●前回までのあらすじ●
倉津君と山中君のアホコンビが、追試を受ける事に成ったのですが。
勉強が出来ないアホな2人は、テストを盗んで、その場を取り繕うとしていた。
でもそれが、素直ちゃんの口から奈緒さんにバレてしまい軽蔑される。
でも、そんなアホな2人にも、奈緒さんと素直ちゃんは手を差し伸べてくれ、奈緒さんが一人暮らししている家で勉強する事に成った。
そして、みんなで家についてから、山中君は余計な事を言って、奈緒さんにノートで叩かれてポコポコにされました。
そんな惨劇が起こった和室で、俺達は各々席に着く。
俺と、山中が並んで座り。
その前には奈緒さんと、素直が座る。
まるで既に、頭の良さを格付けされた席順だ。
そんな中、奈緒さんは、一旦、席に着いたものの、直ぐに立ち上がって、こんな事を言った。
「ところでアリス、今日、時間は、何時まで大丈夫?」
「あっ、あの……向井さんが良ければ、何時まででも」
『何時まででも』って事は。
素直の奴、最初から奈緒さん家に泊めるつもりだったのか?
あぁだからか。
だから、あんなに荷物が多かったんだな。
納得いった。
「うん、わかった。君は、ホントに用意が良いね。でも、よくご両親が許してくれたね。アリスん家って、そう言うの、かなり厳しそうじゃない?」
「あっ、あの、ウチの両親、勉強とかだったら、お泊りも許してくれるんで」
「あっ、そうなんだ。ふ~ん……じゃあ私、先に夕飯の準備をしてくるから、アリスは、そこの馬鹿2人の勉強、ちょっと見て貰ってて良い?」
奈緒さんの手料理が喰える♪
これはきっと、俺が勉強に立ち向かう為の、神様とやらの粋な計らいだな。
まぁ、そうは上手くいかないとは思うが……きっと、また何か有る筈だ。
「あっ、はい……あっ、でも、泊めて貰うのに、なんかそこまでして貰ったら……」
「良いの、良いの。そこの馬鹿2人に勉強教える方が、ズッと大変なんだからさ。だから気にしないで良いの」
「あっ、じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん……じゃあ、ちょっと買い物に行って来るね。アリスと、私の分だったら、冷蔵庫に有る物でも事足りるんだけど。その馬鹿二匹は『餌』をタップリ食べそうだからね」
『餌』って奈緒さん……
「あっ、はい。じゃあ、お願いします」
素直まで『餌』で納得なのか?
『奈緒さんの手料理』=『人の尊厳+勉強』
これが噂の『等価交換』って奴なのか?
俺と山中は、畜生レベルの扱いをされた上に、勉強して初めて口に出来る代物なんだな。
なら、必要以上に期待してるぞ神様とやら。
もし、奈緒さんの手料理が不味かったら、日本全国の宗教関係の場所を、織田信長バリに『焼き討ち』すっからな!!
