最弱無能力者と最強能力者(仮)

よぞら
よぞら

Story4

公開日時: 2020年10月13日(火) 16:00
文字数:3,130

 昨日もこうやって走って逃げてたっけ。

 認識阻害アンチ・チェックの能力を使いながら、アリアは瑛士に言われた、第12地区ブロックにある、自然緑地公園へと走って向かっていた。

 先ほどの襲撃から時間が流れ、アリアの持っている携帯型のデバイスの画面は、23時半を示していた。アリアは、中々やってこない瑛士を心配すると共に、不安になっていた。もしかしたら、先ほどの人に殺されてしまったのではないか、と悪い方へと考えてしまっていた。

 それから少し時間が経った時、公園の中に誰かが入ってきた。暗くてよくわからなかったが、着ている服は、先ほど瑛士が着ていた服と同じ服だったため、瑛士が来たと思ったアリアは、隠れていた茂みから飛び出した。


「エイジ!」

「おーやおやおやおや」

「!!!」

「もしや、先ほど貴方を助けたあの男と見間違えたのですかな?」


 しかし、瑛士だと思ったのは、先ほど襲ってきた刀を持った男であった。瑛士の服を着て、おびき寄せたのだ。電灯の少ないことが、仇となった。


「エイジは・・・・・・! エイジはどうしたの!」

「ふっ。そんなに、あの男が大事ですか。だが、安心してください。命までは取っていませんよ。貴方が、デルタコードを渡してくれれば、あの男は返しましょう。さぁ、デルタコードを渡しなさい!」

「さっきから、なんなのよ! デルタコードって! そんなの私知らないわ!」


 もちろん嘘である。

 デルタコードとは、学園都市のどこかにある5つのコードのうちの一つで、5つ全てを手に入れると、究極の何かが手に入るとされている。その何かはわかっていない。なぜなら、都市伝説だと思われているからだ。

 そして、その都市伝説とされる、デルタコード。それは今、アリアの持っている携帯型デバイスの中に存在していた。


「大体、知ってたとしても、あんたに教えるわけないでしょ!」

「ふふふ。そうですか。あの男がどうなってもよいのですね・・・・・・」


 瑛士とは、今日出会ったばかりだ。しかし、この短時間の中でも、なぜか彼のことは少しは信じられるように思っていた。

 デルタコードは大事だが、彼の命も大事なのだ。どちらかを取るとすれば、瑛士の命かもしれない。


「先ほどの部屋には、私の部下がいましてねぇ。彼に命じれば、即座にあの男を殺すでしょう。何の躊躇いもなく、ね」

「くっ・・・・・・」


 正直な話、目の前の男が言っていることの確証はない。ハッタリかもしれないし、真実かもしれない。ただ、一つだけわかっていることといえば、どんな返答をしようとも、アリアも瑛士も、遅かれ早かれこの男の手によって殺されるということだけだった。


認識阻害アンチ・チェック!」


 それと同時に、アリアの体は目の前の男からは見えなくなった。


「やれやれ。私も、かくれんぼや鬼ごっこは嫌いではありませんがね。しかし、もはやそれも飽きました。昨日から同じ事の繰り返し。ようやく見つけたのです。これ以上、逃がしはしませんよ。旋風・二ノ型。疾風斬」


