●前回のおさらい●
奈緒さんの演奏をトレースした演奏をMDに収め、それを奈緒さんに聞いて貰った倉津君。
そして意外にも奈緒さんの倉津君の演奏に対する評価は高評価だった!!
そこで倉津君は『自分の演奏は崇秀にも勝てるか?』と奈緒さんに聞いた所。
彼女は『簡単な事ではないが不可能ではない』と言い放つ。
そう言った彼女の打開策とは一体……
「なんッスかね?その方法って?」
「クラが、正式なバンドマンになる事かな」
はい?
どう言う事?
「いや、奈緒さん、バンドマンって、バンドしてたら、みんなバンドマンになるんじゃないんッスか?」
「まぁ、単純にそう言っちゃえば、そうなんだけどね。ニュアンスとしては、ちょっと……違うんだよね」
「えぇ~っと?それは、なにが違うんッスか?」
「解り易く言えば、アーティストとしてのタイプかな」
「タイプ?」
「うん。楽器のPLAYERには2種類の人種が居てね」
「ほぉほぉ」
「個人で音と向き合って、他人を寄せ付けずに音楽に没頭する『ミュージシャン・タイプ』と、仲間と合同で音に向き合って化学反応を起こす『バンドマン・タイプ』って言うのが有るのよ。この後者のパターンの人間にクラがなれたら、多少なりとも勝機は見えてくる筈だよ。みんなで力を合わせて戦う分、個人の負担も小さくなるし、弱点も少なくなる。これだったら才能のある人を集めて、仲間意識が芽生えたら、クラにも仲居間さんに勝てる見込みが生まれてくるんじゃないかなぁ」
人差し指を立てながら、説明終了。
要するにだ。
手の付けられない程の手強い悪の首領には、数人の正義の味方で一斉に掛かれば勝てなくもないって理論だよな。
聞き様によちゃあ、卑怯な感じもするな。
「1つ聞いて良いッスか?」
「うん?なに?」
「アイツが、もし仲間を集めたら、それこそ手が付けられないんじゃないんッスかね?」
「多分、仲居間さんの性格から言って、それは心配ないと思うよ」
「なんでッスか?」
ライブ前日からのオーディションとは言え、あのドンちゃん騒ぎを起した張本人は明らかに崇秀。
それをみるだけで、奴は人集めが上手い。
それに最大の武器である、奴の誰もがその場に居合わせた様な気持ちになる、あの表現力豊かなギターPLAY。
それだけでもレベルは限定はされるが、一緒にやりたい奴は5万と居る筈。
これは勿論、俺の予想に過ぎないんだが。
アイツが本気で最強のバンドを作ろうと思えば、自らが探さなくても、相手側から寄ってくる。
奴には、そんな選択する権利すら与えられている気がする。
それだけに奈緒さんの言葉の意味が解らない。
「ねぇ、クラ。じゃあ私があげた2つタイプだと、仲居間さんは典型的な『ミュージシャン・タイプ』だと思わない?」
「へっ?はぁ、まぁ、そうッスかね?敢えて、どちらかを選ぶとしたら、確実にそうッスね」
「じゃあ、もう1つ。仲居間さんって、あまり人に頼るのは好まないと思うんだけど……この辺はどぉ?」
「まぁ確かに奴は、昔から人に頼らず、なんでもかんでも1人でやっちまいますね」
「だよね。でも、その行為が、バンドに良い影響を及ぼすとは限らないの……寧ろ、そう言うタイプの人は、逆に動く事の方が多いのよ」
「うん?一体そりゃあなんッスか?」
「バンドのメンバー間で不信感が生まれるんだよ」
「へっ?なんでまた、そんな事になるんッスか?」
「ナンデモカンデモ自分1人でやっちゃうもんだから。メンバーにしたら『アイツには自分達が必要ないんじゃないか?』って、残念だけど疑問に思ちゃうのね」
「そりゃあまた贅沢な話ッスね。人にやって貰って置いて、疑問に思うって……それだと崇秀の馬鹿、あまりにも報われないッスね」
酷い話だが、彼女の話は上手く的を得ている。
長い付き合いの俺でも、それを奴にしばしば感じる瞬間が、今までにも幾度となくあった。
アイツの自分に対する『完璧』さは、少し異常だ。
まぁ奴の場合、無理矢理それを他人に押し付けたりしないから別に良いんだが。
捉え様によっちゃあ、この奴の行為すらも、相手にとっては馬鹿にされてるとも取られかねない。
