●前回のおさらい●
沙那ちゃんの演奏技術は卓越したものだったが。
ズッと1人で練習を続けてきたのが仇となったのか『音の協調誠意は欠けていた』
そう感じた倉津君は……
そんな訳で俺は、一旦、沙那ちゃんを膝から下ろし、椅子に座らせてから、即座に康弘の元に移動。
そして、これまた即座に交渉を開始する。
「康弘、悪ぃ。ちょっとベース貸してくんねぇか?」
「良いけど。なんに使うんだい?」
「野暮な事を聞くなぁ。今、聞こえた演奏を聞きゃ、なにをするかぐらい解んだろ」
「あぁ、そう言う事。なら喜んで、お貸しするよ」
そう言いながら康弘は、ハードケースからベースを取り出し、アッサリと『Zemaitis』を手渡してくれた。
しかしまぁ、久しぶりに持ったが、相変らず、ズッシリと良い重量感のベースだな。
しかも、俺が始めて触ったベースだから、妙に懐かしいな。
***
……そんな感じで。
これまた即座に、沙那ちゃんの居る席に戻って来たんだが……
なにやら沙那ちゃん以外にも、妙に期待を載せた視線が集まって、注目されてんぞオイ!!
なんじゃい!!
オマエ等なにを見とんじゃい!!
見世物とちゃうぞ!!
「クラッさん、なにすんだ?」
出たよ。
毎度毎度のイラン事言いのイケメン王子様が……
黙っとけやカジ!!
「やかましいわ。俺が、なにをしようと俺の勝手だろ。いちいちオマエに報告する義務はねぇな」
「うわっ!!冷てぇなぁ。なにするかぐらい教えてくれよ」
「アホか。特別な事は、なんもしねぇつぅの。黙ってろ、無駄なイケメン野郎!!」
「無駄なイケメンって……」
じゃあ『黙れ、意外と存在感の薄い無意味なイケメン野郎』っで良いな。
オマエは、俺に余計な干渉をしようとせずに、千尋と交尾する事だけを一心に考えてオナッてろ。
もし言う事を聞くのであれば。
今年のお歳暮として、駅前で配ってる無料ティシュをくれてやるからよ。
存外にハッスルするが良いぞ。
「さて、うるさいのも片付いたし。ちょっと一緒に弾いてみようか」
「うん。でも、なにを弾けば良いの?」
「沙那ちゃんが弾きたいものならなんでも良いぞ」
「弾きたいもの?……ないよ」
無いのか。
それは、あれか?
あまりにもレパートリーが多過ぎて、どれを選曲して良いか解らないからか?
「じゃあ、好きな曲とかは無いのか?」
「ないよ。音楽なら全部好き」
「そうか。じゃあ、迷っててもしょうがないから、こう言うのはどうだ?」
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「ジャズかぁ。だったら、こんな感じかな」
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あぁ、やっぱりな。
基本的にリズム感も良いので演奏については抜群なんだが、人に合わせた演奏をするのだけは、余り上手くないな。
なら今回は、コッチから、沙那ちゃんの演奏に合わせてやるとするか。
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沙那ちゃん、気付いてくれるかな?
「あっ、あっ、凄い凄い!!沙那の音が、なんかプロみたいな音がしてる」
おっ、即座に音の違和感に気付いたみたいだな。
これについては『流石だな』っと言った所だな。
「だろ。こう言うのも楽しいだろ」
「うん♪うん♪凄い楽しい!!音が綺麗にフュージョンして、自分で出してる音じゃないみたい」
「だよな。これが、他人と感覚だけで弾く、適当な音楽って奴だ」
「適当な音楽?そんなのあるの?」
「有るも、なにも、今、現にやってるじゃん」
「あっ、そっか」
まずは、小手調べのつもりでやったんだが。
なんだか無邪気に笑いながら、楽しそうに演奏してるな。
だったら、余計な事を考えず。
この即興を続けながら、もぅ一丁、軽く助言してみっかな。
「……でな」
「うんうん。今度は、なになに?」
「そこにな。他の人が、どんな風に演奏するか考えてみ。そうすりゃあ、もっと楽しくなるかも知れないぞ」
「他の人の演奏?……あぁ、うんうん。想像しただけで、凄く楽しそうだね」
「それがバンドの醍醐味ってもんだ。1人で演奏してるより、みんなで演奏した方が楽しいだろ」
「うんうん。絶対の絶対に、そっちの方が楽しそうだよね」
解ってくれたかい?
