最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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361 カジ……余計な事を言うなよな

公開日時: 2022年2月2日(水) 00:21
更新日時: 2022年12月25日(日) 19:50
文字数:4,293

●前回のおさらい●


 サボりから、音楽室に戻ってきた倉津君。

そのまま練習を再開するのかと思いきや、何故か、電話相手の真上さんの話で盛り上がる。


そして、その後、漸く練習が再開されるのでした。

(……っで、まずは、熟練者3人の演奏を聴く事からスタートです)

 さて、そうなるとだ。

奈緒さんが、あぁ言った以上、此処で期待以上の演奏が要求される訳だが……これについては、意外な事に、寧ろ『安心』だ。


勿論、プロドラマーとして活動している山中のドラムは強烈だろうが、同じプロでも今回の奈緒さんはパートはギター&ボーカル。

しかも奈緒さん自身は、梶原に教える為にボーカルの方に集中してくる筈だから、恐らくギターの演奏は、ボーカルギター特有のルーズなものになってくるだろうからな。


ベースの演奏ならまだしも、慣れないギターなら、そこまで上手く表現出来ない筈だから、俺自身も、ちょっとは安心な訳だ。


……って言ってもだ。

別に手を抜いた演奏をする気は、更々ないんだぞ。


演奏について、少しだけ『安心』だって言いたかっただけだ。

(↑実はプレッシャーが掛かってて、こう思いたかっただけの俺)



ってな訳で、音楽スタート!!


まずは、奈緒さんのギターソロからだ。


♪----♪♪----♪♪----♪----……


げっ!!この人は、本当に期待を裏切らない人だな。

よく見たら今回は、M-80の調整を完全にした上で『エフェクター』まで持ち込んでるよ。


この奈緒さんの本気さ加減……嫌過ぎる。


それに、なんッスか、その音?

M-80の音が、この間より更に進化してるじゃないですか。


しかも前より、フロントPUが良い音を拾ってくれてますね。


だがこれも、俺にとっては……嫌過ぎる。



そこに、山中のドラム音が静かに加わって行く訳なんだが。


♪♪♪--♪♪♪--♪♪♪--♪♪♪----……


ウゲッ!!コイツ、いつの間に、こんなに上手くなりやがったんだ?


奈緒さんのギターに呼応する様な見事なハーモニー。

しかも上手く噛み合わせて、ギターの音を完全に生かし切ってやがる。


もぉヤダなぁ、コイツ。



まぁ、そうは言ってもだ。

此処で演奏もせずに、一人でゴタゴタ考えててもしゃあねぇやな。


取り敢えず、有りっ丈の力を振り絞って、全力でぶつかるのみだ!!


けど……梶原と、山口の眼にどんな風に写るんだろうな。

プロの奈緒さん&山中と、素人の俺とじゃ、演奏のテクニック的な差が有り過ぎるもんな。


やっぱ……嫌過ぎるな。


鬼だよ。



♪♪♪--♪♪♪--♪♪♪--♪♪♪----……

(↑最後まで文句を言ってから弾きだす俺)


***


 ……曲が終了した。



「まっ、この安物のドラムやったら、精々こんなもんやろ」

「みんな、スゲェな!!特に山中。流石にプロでやってるだけの事は有るよな」

「おぉおぉ、もっと褒めてくれ。俺は褒められたら、なんぼでも伸びる子やからな」

「いや、冗談抜きに、マジでスゲェって!!グチと同じドラムを使ってるのに、プレイヤー1つで、こんなに違うもんなんだな」


おい、カジ……それは流石に、言っちゃあイケネェ禁句だろ!!


