最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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170 不良さん、音合わせに困る

公開日時: 2021年7月26日(月) 00:21
更新日時: 2022年11月30日(水) 13:21
文字数:4,390

●前回までのあらすじ●


 追試も終わり。

楽屋での、メンバーの調子も確認できた。


さぁ、次は音合わせ。

 先に会場入りした3人は、すでにライブでの音響調整が終わっている。

まだ終わってないのは、馬鹿劣等生組の俺達2人ぐらいのもんだ。


俺はハードケースからフェンダーを、ゆっくり取り出し、音響機材との音合わせの準備を始めた。


その間に山中は、さっさとドラムの椅子に座り、先に音合わせをする。


因みにだが、俺がノロノロしているのには理由がある。

俺は、こんな音合わせとか言うのをするのが初めてだから、実は勝手がわかっていない。


前のライブの時も、嶋田さんの時は急遽乱入。

更に2部の時にしても、崇秀の馬鹿な勧誘のせいで、変に悩んでしまい。

矢張り、この音合わせと言う行為は行っていなかった。


故に、どうして良いか解らないので、まずは先に、山中にやらそうって腹だ。



「音響さん、ほんだら、一丁頼むわ」

「はい、どうぞ。じゃあ、軽く音を出して下さい」

「はいよぉ~」


山中は、ドラム全てを一旦叩く。



「うん?なんやこれ、誰か先持って仕上げてくれてたんかいな?」


山中は、そんな事を言いながらキョロキョロして誰かを探す。


そして、その視線は、一方向に定めを付け停止。

視線の先には、山中に向かって、手を振る奈緒さんの姿があった。


なんだ?



「……あぁ、奈緒ちゃんか。ほんだら、なんも問題無い。このままで良ぇわ」

「はい、お疲れっす」


えっ?おわり?


オイオイ、これじゃあ、なにやったかサッパリわかんねぇぞ。


ヤバイ……こりゃあ早速ピンチだ!!



「じゃあ次、ベースさんお願いします」

「あぁ、ウッス、ウッス」


わかんねぇな。


……なにすんだ、これ?


まぁ取り敢えずは、山中みたいに音出しゃ良いんだろうな。



俺は勝手も解らないまま、ベースを適当に弾いてみた。



「こんな感じで、どうですか?」

「あっ、あぁ、良いんじゃないッスかね」

「へっ?ちょクラ。ホントに、それで良いの?」

「えっ?なんか問題でも?」


ヤバイ……奈緒さんの様子からして、俺、なんか間違ったみたいだな。


奈緒さん、慌ててコッチまで走って来たぞ。


これって、そんなに酷い間違いでもしてるのか?



「いや、別にね。それで良いんなら、良いんだけど、少し音が小さくない?」

「そうっすかね?」

「それに曲構成とか、君、ちゃんと考えてる?」

「いや、あの、弾くだけじゃダメなんッスか?」

「あぁ、やっぱり……」


あぁ、完全に解ってないのがバレたな。


みっともねぇ~。



「あのね、クラ。一応、この音合わせって言うのは、このライブ会場と、曲との相性をチェックするものなの。自分が『どういう音を出したいか』って言うのを音響スタッフに伝えて、調整して貰うものなのよ……わかった?」

