすっかなー」


 そんなことをぼやきながら歩いていると、道中で倒れている女の子がいた。


「・・・・・・。よし、無視だ」


 そう考えて女の子の脇を通り抜けようとした時、何者かに足を捕まれた。

 後ろを振り向いてみると、さきほど倒れていた女の子が、ギギギと顔をこちらに向けて足をつかんでいた。

 正直怖いです、はい。

 必死に振りほどこうとするが、離れる気配もなかったので、仕方なく警察か公安に通報しようと、スマホを取り出した瞬間、何も言わずに足を掴んでいた少女が、言葉を発した。


「お願い、警察には通報しないで・・・・・・」


 そう言うと、少女はその場で糸が切れたかのように、動かなくなってしまった。

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