だからアイツはいつも、それを言葉に出すと問題が生じる事を熟知しているので、下手に言葉にはせず、直ぐに単独行動をする。
これはアイツが、他人に期待しない証拠だ。
奴は、自分の力しか信じていない。
それ等が、他のメンバーにとっては苦痛になる訳か。
そう考えると、少し可哀想な奴だな。
「だね……あぁでも、これは私の勝手な想像だよ」
「まぁそうッスよね。……けど、それが現実だとしたら、バンド自体はどうなるんッスか?」
「異常にメンバーの入れ替わり、立ち替りが激しいバンドになるだろうね」
「ナンデモカンデモ自分1人でやって、完璧を求めた結果がこれとは、なんとも報われない話ッスね。……その上、バンド仲間には裏切られる訳でしょ。なんか言い様のない不幸さッスね」
「うん。でも、これがクラの勝てる方法の詳細。彼の唯一の弱点とも言えるかな」
「はぁ、なんともまぁ」
『弱点を突くしか勝てない』って言うのは、なんか悲しいもんだな。
俺個人の意見としては、正面からブチ当たって、砕けるのかor砕くのか……そんな風が良かったんだが。
まぁ、現状じゃあ、そうも言ってられないらしいな。
アイツに勝つと言う事は、きっと、そう言うやり方しかないんだろうな。
少し同情したが、結局はアイツが『化物』である事には、なにも変わりない。
奴に勝とうと思うなら、矢張り、手段は選んでられないんだな。
「まぁ取り敢えず、崇秀の件は置いておくにしても……メンバーの件は、奈緒さんが言う様に、そう簡単に優秀な奴って集まるもんなんッスか?」
「う~ん。そればっかりは巡り合わせだからね。なんとも言えないけど……でも、きっと、クラの音楽が気に入って、一緒にやりたいって人は、必ずどこかに居る筈だよ」
「だと良いんッスけどね」
まぁ今の状態で、そんな事を考えても仕方が無いないな。
まだこの話はするには、俺の技術が足りなすぎる。
「……私で」
「はっ、はい?」
「……私で良かったら、仲居間さんを倒すのを手伝ってあげようか?」
「奈緒さんがッスか?」
「嫌……かな?私もね、今の話を聞いてたら、なんか『仲居間さんに勝ってみたいな』っとか思っちゃって……」
奈緒さんは俯きながら、ポソポソとトンデモナイ事を言い出した。
勿論このありがたい奈緒さんの申し出は非常に嬉しいんだが、実際の心境としては複雑だ。
当然、奈緒さんほどのユーティリティ・プレイヤーが仲間になってくれるのは有り難い。
これは正直、喉から手が出るくらい美味しい話だ。
……けど、そう思う反面。
奈緒さんが、俺みたいなド素人と組んだら、今まで築きあげてきた彼女の実績はどうなるよ?
明らかに崩壊して、彼女自身、最初からやり直しを余儀なくさせられる。
要するに、この申し出は、俺にはメリットが多い分、彼女にとってはマイナス要素にしかなり得ないって話なんだよ。
第一、奈緒さんは今現在バンドに在籍している。
それに今在籍している『JazzR』は演奏のレベルが高い。
なら、俺なんかとやるより、そっちでPLAYした方が技術の向上にも繋がるだろうし、それは、後々の彼女の為にもなる。
だったら、この申し出を断るのが筋ってもんだ。
っとまぁ、本来ならそう言い切りたい所なのだが、実際は、この決断を決め兼ねている自分がいるのも事実。
頭で思うほど、心は割り切れてはいない。
これが彼女の申し出に、ハッキリ答えられない理由だ。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
奈緒さんの考える崇秀への打開策は『戦隊物の様に信じれる仲間を集めて崇秀を袋叩きにする』と言う物だったみたいですね。
まぁある意味、理には適っていると思います(*'ω'*)
そして突然、そんな彼女から『倉津君の仲間に成ってあげる』と言う提案。
倉津君は、この提案をどうするのでしょうね?
それは次回の講釈と言う事で……(笑)
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!