そうやって既に、勉強より、奈緒さんの手料理に眼がいってる俺。
「それじゃあ、始めますね」
この素直の言葉に『ハッ』っと我を取り戻し、気分を勉強をする方向に転換していく。
何所まで出来るかは、勿論、未知数だがな……
***
勉強を始めて約1時間。
素直は、馬鹿でも解る様に、かなり適切に勉強を教えてくれている。
内容は、こんな感じだ。
『現国』
漢字を除く解答の全てが文面に有り。
出題者が好む解答を繰り出すだけで、点数は取れる。
故に読解力が、鍵だそうだ。
『古文』
上記と同じなのだが。
古文を解読する手法さえ理解してしまえば、簡単に解ける。
此処は、読解力よりも手法を重点的に置く。
『数学』
計算間違いをしない事と、数式を憶えるだけ。
俺は基本的に計算をあまり間違えないので、図形の計算方法を覚えろとの事だ。
『英語』
単語のスペル及び文法。
基本はスペルに置き、後は並べ方。
俺の場合は、会話が出来る為、スペルを優先的に憶える。
『現社』
『M.P.L.A.アンゴラ解放人民運動』と言う様な訳語と、年表を憶えるだけでOK。
要は暗記だな。
『歴史』
同じく年表・人名を覚えるだけ。
こちらも暗記だ。
『理科』
記号や数式を憶える。
これもまた暗記だ。
……暗記が多いな。
っとまぁ、簡単に解答を導き出す為の手法を、説明してくれた訳なんだがな。
これがまた……言うに安し、やるに難し、それが即座に出来れば、誰も勉強なんかで苦労はしない。
第一俺には、どの教科も憶える事が多過ぎて、どれから手を付けて良いのかすら、全く見えてこない状態で彷徨ってる。
実際は、その程度しか素直の話を理解出来なかった。
矢張り『馬鹿の一夜漬け』では、根本的に話にもならないらしい。
そこでだ。
急に横で勉強をしている馬鹿の相棒である山中が気になる。
これ自身は、自分だけ出来無いのは、あまりにも情け無いからだ。
だがなぁ。
そちらを見てみると……山中は、思った以上に、素直の説明が納得出来ている様子だ。
素直の教科書やノートを借りながら、彼女がマーカーペンでチェックした所を、必死に写している。
普段から少しでも勉強してる奴と、全く勉強しない奴の差が、此処で顕著に現れ始めた。
……こりゃあ、まいったな。
俺は、イマイチ、何をして良いか解らないまま。
素直に借りた別の教科書を眺めているしか出来無いまま、時間だけがドンドンと過ぎて行った。
「あの、真琴君。僕の説明じゃ解り難かったですか?」
「いや、そんな事ねぇぞ。言ってる自体は、なんとなくはわかってるんだがな。どうにも、何をどうやって良いものか、全く見当も付かねぇ状態なんだよな」
「ごめんなさい……きっと、僕の教え方が下手なんですね」
オイオイオイオイ。
心配しなくても、そんな事は全然ねぇってばよ。
「違う違う。そうじゃねぇよ。こんなもんはな。俺が、普段から勉強してねぇから、わかんねぇだけの話だ」
「あっ……」
いやいや、ホント、大丈夫だって素直。
オマエの教え方は、なにも間違っちゃいねぇ。
寧ろ、どちらかと言えばだな。
一般の学生が聞けば、親切丁寧で、解り易い説明の筈だ。
ただ、その解説を聞いても理解出来無い俺が、どうしようもない馬鹿なだけだ。
だから、オマエが凹む事なんて何も無いんだぞ。
そう思ったので、早速、素直をフォローしようと思ったら……
「ハイ。じゃあ、ちょっと手を止めて、そろそろご飯にしよっか。……人間の集中力なんか、1時間も続かないんだからさ」
奈緒さんが、ご飯の用意を終わらせて、部屋に戻って来た。
「ウッシャ!!飯や!!」
しかも、その声に反応するが如く。
余裕が有るのか山中は、即座に奈緒さんの言葉に反応する。
だが、俺は、とてもそんな気分じゃない。
それに手料理だとか浮かれてる場合でもない。
折角、素直が教えてくれてるのに、まだ、なんの成果も出せていないんだからな。
馬鹿なのにも、困ったもんだ。
どうしようにもねぇな。
「奈緒さん……俺、奈緒さんの飯を喰う程、何も出来てねぇッスよ」
「ふ~ん、そうなの。どれどれ見してみ」
ほぼ何も書かれていないノートを彼女に手渡す。
「あぁ、これなら大丈夫。思った以上に出来てる」
「へっ?なっ、なんでッスか?俺、素直が言った事を、なんにも理解出来てないッスよ」
「ふふっ、良いから、良いから。そんな事よりも、クラも先にご飯食べなよ。……カズ、君の方はどぉ?」
「はいよ」
山中も、奈緒さんにノートを手渡す。