「あぁ、そう言う事ッスか……けど、あんま俺、そういうのわかんねぇッスよ」

「あっ、そっか……しょうがないなぁ。じゃあ、ちょっとベース貸してみ」

「ウッス」


言われるがまま、俺は、奈緒さんにベースを手渡した。



「えぇっと……クラの弾き方だと。確か、こんな感じだよね。だとしたら……あっ、すみません、お願いします」

「どうぞ」


奈緒さんは、ベースの高音と低音を繰り返し弾き、なにかをチェックしている。


勿論、俺には、なにをしているかすら解らない。



「もぉこのベース、相変わらず、ややこしいなぁ。……あっ、すみません。もう一回お願いします」

「はい、どうぞ」


少しベースを調整して、奈緒さんは、再び弾く。



「もぉ違うなぁ。すみません、ちょっと、上げて貰って良いですか」

「わかりました。……どうぞ」


今度は、音響に注文を入れて、再度弾く。



「こんな感じかなぁ……あぁ、これでOKです」

「お疲れ様ッス」


おっ、なんか終わったみたいだな。


なにも解らない馬鹿者は、奈緒さんに、毎度ご迷惑お掛けしてます。


すんません……



「はい、クラ」

「すんません、奈緒さん」

「良いよ。クラの為だもん♪」


奈緒さんは、イヤな顔1つせず俺にベースを渡して微笑んだ。

しかも『♪』付き。


今日の奈緒さんは、本当に機嫌が良い。


しかし、その分、俺は、彼女とは対照的に、かなり虚しい気分になっていた。

なんも出来てねぇってのは、こんなに辛いんだな……



「それにしても、相変わらず、難しいベースだね。前にも1度ライブで使わせて貰ったけど。よくこんなの、普通に弾けるね」

「ホント、すんません」

「あぁ、私は、別にクラを責めてる訳じゃないんだよ。『よく使いこなせてるね』って褒めてるの」

「いや、ホント、俺なんか、なんも出来てねぇッスよ。奈緒さんには迷惑掛けっぱなしッスからね」

「そっか……じゃあクラは、私が思っているよりも凄いのかもね」

「はぁ?なんでそうなるんッスか?」


わかんねぇなぁ。

なんで、なにも出来てないのに『凄い』なんて言葉が出て来るんだ?


奈緒さんの言葉は、相変わらず難しい。



「私、クラが、このベースを買った時に言わなかったっけ?『フレットレスは慣れないと弾き難い』って。なのに君は、なにも出来てないのにも関わらず、このベースを使いこなせてるんだよ。それなら十分凄いじゃない……違う?」

「いやいやいや、なんで、そんな大層な話になるんッスか?俺は、ただ単に、必死こいて弾いてるだけであって、実際は、弾けてるかどうかなんて、自分じゃわかんねぇッス。大体にして『使いこなしてる』とか言われても、前のZemaitisと、このフェンダーしか、俺、ベースを弾いた事ねぇッスから、実際は、比べ様が無いッスよ」