糞真面目に弾く演奏もありゃ、超適当にフィーリングだけで弾く演奏もある。
こう言う即興の楽しみ方も、憶えて置いて損は無いと思うんだよな。
まぁ勿論、早い内から、ギターのテクニックに磨きを掛ける事に集中するのも良い事なんだけどな。
こう言ういい加減で、適当な、気晴らし的な音楽の存在も知って置かないと、いずれ壁にぶち当たった時、楽器を弾くのに嫌気がさしかねないからな。
それにだ。
1人で淡々と弾いてても、1人の感性じゃ限界が有る。
限界突破を図るなら、みんなの感性を分けて貰う事も大事だしな。
・・・・・・
まぁ……こう言う音楽の楽しい感覚を、最初に教えてくれたのは、奈緒さんだったな。
しかも、基本を教えて貰ったのも、このベースだったな。
なのに、今は、その奈緒さんとは決別。
なんで、こんな事に成っちまったんだろうな?
……なんて、少々ノスタルジックな気分に浸りながら、適当なジャズを弾き続けて居たら。
「倉津君……良かったら、僕にも変わってよ」
……って、珍しく康弘が、いの一番最初に言ってきた。
この様子じゃあ。
今の沙那ちゃんの演奏に、なにか感じるところでも有ったんだろうな。
けど、これはまたとないチャンスだな。
沙那ちゃんには、俺以外にも色々な人の感性を体感して貰うに越した事はないからな。
だから俺は、問答無用で……
「おぅ、良いぞ」
直ぐにベースを康弘に返して、演奏を変わってやった。
すると、そんな康弘を皮切りに、矢張り、人がゾロゾロと沙那ちゃんの周りに集まって来て、即興を申し出てくれる。
この辺は、音楽関係者が多く集まってる集会だから、功を奏したって所だな。
良い感じだ。
「じゃあ、沙那ちゃん。ちょっと、みんなに遊んで貰いな」
「うん♪」
子供は、素直で良いですな。
けど、みんなと演奏をして楽しくても、オィちゃんの事を忘れないでおくれよ。
***
そうやって、沙那ちゃんを中心に、みんなが大きな盛り上がりを見せてる中。
俺は出来るだけ目立たない様に端の席に座り。
誰にもバレない様に、一人静かに、ひっそりと身を潜めていた。
恐らく、この行動を自分自身から取ると言う事は。
さっきの演奏中に思い出した奈緒さんとの件を、少し1人で、ゆっくりしながら、頭の整理を付けたかったのだろう。
今日は色々有りすぎた……
だが、そうは上手く、考えに浸る時間を貰えないのが、毎度毎度の俺の人生。
此処に来て、凶悪な問題が飛び込んでくる。
これが前回予告で言った『訳の解らない選択を迫られる』話のスタートだ。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>
沙那ちゃんは、本当に素直な子ですな。
倉津君がした、ちょっとした助言にも反論する事なく、素直に聞き入れ。
早くも音の協調性が如何なるものなのかを理解し、楽しみながら自分の中に取り入れて行ってしまいましたからね。
そぉ……人が成長する為には、この素直な気持ちが大事なんですね。
まぁ、とは言え。
相手が間違っていると感じた場合は、素直に受け入れる必要性はないのですが。
それは、そこに『無駄な反抗心』等が無かった場合の話である事は忘れないで欲しい所ですね。
相手の言ってる事が正しいのに『コイツにだけは言われたくない』なんて思ってたら、いつまで経っても成長しませんので(笑)
さてさて、そんな風に沙那ちゃんのお披露目が終わり。
一段落ついた倉津君は、此処で、なにやら奈緒さん達の事を再考察する気みたいなのですが。
本編の最後に倉津君が言った様に、どうやら、それをさせて貰える環境には成らなかったみたいですね。
ならば、この後、倉津君の身になにが起こるのか?
次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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