 素早くアリアのいた場所へ、居合斬りのごとく斬りかかってきた。

 アリアは危うく斬られかかったものの、間一髪、紙一重でその斬戟をかわした。


「ほう、かわすか。ならば、これならどうだ! 旋風・三ノ型。氷風陣!」


 男が刀を回転切りのように振ると同時に、男の周囲には猛吹雪が吹き荒れ始めた。


「能力者にとって、寒さは天敵。思考が鈍り、能力の精度が落ちる。そして、途切れる」

「し、しまった・・・・・・!」


 アリアは、吹雪の勢力範囲から逃げだそうとしたが、予想以上の強さだったために逃げ切れず、また、手足がかじかんでしまい、思うように動けなかった。

 アリアは能力を維持できず、認識阻害アンチ・チェックは解除されてしまい、男からアリアの姿が視認できるようになってしまった。


「よくぞ、ここまで私から逃げたものです。しかし、それもここまで。さぁ、デルタコードを渡しなさい」

「ぐっ・・・・・・」


 地面に突っ伏して倒れたアリアの首筋に、男の刀が当てられていた。いつでもお前を殺せるぞ、と暗に言っているようであった。


「わ、渡さない・・・・・・。あんたなんかに、絶対・・・・・・!」

「ほう。まだそのような元気があったか・・・・・・。ならば、貴様を殺してから見つけ出すまで。死ねっ!」


 男が刀を振り上げた。しかし、刀が振り下ろされることはなかった。

 何があったのか、と恐る恐る目を開けると、瑛士が男の刀を白刃取りしていた。


「え、エイジ!」

「貴様! なぜここに! なぜ動ける! その体で!」


 見ると、瑛士は体がボロボロであった。至る所に青アザが出来ていたり、男の刀で出来たであろう切り傷などもあった。


「まぁ、いい・・・・・・。貴様ごと、斬り捨てればいいだけだ!」


 男は更に力をこめ、刀を振り下ろそうとした。しかし、出来なかった。

 明らかに、瑛士とは全く別の能力が働いていた。しかし、男はそれに気がつけなかった。


「ぐっ・・・・・・! なぜだ、なぜ振り下ろせん!」

「当たり前だよ」

「「「!?」」」

「だってそれ、そこのそいつじゃなくて、私がやってんだもん」

「だ、誰だ!」


 待ってました、と言わんばかりに雲が切れ、雲の切れ間から月明かりが声の主の方へと差し込んだ。

 月明かりが差し込んだその場所には、1人の少女が立っていた。


「き、貴様は・・・・・・!」

「燃えるような、肩まで伸びた赤い髪に、それを強調するような真っ白な髪飾り・・・・・・」

「学園都市に5人しかいない最強能力者レベル7の1人、新荘真由・・・・・・!」

「説明ドーモ」


 真由は、手をヒラヒラさせた。顔は笑っているが、目は笑っていなかった。

 彼女を見て、刀を持った男は分かりやすいほど狼狽えていた。


「き、貴様がなぜここにいる! 最強能力者レベル7どもは、本部が抑えていると言っていたぞ!」

「他の最強能力者レベル7の連中がどうかは知らないけどさ。あんたの言う本部だっけ? あの程度じゃあ、私は止められないよ?」

「ぐっ・・・・・・。(話しが違うぞ、入江・・・・・・! だが、ここで最強能力者レベル7を仕留められれば、俺の評価も上がる!) 手ぶらで、手ぶらで帰るわけにはいかないんだよ! 旋風・二ノ型! 疾風斬!」


 そう叫ぶと、男は真由に斬りかかった。しかし、真由はその剣戟の軌道が見えているかのように、その全てを避けきった。


「はぁ、はぁ、はぁ。く、くそがぁぁぁ!」


 男は、力任せに刀を振り下ろし、真由を一刀両断しようとした。しかし、真由はその力任せに振り下ろされた重い一撃を、たった指二本で止めてしまった。


「ば、バカな!」


 真由は、刀を男から奪い取って真っ二つに折った後、男のへと放り投げた。

 真っ二つに折られた刀は、男の足下に刺さると、男はそれを回収して逃げていった。


「ふん。口ほどにもないわね」

「た、助かったぁ」

「じゃ、私はこれで」

「ま、待って!」

「ん?」

「あ、ありがとう」


 アリアは、真由にお礼の言葉を述べた。その言葉を聞いた真由は、笑顔で手を振りながら、その場を去って行った。


――――――――――――――――――


「はぁ、はぁ、はぁ」

「やぁ、鴉。失敗したようだね」

「入江・・・・・・! 貴様ぁ!」

「確かに、新荘真由の足止めが出来なかったのは、こちらの落ち度かもしれない。しかし、絶好のチャンスでデルタコードを手に入れられなかったのは、君のミスだ」

「ぐっ」

「ふふふ。査定を楽しみにしておくことだね」


 そう言うと、入江と呼ばれた男は闇の中へと消えていった。


――――――――――――――――――


「ねぇ、エイジ。なんで私を助けに来てくれたの?」

「・・・・・・お前の顔が、助けを求めてる顔だったからだ」

「え?」

「女の子が、助けを求めてんだ。男として、見過ごすわけにはいかねーだろ?」

「エイジ・・・・・・。ありがと・・・・・・」


 そして、エイジとアリアは寮へと戻るのであった。

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