「ハァ……もぉ君は、相変わらず、変な所だけは謙虚なんだね。良いじゃない、私が弾けてるって言ってるんだからさ……それとも、私じゃ信憑性が無い?」


馬鹿言っちゃいけませんよ。


他の奴が『弾けてる』って言っても、なんとも思わねぇッスよ。

けど、奈緒さんがそう言ってくれるなら、それは信用に値する言葉です。


第一、俺はアナタと一緒にバンドがしたいから、ベース弾いてるだけなんッスよ。


だから、その言葉、ありがたく頂戴するッス。



「なに言ってんッスか?俺が、奈緒さんの言葉を信じないなんて事が、ある訳ないじゃないッスか」

「そっ。じゃあ、私を信じてみ」

「ウッス」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


あれ?なんか奈緒さん黙っちまったぞ。


……けど、これは、これで良い感じだよな。

ある意味、良い雰囲気だと思うし。


このまま、もうちょっとだけ、奈緒さんとの空間を愉しむのも悪くないかもな。



「……ハァ~~~……もぉ君は、どうして雰囲気ってモノを感じないのよ?」

「へっ?なんで、そうなるんッスか?今、俺、滅茶苦茶良い雰囲気だとか思ってたんッスけど」

「ハァ……あぁっそ。鈍感なクラに、色々求め過ぎる私が悪いのかなぁ……」


グハッ!!コイツは、中々傷付くセリフだな。


……とは言ってもなぁ。

高校生の奈緒さんに何か求められても、要求通りの事をして上げれないのも事実なんだよなぁ。


俺が精々浮かんでくる選択肢は2つ位しかないしな。


それも……

①奈緒さんの頭を撫でながら『ありがとう奈緒』って言う。

②奈緒さんに不意にキスして『ありがとう奈緒』って言う。

の、ギャルゲーに出てきそうな、へちょい2択。


しかも、それを実行した場合、ステージ上だから、他人の眼に晒される。


①ならまだしも、俺にとっちゃあ②はハードルが高過ぎてとても無理。


……かと言ってなぁ。

①を選択した所で、絶対に彼女は満足しない。


それ程、奈緒さんの要求は、俺にとっては難しい。


せめて、崇秀の様に『羞恥心が無ければ』①でも②でも可能なんだろうけどな。

恐らくアイツなら、それ以上の事ですらも平気でやってのけやがるだろうしな……



「いつも、すみません、奈緒さん」

「えっ?えっ?なにを本気で凹んでるのよ?こんなの、いつもの冗談じゃない」

「けど、俺……奈緒さんが、なにをして欲しいか、全然わかんねぇんッスよ。自分の大事な彼女なのに、情けねぇッス」

「ホント、君だけは……」


奈緒さんは、背中から俺の体に全身を預け、自分のお腹に俺の手を持っていく。


そこで1言だけ……



「なにもしなくて良いから。1言だけなんか言ってみ……但し、野暮な言葉だけはお断りね」


また難儀な事を……


そんなもん、俺が出来る事と言えば、1つしかないじゃないッスか。



「ありがとう……奈緒」


俺は、結局、そう言う事しか出来なかった。


流石に、此処までして貰って『~さん』付けは出来無い。


でも、ホントに、この程度で、彼女は満足してくれたのか?



「良いよ。クラは、いつでも私を頼ってくれれば良いんだよ。……うん、凄く良い。こう言うのも好きだよ、私」

「奈緒さん……」


俺の手は、自然に奈緒さんのお腹から離れ。

気付けば、彼女の頭の上を撫でていた。



「あっ……コラ。なにもしなくて良いって言ったのに」

「えぇっと……そろそろ、リハして良いかな、お2人さん?」

「ホンマ、えぇ加減にしてくれ。此処は、宝塚歌劇団の舞台やないで……それに奈緒ちゃんエロ過ぎや。俺のちんこがビンビンになってまうわ」

「はは……」


ぎゃあぁぁぁぁあぁぁ~~~!!またやっちまった。


なんで俺って、こう直ぐ、周りが見えなくなっちまうんだろうな?

さっきまで、ちゃんと周りの眼を気にしてたって言うのに、なんでこうなった?


つぅか。

嶋田さんは、困り果てた顔をしてるし。

山中は、恒例のからかい。

素直に至っては、引き攣った笑いを浮かべてるし……


それに……ウチのバンドのメンバーはおろか、周りに居るスタッフにさえ『クスクス』笑われてるぞ。


アホ過ぎるな俺……



けどな。

言い訳する訳じゃねぇんだけどよぉ。

奈緒さんって、天然フェロモンが出過ぎなんじゃないか?


彼女のフェロモンは、なにをどうすれば良いか、自然に語って来るんだよ。


あぁなんつ~か。

解り易い例を挙げればだな。

奈緒さんのフェロモンには……ある種、崇秀のギターみたいな効果が有るんだよ。


それが自然に出ててみろよ。

そんなもん、ヘボ中学生の俺には、なんの抵抗も出来ねぇつぅ~の!!


あっ、答えは、これだな。

これだったんだな。



「いやいやいやいやいやいやいや」

「あっ、そっか。うん、じゃあ、はじめよっか」


再び、グハッ!!

なんなんだよ、この奈緒さんと、俺の反応の差は……この俺のヘチョイ反応とは別に、奈緒さんのこの堂々とした態度。



「そっ、そやな」


流石の山中も、この、なにも懲りていない奈緒さんの反応には対応出来てねぇでやんの。

この程度の事で反応がしきれてないなんて、実は、オマエも大した事ねぇんだな。


へぼ仲間だ、ヘボ仲間。

オマエも俺と共に、ヘボ地獄に落ちろ。



「ん、じゃあ、やろやろ」

「全然知らなかったけど。凄い子だったんだね……向井さんって」


おっ、嶋田さんも対応しきれてないぞ。


Yes Yes!!

俺達男連中は、全員ヘボ決定!!


嶋田さんも、一緒に落ちましょうね。


ヘボ地獄に……



さて……

っとなると、最後の砦は素直か……


それにしても、今日の奈緒さんは、かなり強引だな。

以前、崇秀にケチョンケチョンにやられた面影なんてものはありゃしない。


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございました<(_ _)>


ってか、音合わせの後に、ステージ上で何をやってるんですよね、この2人だけは(笑)


そしてその後、更に奈緒さんは、素直ちゃんに何かを仕掛けようとしている様子。

このおねえさんだけは、なにをしでかすつもりなんでしょうね?


それはまた、次回の講釈。


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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