ド素人の山口と、プロ契約をしてる山中を比べる事自体、酷ってもんだぞ。


ってか、ほら言わんこっちゃない。

グチの奴を見てみろよ。

オマエのそのセリフ聞いて、グチの奴、かなり不満そうな顔してるぞ。



「あぁもぉ、やめた……やめた、やめた。こんなのやってらんねぇよ。高々テレビ欲しさに、此処まで大恥かかされて堪るかよ。冗談じゃねぇよ」


がっ!!本当に困った展開になってやんの。

山中のハードな練習に嫌気がさしていた山口が、言い逃れが出来るチャンスだと認識しやがったのか、自らの口でリタイヤを宣言してきやがった。


まぁ明らかに、さっきの練習、嫌そうだったもんな。


グチのこの行動は、ある意味頷ける。


まぁ、そうは言ってもだ。

俺としては、別に山口が『辞め様』が『なにし様』が一向に構わない。

寧ろ、クラスの出し物の方があるから、バンドの件は辞めて貰っても大いに結構。


けど問題なのはな。

此処まで付き合った梶原や、無償で手伝ってくれた奈緒さんや山中がどう思うか?なんだよな。


自分から言い出して置いて、此処に来て芋引くのは、流石に不味いだろ。



どうなる事やら……



「山口先輩は辞めるんですか?じゃあ、お気を付けて帰って下さいね。さよなら」

「おぉ、お疲れさん。ほなな、グチ、気ぃ付けて帰れよ」


やっぱりだ。


つぅか、出たよ。

トカゲの尻尾の如く切り捨てる様な、この痛烈な言葉。


心のどこかでは、言うんじゃないかとは思ったんだが、まさか本当にこの言葉を口に出してハッキリ言うとはな。

奈緒さんも、山中も『やらない』って宣言した奴には、ホント容赦が無いからな。


はぁ~~~、もぉ、また此処に来て面倒が舞い込んできやがったよ。



「えっ?」

「『えっ?』って、なんやねんな?つぅか、まだなんか用か?用が無いんやったら、はよ帰れや。練習の邪魔やからな」

「ちょ、ちょっと待てよ山中!!俺が辞めるって言ってるのに、なんでオマエ等が継続して練習なんてする必要があんだよ!!テレビが関係ないなら、もう練習なんてやらなくても良いだろ!!」

「はぁ?オドレは、さっきから、なに言うとんねん?俺はなぁ、自分の部屋にテレビが欲しいから、此処での練習を継続するんや。やから、オドレの意見なんぞ元々なんも関係ないんじゃ。つぅか、いつまでも、そこでゴチャゴチャ言うとらんでサッサとイネや。このハンパ者が!!」

「なんだよ、それ?なんなんだよ、それ!!」

「なにも、糞も無いですよ。私達は個々で優勝を狙う、って言ってるんです。ただ、それだけですよ」

「田中もかよ!!つぅか、なんなんだよオマエ?違うバンドのクセにシャシャリ出てんじゃねぇよ」

「ねぇ、山口先輩……少しは、その負け犬の遠吠えが出ない様に口を閉じて、CO2削減に努めたらどうですか?」

「えっ?」

「……あのねぇ。大体にして、違うバンド云々とかは、今のもぉ辞めるアンタには関係ないでしょ。それに私はね。アンタみたいな中途半端な男が大嫌いなの。サッサと私の目の前から消えてくれない、目障りだし、耳障りだから」


ボロカスだな。


つっても、言いだしっぺのグチがケツ捲くったんじゃ、そら、誰でも怒るわな。


まぁ俺としては、さっきの理由でドッチでも良いんだけどな。



「まぁまぁまぁ、待ってくれ。コイツもさぁ、勢いでこんな事を言ってるだけだから許してやってくれよ。それに俺がさぁ、グチの気持ち考えずに、山中をベタ褒めしたのも悪かったしさ。その辺を考慮して、ちょっとだけ大目に見てやってくれよ。なっ、なっ……グチも悪気はねぇんだからさ」

「……カジ」


うぉ!!なんだこれ?

まるで友情マンガにでも出てきそうなセリフ!!


熱いなカジ!!そう言うのスゲェ良い感じだぞ!!


幼馴染で親友を止める為に、良いセリフ吐くな。

これが崇秀の馬鹿だったら100%の確率で、もっとボロカス言うだけで、絶対にそんな優しいフォローはしてくれねぇ筈だからな。


よしよし、なら俺は、オマエの男気に一票だ。


今のカジのセリフに免じて、グチのフォローしてやるよ。



「つぅかよ、山中。オマエはよぉ、バンドで儲けてるんだから、テレビぐらい自腹で買えつぅのな」

「えっ?マコ、そこか?そこなんか??」

「それと奈緒。オマエさぁ、さっきから誰にモノ言ってんの?ちょっと偉そうに物言い過ぎじゃねぇか?何様なん?」

「そうですけど……わかってますけど、納得出来ません」

「あっそ。じゃあ、オマエがサッサと帰れば良いじゃん。手伝いご苦労さん。もぅ帰って良いぞ」

「えっ?」

「いや、だからぁ、帰れって言ってんの。このバンドはさぁ、俺と、カジと、グチのバンドなんだわ。こうやって手伝ってくれるのは非常に有り難いんだがな。だからと言って邪魔されるのは困る。だから、帰れって言ってんの……わかるか?」