奈緒さんは、俺の時とは違い。
ノートを指でなぞりながら、キッチリとチェックしている。
「うん、まぁ大丈夫かな。カズも、ご飯を食べて良いよ」
「オッシャ!!ほな喰うでぇ」
奈緒さんが言葉を発すると同時に、山中は勢い良く飯を食べ始める。
けど、俺はと言えば……
一応、お許しが出たから、飯を喰ってはいるんだが。
今の俺には、奈緒さんの手料理の味すら殆ど解らない状態。
ただ箸を使って、口に物を運んでるに過ぎない。
折角作ってくれたのに、こんなんじゃあ奈緒さんに申し訳ないな。
「はい、アリスも食べて」
最後に素直に、奈緒さんが箸を渡した。
「あっ、はい。すみません。頂きます」
「っで、どうだったアリス?」
「……あの、向井さん、少し言い難いんですけど。このままじゃ真琴君が、少し……」
素直は、俺に聞こえない様に、小さな声で話してくれてるみたいなんだが、それだけに余計に耳に入る。
その気を遣ってくれてる態度が、また俺にとっては、スゲェキツかったりするしな。
これじゃあ尚更、食い気も無くなれば、箸も全然進まない。
「そっか。そう言う判断ね。けど私は、あれで、十分だと思うよ」
「どうして……ですか?それって、真琴君に対する信頼ですか?」
「うぅん、違うよ。これは信頼じゃなくて確証」
「確証……ですか?」
「そぉそぉ。……良いアリス、普段のクラは、誰に何と言われ様とも、絶対に、勉強なんてしない様な子なんだよ。それが君が教えただけで、少しでもソッチを向く様になった。これだけでも十分な進歩。確証に至れるよ」
「そうですか。でも、テストは明日なんですよ。少し進歩したぐらいで、大丈夫なものなんでしょうか?」
「そうだね。大丈夫なんじゃない。……後は、如何に興味を持たせるかがポイントなだけだし。この子ってね。凄い単純だから、それだけで点数は取れる筈だから」
「でも、どうやって、真琴君に興味を……」
「アリス……それは、ご飯の後で教えてあげるから、先にご飯食べなさい。冷えると美味しくなくなるよ」
「あっ……ごめんなさい。折角、作って頂いたのに。あの、直ぐに頂きます」
そう言って素直は、漸く食事を始めた。
「……美味しい」
「そっ、良かった」
旨いんだ。
俺には今現在、味覚が無いからわからない。
ただ食べているだけに過ぎないから、良くはわからねぇけど。
ヤッパリ、奈緒さんの飯は美味いんだな。
「向井さん……」
「うん?なに?どうかした?」
「向井さんは、どうして、そんなに何でも出来るんですか?」
「さぁ?なんでだろうね。……まぁ言うなれば、家庭の事情かな」
「あの……ご両親が家に居られなかったとか……」
「あぁ違う、違う。そう言うんじゃなくてね。ウチの家ってね。ちょっと複雑なのよ」
「あっ、あの、ごめんなさい。立ち入った事まで聞いちゃって」
「あぁ、気にしなくても良いよ。私が、全然、気にしてないから」
「……ごめんなさい」
聞いちゃいけない事を触れてしまった素直は、それを自覚して落ち込んだ。
「くすっ。ほら、そんな事は良いから、ご飯食べて……残したら許さないんだからね」
「あっ、はい」
そんな素直に、奈緒さんは微笑んでいる。
素直も、そんな奈緒さんを見て、照れたまま箸を進めている。
……にしても、この人、本当に優しい人だよな。
つい、この間まで、素直の事で、結構揉めていたって言うのに……中々此処まで、人を受け入れられるもんじゃないぞ。
この後30分程、ご飯を食べさせて貰い。
奈緒さんが後片づけをしている間に、俺は、今の自分が、一体なにをすべきなのか模索し続けた。
最後までお付き合いくださいまして、誠にありがとうございますです<(_ _)>
まず勉強をするにあたって、一番必要な事は、興味を持たす事なんですね。
この心構えが出来ていないと、どんなに上手く教えて貰っても「馬の耳に念仏」
何をやっても、頭に入って来る事はありません。
恐らく、その辺を考慮した上で奈緒さんは、最初に素直ちゃんだけに勉強を見させた所が見受けられます。
さてさて、そんな奇妙な勉強の仕方でスタートしたのですが。
次に奈緒さんは、どんな手を打ってくるんでしょうね?
それはまた次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
倉津君は勉強しなさい(*'ω') (;∀; )嫌だぁ~~~
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