最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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105 不良さん 上手くバランスが取れなくなる

公開日時: 2021年5月22日(土) 00:21
更新日時: 2022年11月18日(金) 22:31
文字数:3,829

●前回のおさらい●


 紆余曲折がありながらも、なんとか全員がステージに上がる事が出来た倉津君達。


だが即座に、問題が発生する。

アリスに抱き着かれた時に付いた甘い香りが、彼女である奈緒さんに感づかれてしまう。


さてさて、どうなる事やら(笑)

 俺は咄嗟にベースを弾くのを辞め。

汗だくに成っているTシャツを脱ぎ、上半身裸になってTシャツを客席に投げ込んだ。


人、これを『証拠隠滅』と言う!!



「兄貴君のTシャツだぁ~~~!!やったぁ♪」

「ちょっとぉ、私のよ」

「なによ。取ったの私の方が先じゃない。アンタ、返しなさいよ」


ここでも、また訳の解らない事態が起こっている。

さっき奇跡的にも俺に声援をくれた女子達が、なんか知らねぇが、俺の汗に塗れた汚いTシャツを取り合ってるぞ?


なにやってんだ?


そんな汗クッサイものが欲しいのか?


まぁ良いか……

それよりも当面の問題は、奈緒さんを誤魔化しきれたか、どうかの方だ。


まぁどうせ、無理だろうけどな。


不安に駆られて、少し彼女の方を見てみると……案の定、奈緒さんは、あの悪戯っぽい顔をしている。


この人だけは……



「モテるねぇ~~~、クラ。……早くも、私に飽きたの?」


なんて事を……


飽きるも何も、まだ付き合って2日しか経ってないんですよ。

しかもアナタはオモチャ箱みたいな人だから、次から次へと、俺の興味をそそる様な事をしてきてくれる。


飽きる以前に底が見えないし。

俺の方が、いつ飽きられるかハラハラしてるんですよ。


ホント、意地悪いな、この人……



「んな訳ないでしょ」

「ふ~ん。じゃあなんで、君の体からアリスのコロンの臭いがするか言ってみ」


ぐわっ!!マジで鋭いなぁ。

ちょっとは誤魔化せたかと思ったんだが、女の子って生き物は、どうして、こんなに鋭いんだろうな?


よくもまぁ、そんな細かい情報までイチイチ良く憶えてるもんだな。



「いやいやいやいや、違います、違います。アイツは甘い臭いが強いから、一緒に楽屋に居ただけで臭いが移ったんッスよ」


ハイ、恒例のヘタレ発動。

冷静に見えて動揺する、俺の最悪な能力が発動。


大体よぉ……『違う』って言った後に『臭いが移った』ってなんだよ?

自分で言って置いてなんだが、こんな事は、どう考えても矛盾してるじゃねぇか。


寧ろ、継ぎ接ぎだらけの有り得ない言い訳だ。



「ふ~ん。なるほどねぇ。ふ~ん」


明らかに疑ってる眼差しが、俺に突き刺さる。


そりゃあな。

こんな取って付けた様な馬鹿みたいな言い訳をしたら、誰だって疑うのも無理は無い。


それでも俺は、言い訳を重ねる。



「しっ、信用して下さいよ。奈緒さんだって、俺がアナタにベタ惚れだって事を知ってるじゃないですか」

「そうだね」


この人は……


この後に及んで、またこんな、こっ恥ずかしい事を言わせたかっただけだな。



「ちょ、奈緒さん」

「じゃあ此処で『愛してるよ奈緒』って言ってみ」


言えるかぁ~~~!!


ただでさえ、こんなライブの最中に、虚憶えのMaster Of Puppetsを弾いてるって言うのに、無理難題もいい所だ。


無理です。



「言えないって事は、やっぱり、もぉ私に飽きたって事?それとも君は、なにか後ろめたい事でも有るのかな?」


……はい。

まったく飽きた記憶はございませんが、非常に後ろめたい記憶が在るのだけは事実ですね。


別に、あの行為自体が不可抗力だから、俺には責任が無いんですが。

さっき素直に抱きつかれた事は、かなり俺的には後ろめたい気分です。


けど、此処は100%理解して欲しいんですが。

俺が、奈緒さん飽きられる事は有っても、俺から、アナタを飽きるなんて大それた事は1000%ありません。


でも、奈緒さんって言い出したら聞かないんだよな。

ホント、なんで、こんなに俺の周りは融通の利かない人間が多いんだろうな?



「いやいやいや、だからですね」

「言ってみ」


はぁ~~~、やっぱな。


こりゃあダメだ。


恥ずいけど、この場で言う方が良さそうだな……

けど、なんかこのままだと、山中や崇秀みたいな、どうしょうもない女誑しになりそうだ。


硬派な俺は、一体、何所に行ってしまったのだろうか?



「奈緒……あっ、あっ、あっ、愛してる」

「そっか、じゃあ信じる。……けどね、クラ」

「けど?」


またなんか言いそうだな。


まぁ奈緒さんの要望なら100%応えるけど……



「うん、けどね。……私って、結構、嫉妬深い所が有るから、あんまり心配はさせないでね」


へっ?奈緒さんが、俺なんかの為に嫉妬してくれるのか?


けど、妙にモジモジしてるって事は……本気なのか?


わからん?