ごめんよ奈緒さん。

本心では、そんな気持ち一切無いんッスよ。


けど……折角、音楽を始め様と思った奴を、このままにはして置けないんッスよ。


だから許しちくり。


それに、どうせ奈緒さんのそれ『演技』でしょ。

奈緒さんも、山中も、さっきから笑うの堪えすぎッスよ。



「倉津先輩、酷い」


これは、明らかに奈緒さんの持病である悪乗りだな。

いやいや、寧ろ、これは新バージョンの『ドラマティック・バージョン』だな。


よし、ならば、この展開に乗った。


付き合いますよ奈緒さん。



「ホンマ、奈緒ちゃんの言う通り、マコは人類稀にしか見ぃひん様な極悪人や。俺に『自腹を切ってテレビ買え』とか鬼糞やろ。印税入って来んのんって、まだ2ヵ月も先の話なんやぞ。今の俺には、そんな金なんかあらへん言うねん」

「えっ?えぇっと、山中先輩……そこじゃないんですけど」

「へっ?なんや?そこやないんか?」

「明らかに、そこじゃないですね」

「そうかそうか。そりゃあ、すまんかったな。なんか俺、完全に勘違いしとったわ」

「って!!そんな訳ないやろ!!」

「豪い、すんまへんでしたぁ~~~」

「へっ?」

「えっ?」


あれ?お笑いバージョンだった。


つぅか、あまりの急展開に、乗るタイミングを完全に外しちまった。


山中師匠、お笑いの道は厳しいですな。



「まぁグチ。要するには、そないに気にすんなって事や。あんだけ練習して褒められへんかったら、誰でも拗ねたくもなるわな。こんなもん、その程度の話や」

「そう言う事です。楽器なんかやってたら、失敗や、挫折なんて付き物。そういうのって際限なくありますからね。……けど、途中で投げ出すのだけは反則ですよ。そう言うのだけは良くないです」


うぉ!!お笑いバージョンに気を取られてる隙に、美味しい所を全部持って行かれた。


この2人のコンビネーション、嫌過ぎる。



「許してくれるのか?」

「当たり前やがな。それに許すも、糞もあらへんがな。バンドの絆って言うのは、そうやって深めて行くもんや。お互いぶつかり合わな、おもんないって」


クサッ!!マジでクッサ!!

この子、なに恥ずかしげもなく、調子に乗って綺麗事ぬかしてやがるんザマしょ?

ウンコ屑の分際で、綺麗事を言っても、悪臭が周囲に見き散らかされるだけザマス!!

そんな臭い物は、自ら進伝、サッサと便器で流されておしまい!!


……って、オバサンが言うぐらい、山中のセリフは臭い。


クッサ!!



「そうですよ。ステージ上では敵同士になるかもしれませんけど。今は一緒に頑張りましょう」

「田中さん……」


いやいや、全く持ってその通りですな。


素晴らしいですぞ奈緒さん。

このセリフはまさに、ブラボーですよブラボー!!

これからバンドやって行くに当たって、そう言うお互いを高め合う気持ちって大事ですよね。


奈緒さんが言うと、その言葉に重みが有りますよ。

どっかの三流以下の臭いセリフしか言えない様なアホな芸人モドキとは大違いですな。


んじゃまあ、場も温まって来た事だし、此処で、万を持して、真打である俺の登場の時が来たようだな……


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


カジ君の発言から、一瞬ヤバい雰囲気には成りましたが。

これまたカジ君の一言を皮切りに、悪い雰囲気は沈静化しましたね。


さて、そんな中。

自身にも美味しいシーンが巡って来たので、倉津君は『満を持して発言するつもり』の様ですが。


……大丈夫なんでしょうかね?


次回は、その辺を描いて行きたいと思いますので。

また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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