本当に、この人は、よくわからん。


まぁでも今回、よくわかった事は『浮気』はイカンなって事だな。

不可抗力だろうと、なんだろうと、抱き付かれて少し喜んだ事実は事実だし、それに対する言い訳するのも面倒だ。


第一だな。

奈緒さんを、変に傷付けるのも嫌だしな。


ホント……気持ちだけでも、浮気はイカンな。



「返事……してくれないの?」

「いやいやいや、します、します。俺は、誓って奈緒を不安にさせないッスよ」

「そっ。ありがと、好きだよ、クラ」


かぁ~~~!!此処で言うかね。

ホント、女の子って、こう言うの上手いよな。

焦らして、焦らして、焦らし尽くして所で、タイミングよく『好きだよ』ってセリフを言うんだもんなぁ。


まぁ、結局なんだかんだ言っても……嬉しいんだけどな。



「ねぇクラ、次のイントロ、2人だけで思いっ切り弾こっか?」

「いやいやいや、んな勝手な事して大丈夫なんッスか?」

「良いの、良いの」


笑顔で、それだけ俺に伝えると。

奈緒さんは、ドラムを叩く準備に入っていた山中に向かって一回イントロの延期を催促する。


それを見た山中は、思いっ切りドン引きした嫌そうな顔をするが、溜息混じりにOKサインを送ってくれた。


俺は、少しの準備と、タイミングを見計らっていた山中には申し訳なく思ったが、奈緒さんはケロッとして言葉を発する。


強いな女って……



「じゃあ、行くよ、クラ」

「うっす」


俺の返答に反応して、奈緒さんは俺の背中に自分の体を預け凭れ掛かってくる。


彼女は比較的小柄なので、重さは感じない。

だが、彼女の俺を想ってくれている気持ちは、背中越しに伝わってくる。

それと同時に、彼女の抱えてる得も言えぬ不安感が、背中とベースの音から伝わって来た。


『俺に裏切られないか?』

『俺を信じて良いのか?』

『今現状にある最悪な家庭環境』

そんな風に、今の奈緒さんの気持ちは不安で一杯だ。


この小さい体には、何所にも安心感なんて物は無かった。


俺は本当に、この人を『不安』させないで居られるのだろうか?

軽く言ったつもりは無いが、今更ながら、自分の言った言葉の重さを痛感する……


2人で弾くイントロが終わり、奈緒さんは小さく言葉を紡ぐ。



「ありがと、クラ。……君の気持ち伝わったよ」


それだけ言うと奈緒さんは、俺から背中を離し。

自分のポジションであるマイク・スタンドの前に、ベースを弾きながら戻って行く。


ご機嫌な訳では無いが、少し何かを感じてくれたらしい。


少しだけだが俺は安心した。



此処で漸く、山中のドラムが入って来て、ライブの盛り上がりはUPする。


-♪--♪-♪-♪-------♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……



「「「「「関西人行け~~~!!関西人~~~~!!」」」」」

「やかましいわ!!そんなに関西人、関西人言わんでも関西人じゃ!!そんなもん言われんでも十分わかっとるわ!!」

「うるせぇぞ!!うんこ漏らし関西人!!なんかクセぇぞ~~~!!」

「誰が臭いんじゃ、ボケ!!第一漏らしてへんわ!!漏れ掛けや言うとるやろうがぁ!!……まぁそやけど、奈緒ちゃん出てけぇへん時は、マジで焦って漏れかけたわ」

「プッ!!コイツ、マジで馬鹿だ」


たった数曲しか演奏してないのに、山中は、いつの間にか観客と仲良くなっている。

早くもオーディエンスを飲み込み、自在にコンタクトを取れる様な仲に成ってやがるんだよな。


この光景を見たら、山中の『大阪選民思想』なのも頷ける。


しかしまぁ、関西人って奴は、どうして、こんなにも簡単に、誰とでも直ぐに仲良くなるんだろうな?

本気で『世界一人付き合いに長けてる人種』と言っても過言じゃない。


ほんとスゲェな。


だが……そう思っていられたのも束の間。

ドラムを聴きながら、奈緒さんを目で追っていた俺に、新たに1つの課題が与えられた。


その課題対象とは、素直だ。


彼女は、奈緒さんと反比例する様に、テンションがダダ落ちしている。


どうやら俺は、この様子からして、上手くバランスが取れないらしい。


確かに、今さっき自分が好きと言った相手が、その直後に彼女とイチャ付いていたのでは気分が良い訳がない。


幾ら俺が馬鹿でも、それぐらいはわかる。


だが、これは仕方がない事だ。

奈緒さんと付き合っている以上、彼女を一番大切にするのは、極々当たり前。


告白しようが、それは変わらない。


素直も、それぐらいは解っている筈なんだが……それでも、素直の悲しそうな表情が、心を痛めつける。


バンド云々より、彼女の気持ちをなんとかしてやりたい。


また、そんな馬鹿な事を考え始めていた。

奈緒さんに、さっき『不安にさせない』っと言った直後に、これだ。


俺はどこまでも、だらしない男だ。



しかし、なんで『モテ期』なんて存在するんだろうか?

こんなものが存在しなければ、誰も嫌な気持ちにならないで済むのにな。



『キュィィ~~ン!!』


イントロの途中だったのだが、突然、俺の思考を切り裂く様にギターの音が鳴り響いた。


割って入ってきたのは、言うまでもなく嶋田さん。


俺の演奏が気に入らないのか、激しいギターの音で、俺のベースの音を完全に掻き消す。

更にギターを弾いたままで、ステージを縦断して俺の方に移動してくる。


今度はなんだ?


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


なんとかアリスの臭いの件を誤魔化せたまでは良かったが。

精神的にまどろんだりして、上手くバランスが取れずにいる倉津君。


非常にドン臭いと思われるかもしれませんが、彼はまだ中学生だから、まぁこんなもんでしょう(笑)

少しマセてて、不良だとは言え、所詮は、ただのそこら辺に居る中学生と、そんなに変わらないって事ですね。


さて、そんな中、嶋田さんが倉津君に近づいて来ている様ですが。

一体嶋田さんは、倉津君から、何を感じて近づいて来ているんでしょうね?


それはまた次回の講釈(笑)


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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